一緒に作って、談笑しながら食卓を囲むことで距離が縮まる。シニア食堂は高齢者の仲間づくりにも一役かっている

 高齢者の孤独・孤立が深刻化している。東京都健康長寿医療センター研究所の調査によると、コロナ禍では「男性」「高齢者」ほど社会的に孤立した状態に陥りやすく、強い孤独感を抱えていることが明らかに。感染防止のため出歩くことが少なくなると、コミュニケーションの機会が減り、運動量も減少していく。認知機能の低下にもつながってくる。

 こうした問題を防ぐユニークな取り組みが行われている。その名も『シニア食堂オンライン』。テレビ会議アプリの『Zoom』を利用して開催され、高齢者たちがネット上で交流しているというのだ。

60代〜80代がZoomで仲間と交流!

オンライン開催で「笑いヨガ」などの体操を行うことも。/NPO法人「東葛地区婚活支援ネットワーク」提供

「シニアといっても60歳以上であれば、誰でも参加できます。月2回開催で、そのうち1回は料理家の先生による調理のデモンストレーションを実施、会員たちはその様子をオンラインで見て受講します。調理デモのあとは、心理学や歴史などのミニ講座やトークタイムで楽しみます」

 そう話すのは、主催するNPO法人『東葛地区婚活支援ネットワーク』副代表の松澤花砂さん。参加者は1回平均で約20人。ほとんどがリピーターで、総会員数は60名を超える。NPOの拠点がある千葉県流山市だけでなく、SNSを通じて広島から参加したシニアもいるほどだ。

オンライン開催時の調理デモ/NPO法人「東葛地区婚活支援ネットワーク」提供

 調理デモにあたっては、スーパーで見かけるけれど普段は手にすることが少ない食材─、例えばアボカドやアンチョビなどを使ったメニューを心がけている。

 そうした食材から刺激を受けると話すのは、参加者の塚田重さん(84)。

「料理が好きで、カミさんを手伝っていたりしたから料理に抵抗はなかったけれど、しょっちゅう作っていたわけじゃないからね。珍しい食材のときは考えちゃうけれど、逆にそこがいいのかもしれない。考えるってことは、ボケないってことだからね」

取材時もZoomを使いオンラインで実施。左から時計回りに会員の塚田さん、矢野さん、副代表の松澤さん、週刊女性のライター

 2017年の発足当初から参加している矢野東亜代さん(79)は「シニア食堂オンライン」の魅力をこう語る。

「トークタイムも楽しいし、常に誰かが笑っていて指示が聞き取れないぐらいです」

 矢野さんも塚田さんも、会員たちは自宅のパソコンでZoomを操作し参加しているというので驚いてしまう。

 いまでこそオンライン開催が定着してきたシニア食堂だが、前出の副代表・松澤さんによれば、コロナ感染拡大より前は千葉県流山市の会場で開かれていたという。

「流山市内の公民館と企業の調理室をお借りして月1回、どちらかの会場に料理の先生を招き、1回500円の会費制で開催していたんです」

 コロナ禍は、そんなシニアの交流の場にも容赦なく襲いかかる。

ハードルの高い高齢者のZoom設定はこう乗り越えた!

リアル開催時の模様。アボカドなど、シニアにとっては珍しい食材でも好評だ

「感染拡大につれ会員のリスクが増していくので、'20年2月を最後に、会場でのリアル開催は取りやめざるをえなくなりました。ただ、このままではシニアの人たちが置き去りにされてしまう。孤立した状態が続けば心身ともに衰えていくのは間違いありません。それだけは防ぎたいと思いました」(松澤さん)

 自宅にいながらシニア同士の交流を絶やさない方法として考えたのが『シニア食堂オンライン』だった。開催にあたり、テレビ会議アプリのなかでも操作が比較的簡単なZoomを利用することに決めた。ところがアプリのインストールからして大変だった。

「オンラインを利用できる会員は60名中、23~24名ほど。メールやウェブの閲覧は大丈夫なシニアでもZoomとなると敷居が高かったんです」

 そのため松澤さんらNPOのスタッフが会員ひとりひとりに電話をかけ、シニアの目の前にパソコンを置いてもらい、インストールから操作方法まで電話で丁寧に伝えていった。さらに「シニアオンラインサポーター」という養成講座を設け、これを受講したシニアボランティアに、ほかのシニアへ操作方法を教えるようにしてもらったという。

 前出の会員・矢野さんは、「間違ったキーを1つ押すとダメになってしまうところが難しい。次にどう操作すればいいのか迷うことも多い。だけど手順を書いたプリントを事前にもらっているので、それを見てなんとかやっています」と、語る。

 松澤さんによれば、操作方法を教えることは、スタッフよりシニア同士のほうがうまくいくという。

「シニア同士なら“私もそこがわからなかったわ”“それが難しいんだよね”などと言って、励まし合えるんです。同世代のほうが、教えられるほうも気楽でいられます」

 孤立防止のための取り組みはほかにもある。会員のなかにはネットを使えないシニアもいるからだ。その1つがNPOのスタッフや10名のシニアボランティアが月に1度、会員に電話をかける『ほっと電話』。「元気にしてる?」から始まり、よもやま話に花を咲かせる。

 矢野さんも電話を楽しみにしているひとりで、「発想がいいと思います。松澤さんは企画力がすごい」と話す。

 また、『シニア食堂お便り』として、健康情報やレシピなどが書かれたニュースレターも会員宅へ郵送している。

「(お便りで)献立をもらうんだけど、そのとおりにやればなかなか結構なものができるよ」(前出・塚田さん)

 さまざまな工夫を凝らし、それを実現させる熱意を注ぐことで、松澤さんらは高齢者の孤立を防いでいるのだ。

オンラインならではの意外なメリットも

 いまや高齢者の居場所となっているシニア食堂。松澤さんによれば、NPOとしてシニアの婚活支援を行っていたのが出発点だという。高齢者に着目したのは、結婚相談会の参加者に65歳以上の人が多く、全体の15%にも上ったためだった。

「最初は再婚希望者だと思っていたんです。ところが実際に話を聞いてみると、1人で食事をするのがたまらなく寂しいと語る男性が多かった」(松澤さん)

 その受け皿をつくりたいと、松澤さんらは'17年に料理交流会『シニア食堂』をスタートしたのだ。

「最初は4人から始まりましたが、少しずつ参加者が増えていきましたね。みんなと会えるのがとても楽しいです。身体の衰えやコミュニケーションなどシニアが抱える問題を全部取り入れて、時代に合った形で指導してくれるのがすごいです」(矢野さん)

やっぱり顔を合わせて話す方が楽しい

 シニア食堂が終わったあと、会員同士で喫茶店などに出かけ、“アフター”をするのが常だった。オミクロン禍で控えてはいるものの、こうした場でのおしゃべりがなによりも楽しいと矢野さんは言う。

 もちろん、現在の『シニア食堂オンライン』でもリアル開催と同じく料理指導もあるし、川柳大会などの楽しい催しもあるが、

「顔を突き合わせての開催のほうが楽しいよ。何を考えているのか顔を見ればわかるしね。画面越しとは、やはり違うよ(笑)」(塚田さん)

 こうした声を踏まえ、NPOでは4月から人数を絞ってのリアル開催と、オンライン開催の月2回実施も視野に入れている。オンラインでは名前が表示されるため、お互いの名前を覚えることができ、コミュニケーションがより深まるというメリットもあった。

「オンラインならではのよさも大切にしていきたい」と松澤さんは言う。

 会員にとって、シニア食堂は欠かすことのできない大切な存在になっている。

「月に3回あるといいなあ。それだけあると生活にリズムができます。やることがあるって大切ですよ」(塚田さん)

<取材・文/千羽ひとみ>