80代のインスタグラマー角野栄子さん

 インスタグラムやメディアへの出演などでカラフルなファッションを披露している角野栄子さん。華やかで目にも楽しいそのファッション、実は娘でありイラストレーターのくぼしまりおさんが私生活での装いを含め、トータルコーディネートをしているという。

服選びで関係がよくなった

母はもともとおしゃれを楽しむことが好きで、ファッションに対して自分なりのこだわりがありました。でも80歳を過ぎたある日“毎日のお洋服を考えるのが面倒になっちゃった”と突然、言われました。“代わりに考えてくれないかしら?”と(笑)」(くぼしまさん、以下同)

 それ以降、くぼしまさんが小物にいたるまですべての洋服選びを担ってきた。

「気づいたのは、母はおしゃれ自体が面倒になったわけではなかったということ。シニアになるとお洋服を買いに出かけたり、何度も試着をするのは体力的にも厳しくなります。そして、コーディネート自体、けっこう頭を使うから疲れてしまう。以前のように自分で選ぶというパワーが、年齢とともに落ちてきてしまうんです

 日々のコーディネートを始めてはや6年。2人でコーディネート談議に花が咲き、親子げんかも少なくなったかも、と笑うくぼしまさん。  

母親のスタイリングで母も娘も笑顔になる

 オレンジやピンク、赤といったカラフルなコーディネートの背景には、お母様に対するくぼしまさんの思いがある。

年をとると疲れやすいし、どこかしら身体の不調もあるでしょう。でも、カラフルな洋服を着ると顔色が明るくなり、元気な人に見えるんです。何よりも、明るい色の洋服は着ている本人を楽しい気持ちにしてくれます。

 私自身、母のカラフルなコーディネートを考えることが好きですし、『このワンピースに合う色の小物を見つけよう!』とふたりで家中を探し回るのも楽しいです。宝物探しのようで童心に帰りますよ」

 お母様のスタイリングをすることは、やがて将来やってくる自分自身の老後の装いの勉強にもなるとも話すくぼしまさん。

 年齢を重ねた女性だからこそ似合う、気分が上がるファッションとおしゃれのコツをこの機会に習得したい。

角野さんのクローゼットにはカラフルなワンピースがズラリ。同じ型で作っても、生地の模様や素材が違うと印象がガラリと異なるのだそう イラスト/くぼしまりお (『魔法のクローゼット』本文より)

欲しい洋服がなくワンピースを手作り

 くぼしまさんは、お母様が着る洋服を求めて多くのデパートや路面店を巡ったが、その過程で大きな壁にぶつかった。

母が望んでいるのは、きれいな色で軽くてシワになりにくい、動きやすいシンプルなワンピースでした。年齢とともに体形は変わり、関節の可動域が狭くなってしまうというのに、色味がすてきな服は細身のお嬢さん用のものばかり。

 加齢によって生じる身体の変化を考慮していて、なおかつ着ていて気分が華やかになるお洋服は、見事に見つからなかったんです

 色や柄の選択肢の少なさに、愕然としたのだそう。

いわゆるシニア向けのお店では、形は合格でも茶色や黒、グレーといった地味な色の服がほとんど。華やかさを求めたら、スパンコールがギラギラとついていたり。年齢問わず女性はお洋服を買うことが好きだと思うんですが……アイテムがとにかく少ないんです

 シニアの洋服事情を目の当たりにし、怒りすら湧いてきたというくぼしまさん。既製品を探すことはあきらめて、お母様の洋服を手作りすることに。

「洋裁ができる知り合いにお願いして作ってもらうことにしたんです。母が着やすいと言っているワンピースをもとに、試行錯誤を繰り返して、今のワンピースの型ができあがりました」

 年齢とともに変化する姿勢や体形、身体の機能などを考慮したワンピースには、さまざまなこだわりポイントがある。

身幅や肩幅はもちろん、着心地や見た目を左右するのがアームホールです。年齢とともに二の腕はサイズアップするものなので、アームホールは50cm程度あるのが理想的です。ひじが出ていると身体全体が冷えてしまうので、真夏以外は十分丈が好ましいです

 首回りにも見た目と機能性を配慮した工夫がなされている。

「年齢を重ねると首回りがやせて貧相に見えてしまうので、首元がある程度詰まったクルーネックに落ち着きました。また、腕が上がりにくくなっても簡単に閉められるように、留め具にはボタンを採用しました」

 色柄だけでなく、生地の素材選びも重要なポイント。

「洋服にアイロンをかけるのはけっこうな重労働ですから。シワになりにくく、洗濯機で洗って干すだけでシワが伸びるような生地を使うことも大切です。

 これまでの経験上、綿にポリエステルなどの化学繊維が少し混じっているものがおすすめです。寒ければインナーやネックウォーマー、小物で調整するのでオールシーズン使えます

「この色でまとめたいのに、ピッタリの小物がない」というときには家の中にあるものを探してみましょう。角野さん親子はキッチンにあるコースターや、なんとたわしスポンジまで活用 固定観念をはずして色遊びファッションを楽しんでみましょう。イラスト/くぼしまりお (『魔法のクローゼット』本文より)

洋服を着ることには色のパワーを借りるという意味も含まれる。体力も気力も衰えがちの年代にこそ明るくカラフルな色の服を着て内側から元気もチャージ。

 赤やオレンジ、ピンクなど原色や明るい色の洋服がくぼしまさんのスタイリングの基本。

春にはビビッドなピンクやオレンジの洋服を選ぶようにしている(写真/提供・角野栄子オフィス、撮影/馬場わかな)

例えば、春になるとお店にはパステルカラーのお洋服が並びますよね。でも、私は母にパステルカラーはあまり着せないようにしています。

 なぜかというと、パステルカラーはもともと原色をくすませた色なので、母くらいの年代の人が着ると肌もくすんで見えてしまうからです

 原色や明るい色の洋服にはうれしい効果があるのだ。

「明るい色を着ると肌がきれいに見えるんですね。母の場合、春にはビビッドなピンクやオレンジの洋服を選ぶようにしています。

 まわりの人たちに“元気なおばあちゃま”と思っていただけるよう、明るい色の洋服を着て、色の持つパワーを借りるんです

 原色や明るい色の洋服を着ることで、予想外のメリットを享受できることも。

「シニア世代が明るい色を着るだけで“おしゃれに気を使っているんだな”と思わせることができますよね。それがコミュニケーションツールのひとつにもなるんですよ。実際、母は外出先で女子高生に『おばあちゃん、かわいいね』と声をかけられたそうで、1週間くらいご機嫌で過ごしていました(笑)」

ワントーンにまとめてかわいくおしゃれに

 くぼしまさんいわく、カラフルな洋服をおしゃれに見せる秘訣は“ワントーンでまとめる”こと。

「母がお気に入りのオレンジ色の花柄のワンピースには、オレンジ色の無地のロングカーディガンとオレンジ色の靴下を合わせます。

 全身をオレンジ色でまとめてもそれぞれの色合いや質感が違えば、奥行きのある着こなしになるんです」

 “いきなり明るい色のワンピースはちょっと……”という人には、次のような着こなしがおすすめ。

「手持ちのグレーなど落ち着いた色のシンプルなワンピースに、赤やビビッドなピンクの靴下を合わせると、それだけで小じゃれて見えます。まずはカラフルな靴下から挑戦してみてください」

 ほかにも、ショールやスカーフ、バッグなどの小物も明るい色で合わせれば黒や茶系などの暗い色の洋服が生き生きとしてくる。

「黒ならグリーン、茶系にはオレンジを合わせるのもおすすめ。メインのワンピース以外を明るい色のワントーンでまとめることを意識してみて」

ちょっと派手な靴下やカラフルなネックレスなど、小物類は人の目に留まりやすいアイテムをチョイス。オトナ女性のファッションの質がよりグレードアップします。

「安いから」「なんとなく気に入ったから」といった理由で洋服や小物を買ってしまうと、結局はコーディネートに悩んでしまうことに。ワンピース同様、着回しを想定した小物を買い足そう。

前で結べるタイプのカーディガンは持っておくと便利です

 腰回りが暖かいだけでなく、結び目があるだけで、ウエスト位置が高く見える。

「伸縮性の高い素材のタートルネックもおすすめ! 年齢が如実に表れる首回りのシワを隠し、さらに冷えやすい首元をカバー。水玉模様などの柄物や原色をもってくると着こなしのポイントにもなります」

 顔に近い首元には目が留まりやすい。そこに明るい色や柄物をもってくることによって顔がぱっと華やかに引き立つのだ。

まずは手ごろな値段のカラフルな靴下を

 くぼしまさんがおすすめするファッションアイテムで、手軽にトライできるのが先にも触れたカラフルな靴下。お母様には、あえて花柄や水玉、ストライプなど明るく派手な靴下を選んでいるという。

靴下はワンコインで買えますし、たとえ失敗したとしても家の中ではけばいいので気軽に挑戦できるんです。気をつけたいのは、くるぶしから上の部分がちゃんと明るく派手に見えるものを買うということです

 顔の印象を左右するメガネもカラフルなものをチョイス。

メガネにもいろいろな色や柄がありますが、シニア世代の方はピンクや赤といった明るい単色のフレームを選ぶといいと思います。カラフルなメガネが初めての方にはオレンジがおすすめ。お洋服にも合わせやすいですし、肌がきれいに見えます

まずは手ごろな値段のカラフルな靴下を(写真/提供・角野栄子オフィス、撮影/馬場わかな)

首や手の周りをカラフルに明るく彩る

 首回りを彩るカラフルなネックレスも、持っていると便利。

母のアクセサリーは軽くておもちゃのようなものばかりです。年齢的に重いものをつけていると疲れてしまうので、1グラムでも軽いものを好むんですね。例えば、グレーのシンプルなワンピースでも、カラフルなネックレスをつけるだけでハイセンスな装いに見えます

カラフルなアクセサリーも印象的に(写真/提供・角野栄子オフィス、撮影/馬場わかな)

 ネックレスの場合、気をつけたいのが紐の色なのだとか。

紐の色とお洋服の色がちぐはぐになるとコーディネートが崩れてしまうんです。母のネックレスの紐のほとんどは、使い勝手のいい黒にしています

 また、ネックレスと同様に、カラフルでかわいい指輪もおしゃれの必需品。

手のシミやシワ、くすみなんか気にならないぐらい存在感のあるカラフルな指輪をつけてみては。母は指輪もプラスチックやゴムのものがほとんど。

 海外で購入した数百円のものもあるけれど、どれもかわいくて、軽くてつけていて疲れにくい」

 シニア向けの枠をはずして、つけ心地と、おしゃれを追求したあなたなりのお気に入りのアイテムを探してみては。

角野栄子さんスタイルに変身!

 ワンピース設計図をご紹介。(身長:158cm)

イラスト/くぼしまりお (『魔法のクローゼット』本文より)

 人は年齢とともに身体に厚みが出て関節の可動域が狭くなってしまいます。

 ワンピースは着やすくてスタイルよく見えるカタチのものを。

 肩幅は42cmくらいがスッキリ見える。着丈はひざ下7~10cm程度に。

 ひざには老いが表れるのでひざ頭が見えない丈が理想的。

 身体に厚みが出るので身幅は53cm程度と余裕を持たせ、ちょっとしたものを入れられるようサイドにポケットを。

 首元の後ろ側。留め具をボタンにしてインナーに着るもので調整しやすいように。

【シニアの服は袖や裾の形状に配慮して】
シニアの洋服に意外に多いドルマンスリーブ。肩回りがゆったりしていて着やすいという利点はあるものの危険が潜む場合が。ドアノブや手すりなどに引っかけて身体のバランスを崩し転倒につながることも。裾が長いと階段などで転倒の原因に。

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お話を伺ったのは……くぼしまりおさん●1966年東京生まれ。文化学院美術科卒業。子どもの本の創作や翻訳に意欲的に取り組み、イラストレーターとしても活躍。著作に「ブンダバー」シリーズなど、訳書に『チビねずみくんのながーいよる』などがある。著書『50代になった娘が選ぶ母のお洋服 魔法のクローゼット』(KADOKAWA)より

(取材・文/熊谷あづさ)