年齢より若くみえる高橋容疑者(SNSより)

「犯行に使ったのはインターネットバンキングだった。わざわざATMまで行かなくても、自宅や外出先などからパソコンやスマートフォンで営業時間を気にせず振り込みや残高照会などができるため利用者が増えている。そこにつけ込み顧客の高齢女性に口座開設を勧め、開設作業の際などにパスワードなどの個人情報を盗んで預金の一部を自分の口座に動かしたとみられる」

 と全国紙社会部記者は話す。

 顧客の銀行口座から自分の口座に不正に現金を振り込んだとして警視庁世田谷署は9月1日、横浜銀行の元行員・高橋延年容疑者(41)を電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕した。行員だった2015年11月ごろ、顧客のインターネット銀行口座から自身が所有する口座に50万円を不正送金した疑い。同容疑の公訴時効7年まであと約2か月に迫る逮捕劇だった。

顧客女性の口座から複数の送金が

 前出の記者が続ける。

「捜査の端緒は顧客女性側からの相談。口座から心当たりのないまとまった金が何度も引き出されていることに気づき、今年1月に警察が知るところとなった。高橋容疑者は“振り込んだことは間違いないが、承諾を得ていた”などと一部否認している。この顧客女性の口座からは複数の送金が確認されているため、警察は余罪の可能性も視野に関連を調べている」

 横浜銀行によると、インターネットバンキングは利便性が増すほか、一部の手数料がかからなくなったり割引きされる。ただし、顧客の承諾を得たとしても行員が操作を代行することはないという。上手に使えばお得なわけだが、預けている先の行員に金をくすねられてはたまったものではない。

 横浜銀行は、

「厳粛に受け止め、深く反省するとともに、お客さまをはじめ関係者の皆さまに心よりお詫び申し上げます。引き続き警察捜査に全面的に協力するとともに適時適切な対応をおこなってまいります」

 などとコメント。

 取り引きに不審な点があった場合などに顧客が問い合わせできる窓口を開設した。

 前出の記者は、

「インターネットバンキングをめぐっては、成りすましによるフィッシング詐欺の被害が深刻。金融機関を名乗る不審なメールが届き、利用者のIDやパスワードなどの確認や更新を迫って情報を盗みとろうとする手口が代表的だ。デジタルに慣れていない高齢者などは十分注意する必要がある」

 と指摘する。

高橋容疑者はビジネスに熱心だったが(SNSより)

 高橋容疑者は大学卒業後、横浜銀行に入行。数年前に退職後、経営コンサルタント業の会社を立ち上げ、現在は横浜市に本社を置くシェアオフィス運営会社の社長を務める。クラウドファンディングで目標の500万円を集め、昨年4月、シェアオフィス開業にこぎつけたばかりだった。

 同オフィスは社長の逮捕を受け、9月中のイベントを自粛。どのような社長だったのか、オフィスを訪ねて取材を申し込むと、

「対応できる者がだれもおりませんのでお引きとりください」(スタッフ)

 と混乱している様子がうかがえた。

 高橋容疑者はSNSでこんなふうに自己紹介している。

《横浜生まれ横浜育ち、地方銀行で12年勤務。リーマンショックを経験した際に、中小企業の財務支援、営業支援を行う企業を作りたいと思い独立。退職後は銀行のルールで過去の顧客と連絡を取ることができず、人脈もコネも何もない状態からの独立でした》

腰が低いのに野心家の空気感

 知人の男性経営者は人物像をこう評する。

「腰が低く洗練されたビジネスマンで、野心家の空気感を漂わせていました。“横浜を盛り上げていきましょう”とか“ビジネスチャンスを広げましょう”などと前向きな話が好きでした。異業種交流にも積極的で、銀行出身の経理・経営のスペシャリストとして自信がみなぎっていました」

 逮捕を報じるニュース映像をみて「最初は別人かと思いました」としてこう続ける。

左・送検される高橋容疑者(NHKニュースより)、右・逮捕前の高橋容疑者(SNSより)

「もっと若々しいし、普段はかつらをしていたとは知らなかったから。送検される際、別人と思わせたかったんでしょうか」(同・知人)

刑事施設での“かつら”着用は基本NG

 前出の記者は言う。

「警察署の留置場や拘置所などの刑事施設では、健康上の特段の理由がない限り、まずかつら着用は認められない。危険物などを隠すツールになり得るから。単純に着用を許可されなかっただけではないか」

 刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律に基づく施行規則は、かつらの着用について、

《外出し、又は外泊する場合、裁判所に出頭する場合その他の刑事施設の長がかつらの着用を許すことが適当と認める場合に限る》

 と定めている。

 逮捕前、高橋容疑者は事業拡大に懸命だった。ビジネスパートナーの信頼を得るため、堅実な職歴を前面に押し出していた。

 例えば約2年前、インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom」を使って「金融機関の現状」「銀行員が嫌がるお客さんべスト3」「金融機関から嫌われないようにするために大事にすることベスト3」などについてスピーチ。融資の審査に通りやすく、あるいは審査スピードを速くしてもらうためのテクニックを披歴した。

 あるいは、SNSで新型コロナウイルス対策の関連融資について、

《以前、主婦の方に架空の事業計画を作成させ、金融機関から資金を調達させFXなどの投資に回させているという会社の方にお会いしたことがあります。そりゃ詐欺ですよ。そういうことをする人達がいたから、この状況になっても金融機関は審査基準を緩めることができないわけで》

 と述べる一幕も。

 そう喝破する時点で、既に詐欺をはたらいていたわけだからひどい。

 カタカナ語を織り交ぜたビジネストークが得意で、例えばSNSではこんな呼びかけをしている。

《私たちとともに大成功をしたい方はジョイン(※合流や結集)してください。あなたが見たことのない景色を見せてみせます!》(※印は編集部、以下同)

《メンバー同士のビジネスミーティングやリファーラル(※紹介や推薦)マーケティングのスキルを上げるための学習トレーニングなど時間投資を頂ければと思います》

《リアルの場があることでどんなベネフィット(※利益や効果)があるのか?改めて言語化をしてみました》

 シェアオフィスについても、ほぼ同義の「コワーキングスペース」という呼び方を徹底。ビジネスパートナーを口説く決めゼリフは《高橋と15分Zoomの時間を》だった。

高橋容疑者はビジネスに熱心だったが(SNSより)

 イケイケの元行員は約11年前、横浜市内の高級マンションを約4400万円の住宅ローンを組んで購入。同マンションの男性住人はこう話す。

「生活感のない人でどのような仕事をしているか知らなかった。トラブルはなかったが自治会活動には参加しなかったようで、ほとんど交流はなし。同じ階の住人が言うには“謎めいた存在”だったらしい」

 別の女性住人は、

「おしゃれで若いパパだなと思っていた。高齢者がデジタルに弱い点を突くなんて卑きょう者。妻子がいるのに何をやっているのか」

 と呆れ顔だった。

子どもに父の背中を見せてあげたい

 容疑者は子ども向けの絵本をつくるプロジェクトに協賛した際、インタビューにこう答えている。

《僕は父親を、高校1年のときに亡くしています。就職や転職の時など、父親の話を聞きたいなと思うことが何度もありましたが、残念ながらそれは叶いませんでした。自分は、子どもに父の背中を見せてあげたいと強く思っています》

 仕事が忙しく、小学生の娘と過ごす時間をつくれないとする一方、絵本プロジェクトに参加していることを娘に話すと、

「えー!!!パパ、絵本を創っているの?!見せて!見せて〜!!」

 と嬉しい反応があったと打ち明けている。

 電子計算機使用詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役。執行猶予がつく場合もあるが、罰金では済まされない。その背中は、娘に見せられるものではないだろう。

左・送検される高橋容疑者(NHKニュースより)、右・逮捕前の高橋容疑者(SNSより)
高橋容疑者はビジネスに熱心だったが(SNSより)

 

 

 

 

年齢より若くみえる高橋容疑者(SNSより)
横浜銀行に激震が走った