医者がみてきた長生き&元気お達者シニアの共通項(※画像はイメージです)

 日本人の60代では“およそ40人に1人”にすぎない認知症有病率は、80代になると、なんと“3人に1人”まで跳ね上がる。

「脳機能だけでなく、身体の健康も見た目も、70歳が分岐点。高齢者の健康長寿は、70代をどう過ごしてもらうかにかかっています」

 こう語るのは、高齢者医療の第一人者である和田秀樹さんだ。

和田秀樹さん

 和田さんによると、健康長寿のポイントは4つあり、もっとも大切なのが、1.栄養をたっぷりととること。

 以降、2.ストレスを避ける、3.意欲を持ち続ける、4.できないことよりできることに目を向ける、と続く。

塩分も糖分も気にしすぎは逆効果

健康管理がストレスになるなら本末転倒(※画像はイメージです)

 まず和田さんが強く訴えるのは、栄養を減らしすぎることのリスクだ。

 例えば、健康でありたいと、塩分(ナトリウム)のとりすぎを気にする高齢者は多い。だが年を重ねると、ナトリウムを体内にためておく力は自然と衰える。

「体内のナトリウムが少なすぎるとどうなるか? 低ナトリウム血症を起こして朦朧としたり、最悪、死の危険も。高血圧の高齢者でも、塩分は控えすぎないほうがいいのです」(和田秀樹さん、以下同)

 血糖値も同様だ。あまりに糖質を制限したり、インスリン治療で低血糖を起こすと、意識障害を起こしたり、手足の震えや失禁を起こしたりする。こうした時間が長く続くことは、脳にも悪影響を与えてしまうのだ。

日本はがんで死ぬ国ストレスが寿命を縮める

たくさん食べて栄養をとることが重要(※画像はイメージです)

 年を重ねたら、食事であれもこれも制限することより、よく食べて体重を増やすことを心がけるくらいがちょうどいい。ちなみに和田さんが高齢者にすすめるのは、“最安値のブレイン(脳)サプリメント”である納豆。良質の植物性タンパク質を効果的にとれ、認知症予防に最適なのだ。

 栄養の次に大切なのが、ストレスを避けること。

「アメリカやイギリスの人の主たる死因は心筋梗塞。ですから彼らがその可能性を高める血糖値やコレステロールを気にするのはわかります。ですが日本は、先進国で唯一、がんによる死が多い国。がんの原因のひとつがストレスですから、食事を制限するよりも先に、ストレスによって免疫力が下がることを避けてほしいのです。食事制限でストレスを感じていたら本末転倒。禁煙も同じで、ストレスになるならしなくていい」

 免疫力を下げないためには、よく笑って毎日を楽しく過ごすこと。笑うと副交感神経を刺激して心身がリラックスするだけでなく、がん細胞やウイルスを退治するNK(ナチュラルキラー)細胞が活性化して免疫力が高まる。

「さらには“頭も身体も若くいよう”“元気に歩ける自分でいよう”と意欲を持ち続けることが、とても大切です」

 80歳、90歳でも若者顔負けの頭のキレと、スタスタ歩ける体力の人がいる反面、60代で歩けなくなる人もいる。

「コロナ禍による外出自粛で実感した人も多いと思いますが、身体の機能は使わないと衰える。その衰えは年を重ねるほど大きく、進行も速くなります。ですから脳も身体も日々使い続けることが大切」

 わかっていながらそれができなくなってしまうのは、“意欲”を失ってしまっているから。意欲も脳や身体と同じで、持ち続けようと意識しないと減退する一方なのだ。

「記憶力が落ちることを恐れる高齢者は多いのに、意欲が衰えることを気にする人は少ない。しかし一度失った意欲を取り戻すことは難しいので、それを保つことをもっと重要視してほしいのです」

 高齢の親には、まずは外出してもらい、友人知人と話したり、趣味や料理など、好きなことに打ち込んでもらおう。こうしたことこそが、生きる意欲につながるからだ。

脳トレのドリルよりもすべきは会話・趣味・仕事

 外出時には、おしゃれも楽しむことをすすめる。

「“年がいもなく”なんて言葉を気にして、消極的になるのはナンセンス!きれいでいたい、若くありたいという意欲を、もっと周りも本人も認めるべきです」

 高齢者の意欲が落ちて行動に消極的になった結果、外出が減って足腰が急速に弱ってしまうのが問題だ。

「結果として認知症の発生リスクも高まります。とにかく今できることを減らさずに持続する。つまりは4つ目のポイント、“できることに目を向ける”につながります」

できることに着目しその機能を伸ばす

 残念なことに、年を重ねると身体機能はどうしても衰えていく。失ったものを数えると気がめいるが、そんなときには、「パラリンピックの選手たちをお手本にするといい」と和田さんは言う。

「彼らは、できないことよりもできることを伸ばして活躍している。高齢者も同じように、残存機能を持続し、さらにはそれを伸ばそうという考え方が大切です」

 そのためにも、サポート用品は積極的に活用したい。

「例えばリハビリパンツ(ショーツ型おむつ)をはけば、安心して外出することができます。トイレの心配をして家にいるよりも、外出していろいろな刺激に触れることのほうが、ずっと大切」

 そして“年がいもなく”とか、“高齢者はかくあるべし”といった固定観念は手放すこと。

「“人生いろいろ、なんとかなるさ”と考えて。タレントの高田純次さん的生き方がおすすめですよ(笑)」

 これら4つのポイントを親に実践してもらえば、認知症発症を遠ざけ、健康寿命を延ばす手助けになる。

「85歳を過ぎたら、どんな人でも脳に認知症の変化が生じます。ですが、発症を遅らせることは可能。それには脳を活性化することが大切ですが、かといって脳トレのドリルを何冊もやればいいということではありません」

 脳を活性化させるには、会話を楽しみ、趣味や仕事を続けるなど、刺激を受けて生き生きと過ごすこと。

老いを遅らせる「あかさたな」

「私が考えた“あかさたな表”(上)も参考にしてください。高齢だからと節制させたりできることを取り上げるのではなく、適度にゆるく過ごしてもらうのが正解です」

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和田秀樹。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。「和田秀樹こころと体のクリニック」院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。

<取材・文/千羽ひとみ>