荻原博子さん

 生活費が上昇し続ける厳しい状態が続いている。乗り越えるには「食費」をミニマルに抑えるのが効率的。「食べすぎないから健康的」「作りすぎないから自由時間が増える」など節約以外のメリットもいろいろ。賢者の知恵で家計を守れ!

「残念ながら値上げは長期化すると思います」と話すのは経済ジャーナリストの荻原博子さん。お菓子や飲料、パンやパスタといった小麦製品、加工食品、さらには電気代やガソリン代など、あらゆるものの値段が上がり続けているが、ピークはまだ先だと予想する。

横ばいどころか上昇!まだまだ続く値上げラッシュ

「現在の値上げラッシュは急激な円安、原材料価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻の影響による原油高、物流費の高騰などさまざまな原因が絡んでいます。特に小麦は10月以降の値上げ幅が大きい。小麦の一大産地であるウクライナ情勢による供給の大幅減少が関わってくるからです」(荻原さん、以下同)

来年以降も価格高騰は続く可能性が大きい(イラストはイメージです)

 小麦が上がれば、代替食品としてトウモロコシや大豆といった他の穀物の需要が高まるので、こちらも価格は上昇する。それらを利用した加工食品も値上げせざるをえなくなり、来年以降も価格高騰は続く可能性が大きいのだ。

「値上げをしても企業は儲かっていないので、従業員の給料は上がらないまま。厳しい暮らしはまだ続くと覚悟したほうがよさそうです」

生き残るには、借金減らし現金増やせ

 年金世代を直撃するのが、減少する年金額。'21年度はマイナス0・2%、'22年度はマイナス0・4%と、なんと2年連続でダウンしているのだ。

「現在は主に現役世代の平均所得と連動するようになっています。不景気が続けばさらなる減額もありえますね」

 頼みの綱である年金も減らされたら、いったいどうやって生活していけばいいのだろうか。

物価高が続き給料が上がらない、先行きもわからない。こんなときは“借金を減らして現金を増やす”こと。現金が手元にあれば、多少の値上げにも、年金の減額にも太刀打ちできます。住宅ローンなどがあるなら早く返済し、手元の現金を少しでも多くすることが肝心です」

 現金を増やすといっても、生活費はかさんで貯金に回せる金額は少ない。ならば投資で増やすしかないのか?

 荻原さんは「投資は最後の手段」と話す。

「最初にやるべきは、家計の見直し・資産の確認です。月の生活費、貯金、借金やローン、投資金額などをすべて紙に書き出してみましょう」

資産を確認し、家計を見直すことからはじめよう(写真はイメージです)

 ひと目で全体が見えるように、1枚の紙に書き出すといい。眺めていると「投資金額が多いけど現金が少ない。少し解約して現金に回そう」「住宅ローンが67歳まであるけど、年金をもらいながら払うのは無理。早めに繰り上げ返済しよう」などの方針が見えてくる。

「方向性が定まったらあとは行動あるのみ。現金を増やすために妻がパートに出る、長く働くなどの選択が必要かも。こうして現金をしっかり確保し、投資はその後。投資は増える可能性もあるけどその逆もある。余剰資金があればやってもいい……と考えてください

老後に2000万円、今は1500万円

 ではどのくらい現金を用意しておけばいいのか。やはり老後は2000万円が必要なのか。

「それはコロナ禍前の話。今は必要ないでしょうね」

“老後2000万円問題”は金融庁が、高齢夫婦無職世帯の平均収入に対して支出が上回り、月5万5000円の赤字になると報告したのがきっけで広まった。老後30年で約2000万円が不足する計算だ。けれどコロナ禍となり、多くの家庭が外出やレジャーを控えたことで支出が減少。家計がコンパクトになり、赤字から約1万円のプラスに転じたのだ。

「2000万円というのは生活費の不足額なので、丸ごと不要になったのです」

制度をしっかり使いこなせば、医療費はかなり抑えられることも(写真はイメージです)

 とはいえ、備えておきたいのは、介護費と医療費。介護費用は、生命保険文化センターによると平均1人600万円かかるので、夫婦で1200万円は用意しておきたい。また医療費は夫婦で200万円あればいいという。

「医療費が少ないように感じますが、日本は医療費制度が充実しているので意外とかからない。がんや脳梗塞で入院しても昨今はそれほど長くかからずに退院することが多いし、高額療養費制度を使えば負担額はさほど大きくないんです。

 介護費と医療費、お墓代などを含めて、夫婦で1500万円くらい現金を貯めておけば安心ですね

時代に合わせ、スリム家計で心豊かに

 現金を増やすためにも、年金で豊かな暮らしを実現するためにも、実践してほしいのが家計費の無駄をなくしてスリムにすること。荻原さんがおすすめするのは、「2方向からアプローチする節約」

まずは1回やったら続く節約です。例えば電気のアンペア。以前は大家族で60アンペアだったとしても、夫婦2人になったら30アンペアで十分。ブレーカーが落ちやすいと気にかけることで、節電の意識も高まる。ほかに、スマホを格安にしたり、生命保険を見直すなどをやってみて

冷蔵庫の写真を撮ってムダ買いを防ぐ

 2つ目は、食費など日常で習慣化できる節約。買い物に行くときはメニューを決めて必要なものだけを買うのがベスト。スマホで冷蔵庫内の写真を撮ってから行けば、ダブり買いを防ぐこともできる。

「メニューが決まらないなら、惣菜売り場をチェック。買うのではなく、『グラタンがいいな~、あえ物もおいしそう』とヒントだけいただいて、買い物をするんです。旬な食材を使っていることも多いので参考になります」

 また空腹時に買い物に行くと、とかく余計なものを買ってしまいがちなので、アメを口に入れておくのも効果的。口寂しくないので冷静に買い物ができるはず。

「今はミニマリストの時代。バブルをかじった50代などは購買意欲が旺盛ですが、本当に気に入ったものを少しだけ持ち、豊かに暮らすのがスマート。家計がスリムになれば不安も減り、心豊かな老後が送れるはず」

【荻原流 食費節約ポイント】
〈1〉「ワンランク上」「自分にごほうび」思考は封印せよ
 今の50代はバブル末期経験者。この2ワードが大好き。ちょっと贅沢な調味料、たまにならと奮発するスイーツや嗜好品が食費の大幅な予算オーバーの原因に。

〈2〉冷蔵庫の奥が見えないなら買い物に行かない
 冷蔵庫の食品は使い切ることを前提に。買い物の前に、冷蔵庫内の写真を撮っておくのも効果的。

〈3〉レジの前に行ったら1つだけ商品を返す
 面倒でも1か月トライしてみて。購入品の全体をもう一度見直すことで自分の買い癖にも気づき、本当に必要なものかを考える頭の訓練にもなる。

お話をお伺いしたのは、荻原博子さん
経済ジャーナリスト。難解な経済とお金の仕組みをわかりやすく解説する家計経済のパイオニアとして活躍中。『老後の心配はおやめなさい』(新潮新書)など著書多数。

取材・文/樫野早苗、松澤ゆかり