家に潜むカビやダニ(イラスト/アサミナオ)

 厚生労働省「人口動態統計(2020年)」の調査結果によると、家庭内の不慮の事故で亡くなった人は、年間約1万4000人。そのうち約9割を65歳以上が占める。

 くつろげるはずのわが家に、病気やケガを招くスポットが……。家の中だから安心とはいえないのが実情だ。

乾燥対策の加湿器が原因で肺炎に

「特に寒い冬は病気やケガが増える時季。家の中の危険なスポットを知っておけば、予防ができて安心ですね」と語るのは、医師の秋津壽男先生。

 2018年の冬には高齢者施設にて、加湿器が原因とみられる、レジオネラ菌による肺炎を入所者などが発症し、亡くなるケースもあった。

「レジオネラ菌は河川などにも存在する細菌ですが、感染してしまうと肺炎になることも。特に高齢者や免疫力が低下している人は、重症化するリスクが高いのです。

 この場合は『超音波式』加湿器のタンク内に潜む菌が増殖し、肺炎を引き起こしたと考えられます」(秋津先生、以下同)

超音波式加湿器はミスト中にカビや細菌が含まれている可能性がある

 家庭で使われる加湿器は、「加熱式」と「超音波式」に大別される。「加熱式」はタンクの水を約80度以上で煮沸し、水蒸気にして加湿する。

 一方、「超音波式」加湿器は、タンクの水を超音波によって微細なミストに変えて放出するタイプ。加熱処理を施さないため、タンクの水を何日も替えないでいるとカビや細菌が増殖し、それを空気中にまき散らすことになる。

「加湿器が原因の肺炎には、先ほどのレジオネラ菌などが原因の細菌性以外に、アレルギー性のものがあります」

 アレルギー性の肺炎は「過敏性肺炎」といわれ、カビ(真菌)や細菌で汚染されたミストを毎日吸い込むことで、アレルギー症状を引き起こす。

「発熱や呼吸器系の咳や痰、息切れなどの症状が出ます。心配なら加湿器は、加熱式のものを選ぶこと。また、取扱説明書に沿ってお手入れを欠かさないこと。

 水は1日に1回取り換え、タンクはその都度洗うことも大事です。使わない時季はタンクの水を抜き、乾燥させましょう」

冬でもカビは発生!製氷機などにも注意

 実は冬場でも家の中にはカビ菌が生息している。発生場所としてあまり知られていないのが、冷蔵庫の自動製氷機の給水タンクだ。氷から嫌なニオイがした……という経験はないだろうか。

「冷凍庫内でカビは死滅するわけではなく、増殖が緩やかになっているだけ。古い冷蔵庫の場合、ミネラルウォーターや浄水器の水を使用すると、塩素が除去されているので、雑菌やカビが繁殖しやすくなります

 雑菌やカビが含まれた氷を長期間とり続けると、身体に悪影響を及ぼす場合がある。

 製氷機の給水タンクは3日に1回を目安に水洗いをすること。掃除方法はメーカーごとに異なるので、取扱説明書の確認をしておこう。

 エアコンは夏に冷房を使うと内部に湿気がたまり、カビの発生源になりやすい。掃除をせず冬に暖房を使い始めると、空気中にカビの胞子や細菌が放出される可能性がある。

「寒くなってもエアコン内でカビは生存しているので、季節ごとに掃除をしたほうがいい。予防策として、使い始めにフィルターや内部を掃除してから、半日、窓を開けて『送風』運転しておくといいです」

 特に「トリコスポロン」というカビは、吸い込むとアレルギー性の肺炎を引き起こすおそれがある。最近では、自動で洗浄する機能がついたエアコンもあるので、買い替えるのも1つの方法だ。

 また、冬だからこそ注意したいのは、結露が発生しやすい窓際だ。結露は外気との温度差が大きくなると発生しやすい。結露からカーテンが湿気を吸い、ホコリなどが栄養源になり、カビが繁殖しやすくなるという。

 根本的な解決は難しいが、こまめに換気をし、窓周りの掃除を。カーテンの汚れがひどいときは漂白剤を使って。

窓の結露は放置するとカビの原因に。こまめに拭いてカビの栄養源になる汚れを除去

 近年は冬場、水虫に悩まされる人も増えている。タイツや厚手のソックス、ブーツなどを長時間着用していると、足が蒸れやすいためだ。

「水虫の原因も白癬菌というカビの一種です。痒みなどの症状が出ない『隠れ水虫』も多いので、知らない間に家族内感染をさせているかも。糖尿病のある人は水虫になりやすいので要注意です」

 糖尿病の場合、水虫が悪化して壊疽を起こす可能性も。早めに診察をしたほうがよい。

 定期的に爪が白くなっていたり、皮膚のひび割れがないか、足をチェックしよう。

「原因となる白癬菌は足などから落ちた、目に見えない皮膚片に潜んでいます。バスマットを共有しているとうつる可能性が。スリッパも共有しないほうがベターですね」

冬は浴室で命を失う人も多い

「65歳以上の死因に多いのが、浴槽内や浴槽への転落による溺死および溺水です」

 この要因となるのが、急激な温度差が生じて起こる「ヒートショック」だ。

「寒い脱衣所で服を脱ぎ、血管が収縮して血圧が上昇したあと、入浴して身体が温まり、血圧が下がったときが危険。身体に大きな負担がかかり、心筋梗塞や脳卒中を引き起こしやすいのです」

 予防策としては、急激な温度差をなくすこと。お湯を張るときは浴室のドアを開けて、脱衣所と浴室の温度差をなくしたり、脱衣所の足元に小型のファンヒーターを置いて脱衣所を暖めておくようにするとよい。

「特に12月~3月は気をつけましょう。高血圧や肥満にならないよう、生活習慣の見直しも大切です」

 冬はトイレでもヒートショックが起きやすい。夜間や早朝は冷えやすく、寝室などとの温度差が生じやすいので、トイレが寒いなら、暖房便座を取りつけたり、小さめの暖房器具を用意しよう。

脱衣所との温度差でヒートショックが起こりやすい

古い湯たんぽでの低温やけどに注意

 冬によく使う家電も、使用方法を誤れば命の危険を伴う。

 閉め切った部屋で石油ストーブを使うと、酸素の濃度が低下して不完全燃焼が起き、有毒な一酸化炭素が発生する。気がつかないうちに吸い込んで、一酸化炭素中毒になり、頭痛やめまい、吐き気などが生じることがある。

「一酸化炭素中毒を防ぐには、定期的に換気を行うことが大事。1時間ごとにタイマーを設定して換気をするなど、ルールを作りましょう」

 冬はこたつでうたた寝をしがちだが、これが身体によくない。布団なら、暑いと1枚少なくして体温調節が可能だが、こたつは調節できずに脱水症状になりやすく、腎臓にも負担がかかる。

「もし、こたつで寝てしまった場合は、スイッチを切り、脱水を防ぎます」

 就寝中に使用する湯たんぽは低温やけどの原因に。湯たんぽ表面の断熱材が経年劣化により破損していたり、袋に入れ忘れたまま使用して、肌に直接触れてしまうと、低温やけどを負うケースがある。使うときに、よく確認しよう。

冬に起きやすいアレルギーの原因

 冬には花粉症以外にも、アレルギーを引き起こす原因が家の中にある。そのうちの1つがダニが主な原因となって発症するハウスダストアレルギーだ。くしゃみや目のかゆみ、皮膚の炎症、ぜんそくなどの症状を引き起こす。

「原因は、生きているダニではなく、ダニのフンや死骸が粉々になったもの。夏場に増えたダニの死骸などがハウスダストとなり、秋から冬にかけていちばん多くなり、症状を引き起こします」

 除去するには掃除機で丁寧に吸い取ろう。押すよりも手前に引くほうが、ダニの死骸を吸い取りやすい。カーテンにも定期的に掃除機をかけて。

「布団はまず、天日干しをしてダニを死滅させましょう。その後、昔ながらのふとん叩きなどをして死骸を除去するのが効果的です」

 なお、羽毛布団やダウンジャケットに使用された、小さな羽毛や羽毛に付着した鳥のフンでアレルギーを引き起こしている人もいるという。

「こういったアレルギー性肺炎の症状は咳や息苦しさなので、風邪と間違いやすいのです。羽毛布団の使用を中止したり、家の中を徹底的に掃除して、抗原を除去して」

 また、ダニを“食べて”アレルギーを発症するトラブルも少なくない。

「自宅でダニが混入したパンケーキミックスやお好み焼きの粉などの小麦粉製品を使った料理を食べ、蕁麻疹、呼吸困難などのアナフィラキシーを起こしてしまうのです」

小麦粉製品はダニの温床になることも。開封後は必ず冷蔵庫へ

 海外では死亡例もある。秋津先生は小麦粉アレルギーと誤解されることも多いと語る。

「開封したら必ず冷蔵庫で保存を。そのうえで早めに使い切りましょう」

 冬、ダニ以外に気をつけたい虫は、衣類害虫だ。中でも蛾の仲間の「イガ」「コイガ」はウールやカシミヤを好む。

「蛾の鱗粉や幼虫のフンなどからアレルギーを起こしたり、ぜんそくや皮膚炎になって来院される患者さんが、冬は意外と多いので、着る前に穴がないか確認しましょう」

 衣替えのとき、一度でも着た服は洗ってから保管する。

「シーズン初めは袖を通す前に半日、日に当てて干せば、アレルギーのリスクを軽減できます。クローゼット内をよく掃除して、鱗粉やフンを除去することも予防になります」

暖かい部屋に鍋を放置するのは危険

 11月~2月にはノロウイルスによるウイルス性の食中毒が増える。今まで細菌性の食中毒は夏に発生することが多かったが、1日中暖かい、気密性の高い住宅が増えたことで、冬の危険性も上がった。

「農林水産省のホームページによれば、腹痛や下痢を引き起こす『ウェルシュ菌』による食中毒例は、冬にも発生しています」

 “ひと晩寝かせたカレー”はおいしいという噂はあるが、ウェルシュ菌は火を止めて7時間ほどたつと、徐々に増殖して毒素を出す。さらに食べる前に鍋を再加熱しても、死滅しにくい。大量に作り、鍋のまま放置するのは危険だ。

「もし保存する場合は、冷めやすくするために小分けにして浅い容器に入れ、冷蔵庫で保存します。食べるときは、十分に加熱してください」

事前の対策をすれば転倒は防げる!

 冬は寒さから身体の動きが悪くなりがちだ。厚着をすることでも動作は鈍くなり、こたつのコードやカーペットのふちに引っかかって転倒や骨折をしやすくなる。

「普段から『ここは転びそうで危ない』と感じる場所でたいてい転びます。電気コードはひとつにまとめて、壁に沿って固定したり、カーペットは、ふちをピンなどで留めると転倒を回避できます」

こたつやホットカーペットなどのコードは「危ないなと思っていたら必ず転ぶ」(秋津先生)

 一軒家の階段も、ケガをしやすい場所。荷物を置いて誤って踏んだり、よけて通ろうとして転落する危険が生じるので、物を置かないこと。

「夜間、トイレに行くときに階段を使うなら、手すりを取りつけたり、見やすいように足元灯を設置しましょう」

 寒くなる冬場は、1年の中でも病気やケガのリスクが高くなる時季。もう一度、家の中にある病気やケガが生じやすい場所を把握し、安心、安全な毎日を送りたい。

わが家の危険ポイント16

 意外な危険が潜んでるかも?

わが家の危険ポイント16(イラスト/アサミナオ)

1. エアコン
 掃除を怠ると空気中に細菌やカビを放出し肺炎やアレルギーに
2. カーテン
 定期的に洗ったり掃除機をかけないとダニやカビが発生
3. こたつ
 うたた寝をしてしまうと脱水症状に
4. こたつのコード
 冬物家電のコードは足に引っかけて転倒しやすい
5. 石油ストーブ
 定期的に換気を行わないと一酸化炭素中毒に
6. 超音波式加湿器
 手入れ不足で細菌やカビが繁殖してしまう
7. ひと晩置いた鍋
 常温で放置すると細菌が増殖。毒素を出して食中毒に
8. 冷蔵庫の製氷機
 浄水器の水を使うと給水タンクにカビや雑菌が繁殖
9. 小麦粉製品
 開封後に常温保存をすると、ダニが繁殖する危険が
10. トイレ
 夜間や早朝は温度差があり、ヒートショックに注意
11. 風呂場
 脱衣所との温度差でヒートショックが起こりやすい
12. バスマット
 共有していると水虫に感染する可能性が
13. 冬物衣類
 衣類害虫の蛾の鱗粉やフンでアレルギーに
14. 階段
 物を置くと踏んだりバランスを崩して転落しやすい
15. 湯たんぽ
 湯たんぽに直接足が触れると低温やけどになる
16. 羽毛布団
 ダニや羽毛、羽毛についた鳥のフンによるアレルギーが発生

秋津壽男先生●秋津医院院長。日本内科学会認定総合内科専門医。大阪大学工学部卒業後、社会人を経て和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学循環器内科、東京労災病院等を経て、1998年より現職。著書は『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)など。
教えてくれたのは……秋津壽男先生●秋津医院院長。日本内科学会認定総合内科専門医。大阪大学工学部卒業後、社会人を経て和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学循環器内科、東京労災病院等を経て、1998年より現職。著書は『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)など。

(取材・文/松澤ゆかり イラスト/アサミナオ)