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「若いころは毎日お通じがあったのに、年齢とともに便秘がちになってしまった……」という悩みはないだろうか。実はそれ、腸の老化が原因かも。

高齢者の腸は危機に瀕している

「70歳以上になると脳がしだいに機能しなくなり、脳のボケが出現してきます。実は脳がボケると“腸のボケ”も始まります。腸のボケとは、老化によって腸管機能が低下するという意味です」

 そう解説するのは、腸活の第一人者でもある松生クリニック院長の松生恒夫先生。なぜ、脳がボケると腸管機能が低下するのだろうか。

「脳は腸が進化することによってできた器官で、密接に関係しているからです。発生学的にみると、腸から生まれたのが脳ということになります。実際、原始的な生物の中には、腸があるものの脳はない生き物がいるんです」(松生先生、以下同)

 腸は私たちの寿命にも大きく関わっている。

「腸には免疫細胞の7割が集まっています。アメリカのミネソタ州で20歳以上の約4000人を対象に行った調査では、便秘が慢性的にある人とそうでない人とでは、便秘がない人のほうが寿命が長いことが判明しています

便秘の有無と長生きの関係を示すグラフ

腸の弾力性・腹圧・腸内細菌も大幅減!

 老化は誰にでも起きる現象だが、腸の老化とは具体的にどのような状態を指すのだろうか。

「肌や身体の老化は自覚できても、腸の老化には気づきにくいものです。実は、腸の弾力性は20歳をピークに低下し、75歳前後になるとその弾力性は20代の約2分の1に落ちてしまいます。つまり、年齢とともに排便が困難になるということです

 加齢によって低下する運動機能や筋力も腸の老化に関わっている。

「腸は大きく動いたり収縮したりとさまざまな動きを経て便を直腸に送り、私たちは便意を催します。老化が進むと便を排出するためのすべての運動機能が衰えてしまううえに、内臓の感覚が鈍くなり便意も感じにくくなります。

 また、直腸にある便を押し出すためには腹圧が必要ですが、筋力が低下すると腹圧をうまくかけられなくなり、便をスムーズに排出できなくなります」

 さらに、食事の変化も腸の老化に関係している。

「高齢になって食事量が減ると、腸の健康維持に欠かせない食物繊維の摂取量が減少。食事のバランスが崩れると加齢とともに減少する腸内細菌がさらに減ってしまい、腸内環境も悪くなります」

腸の健康を保ち長寿を実現

 松生先生のクリニックが開設している「便秘外来」を訪れる患者の中には、70代以上の人も少なくない。

「高齢になってから便秘に悩むようになった患者さんは多く、毎日、下剤を服用しないと排便ができないという方も多数います。下剤を連用するとさらに腸の働きが悪くなり、下剤に依存するようになります。

 私はこのような状態を“下剤依存症”と呼んでいます。下剤依存症を放置しておくと、自力で排便できなくなる、下痢、抑うつ感などさまざまな症状を引き起こします。

 下剤の服用量が多い場合は、便秘外来や消化器内科、胃腸科、大腸・肛門科などを一度、受診することをおすすめします」

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 松生先生は、便秘は今後の健康状態に大きく関わっていくと語る。

「便秘は万病のもとといわれています。例えば、若いころから便秘を繰り返していたり、慢性的に便秘の人は大腸がんのリスクが上がるという報告があります。

 また、高齢の慢性便秘症の患者さんの中には、腸のぜん動運動が極端に低下している“結腸無力症”の方もいます。さらに、便秘は肌のくすみや乾燥などの原因になることもありますから、見た目も老化してしまいます」

 高齢者の場合、認知症によって便秘が悪化するケースも。

「2025年には5人に1人が認知症になるといわれていますが、認知症になると自分の排便を記憶することができません。その結果、便秘が悪化して腸閉塞や直腸潰瘍といった病気を引き起こしてしまう可能性もあります」

「長寿=腸寿」と松生先生。健康に長生きするためには、腸の老化と便秘を防ぐことがいちばんの近道。

便秘は腸の老化のひとつのサインです。日常生活や食生活に気をつけて便秘を改善して腸の健康を保ち、さらに無理をせずに楽しい日々を過ごせば、100歳まで生きることも、きっと不可能ではありません」

自分の腸の状態を知るためのCHECK List
□下剤を服用しないと排便が3~4日に1回しかない
□便の状態が常に硬い。コロコロうんちだ
□排便ができないとお腹が張ってくる
□運動不足だ
□食事の回数は1日1~2回、食事量も少ない
□便意があっても、トイレに行くのが面倒で我慢してしまうことがある
□下剤を使わない、または下剤を使うようになって1年以内である
□自然に便意を催すことがない
□下剤を服用するのは週に1回程度だ
□下剤を服用しないと、まったく排便ができない
□下剤を服用して1年以上5年未満である
□おならが以前に比べて異常に臭くなった
□毎日下剤を服用している
□下剤を飲むときは、指定された服用量よりも多い
□下剤を飲むときは、指定された服用量の倍以上を飲む
□体重がいちばん多かった時期に比べて10kg以上減っている
□下剤を5年以上続けて飲んでいる

“排便力”をアップさせる腸活のポイント

 バランスのとれた適量の食事と規則正しい生活、十分な睡眠は健康な身体を維持するための基本。毎日の生活習慣や食事にほんの少し配慮するだけで腸内環境がグンとアップ。以下で紹介する腸活を試して、腸の健康を高めよう。

1. 体内時計を活用して排便のリズムをつくる

 私たちの身体には体内時計が備わっており、腸をはじめとする消化器官の運動は日中は活発になり、夜は休息の時間帯となる。そのため、深夜に暴飲暴食をすると大腸に負担がかかってしまう。

 1日3食、決まった時間に食事をとって大腸のリズムをつくることがスムーズな排便につながる。

2. 朝は排便のためのゴールデンタイム!

 大腸は自律神経の働きと深い関わりがあり、副交感神経が優位になるとぜん動運動が活発化する。

 1日のうちでいちばん、副交感神経が優位になる時間帯が朝で、食事をすると腸が刺激されて大きく動く「大ぜん動」が起きて便意を催す。朝食をとって排便のゴールデンタイムを活用しよう。

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3. 不調の原因「停滞腸」は半身浴で解消

 排便するために必要な大腸の運動が弱い「停滞腸」になると、便が長時間、大腸内にとどまってしまう。

 この状態を改善するのにおすすめの方法が半身浴。38~41度のぬるめのお湯に20~30分ほど腰までつかる半身浴をしてリラックスすると自律神経が整い、腸の動きも改善される。

4. 腸の動きの悪化を招く冷えをとって便秘を改善

 身体が冷えると腸の動きが悪くなり、便秘の原因になる。松生先生のクリニックでも1月~2月は便秘の患者さんが増えるそう。

 身体を冷やさない服装にし、シナモンやしょうが、根野菜など身体を温める効果がある食材をとる、入浴はシャワーですまさずに湯船につかるなど、冷えを予防する生活を心がけたい。

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5. 腸内環境をアップする身体にいい油をとる

 エキストラバージン・オリーブオイルに含まれているオレイン酸には、腸を刺激したり、大腸で便を滑りやすくしてくれる効果がある。

 また、ポリフェノールやビタミンEなどの抗酸化作用を持つ成分も含まれているので、身体の老化防止にも役立つ。毎日、大さじ1~2杯を目安にとりたいもの。

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6. 冬でもこまめに水分を補給する

 健康的な便の70~80%は水分。便の水分量が減るとコロコロの硬い便になり、便秘の原因になってしまう。また、便が硬くなると腸の「ぜん動運動」の活動が悪くなり、大腸内にとどまる時間が長くなってしまう。

 こまめに水分を補給することは便をほどよい状態にして大腸の働きを助け、快便生活に役立つ。

7. シニアこそ積極的に食物繊維をしっかり

 便秘の解消を含め、腸の健康に欠かせない栄養素が食物繊維で、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類がある。

 穀類やいも類、豆類などに含まれる不溶性食物繊維と、キウイフルーツ、りんご、柑橘類、海藻類に含まれる水溶性食物繊維を2:1のバランスでとるのが理想的。

8. 腸の働きを整える植物性乳酸菌の選び方

 腸の健康を保つためにとりたいのが植物性乳酸菌。みそやしょうゆ、漬物といった発酵食品は植物性乳酸菌を含む代表的な食材で積極的に摂取したい。

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 また、ヨーグルトに含まれる動物性乳酸菌は生きて腸に届きにくいため、生きたまま届く植物性乳酸菌(ラブレ菌)入りのものを選ぶことが大切。

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『70歳からは腸ボケ予防で最高の老後をかなえる』主婦の友社(著)松生恒夫 ※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。
教えてくれたのは……松生クリニック院長 松生恒夫先生●1955年東京生まれ。1980年、東京慈恵会医科大学卒業。松島病院大腸肛門病センター診療部長などを経て2004年に現クリニックを開業。著書多数。最新刊に『70歳からは腸ボケ予防で最高の老後をかなえる』(主婦の友社)

(取材・文/熊谷あづさ)