孤独死の現場はゴミであふれていることが多い(※写真はイメージです)

「年々、孤独死が増えていることを実感しています。実際、遺体の腐敗や腐乱でダメージを受けた部屋の原状復旧作業を行う特殊清掃業者さんの数は、確実に増えています」

 そう話すのは、孤独死に関する取材に取り組むノンフィクション作家の菅野久美子さん。実際に孤独死の現場へ足を運び、特殊清掃業者とともに作業をしながら取材を進める中で、特にコロナ禍による“社会の分断”の影響を痛感しているという。

コロナ禍で増加した、孤独死後の放置

「コロナ禍になってから遺体発見までにかかる日数が増えました。以前は数日で見つかることが多かったのですが、コロナ禍では何か月も放置されていたとみられるケースに遭遇する機会も。数か月放置されたご遺体や部屋の状態は本当に悲惨です。家に帰ってからも“死臭”が衣服から抜けず……」(菅野さん、以下同)

孤独死者の約3割が60代。健康などに不安が少ない年代ゆえに、社会のセーフティーネットに引っかかりにくいという側面も。また、その死因の約7割が病死・事故死、残りが自殺になる(※一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会「孤独死レポート」より)

 “孤独死”の背景には“貧困”があるのか。

「確かに、孤独死される方には経済的な困窮が見受けられるケースが少なくはなく、貧困は孤独死の原因のひとつです。ただ、私が取材を始めた7年前と比べると、ある程度の貯金をお持ちだったり、高級マンションで暮らしていたりと、中間層や若い方の孤独死が増えている印象があります。それほど、日本では孤立や孤独が進んでいるのだと思います」

孤独死の背景にあるのは周囲からの孤立

 孤独死の問題は“死”そのものよりも、その後にある。

「ひとり暮らしで、家でひとりで亡くなることは誰しもありえなくはないことです。ただ、すぐ見つけてもらえる環境かが重要。人とのつながりがあれば遺体が傷まないうちに見つけてもらえるはずです。遺体が発見されない状況こそが問題。その背景には孤独や孤立の問題があるからです」

 生涯未婚率は右肩上がり。単身世帯の増加と比例して孤独死が増えるであろうことは想像に難くない。

生涯未婚率は右肩上がり。2040年時点で男性約30%、女性は19%近くになると推計されている(参考:国勢調査、少子化社会対策白書)

 日本における孤独死の平均年齢は男女ともに61歳、高齢者に満たない年齢での孤独死の割合は5割を超えている。まだ体力もある年代の人がなぜ、孤独死してしまうのか。

「正社員として勤務をしていたら、欠勤が続くと同僚などが自宅に様子を見に来るなど、何かしらのサポートを受けられると思います。でも、派遣などで勤務先を転々としている方は、そうしたサポートは期待できないでしょう。また、60歳前後で退職をすることで、人や社会とのつながりが少しずつ薄れていきがちです」

 高齢者であれば周囲も「もしかして」と気遣うが、60代はまだまだ自分も周りも“死ぬこと”は想定していないのだ。

ひとつでも世の中とのつながりを持ち続ける

 孤独死の現場は亡くなった人の深い孤独にあふれている。

「孤独死の多くを占めるのは、自分で自分の身の回りの世話ができなくなるセルフネグレクト(自己放任)です。部屋に尿を詰めたペットボトルが散乱していたり、ゴミ屋敷だったり。

 また、比較的女性に多いのですが、寂しさのあまり複数のペットを飼育し、ご遺体とともに餓死したペットが見つかることも。猫は共食いもしますから、複数飼いの場合、その現場は想像を絶します」

 ある女性の家では、部屋の真ん中に大きなたんすが倒れたまま放置されていたという。

「東日本大震災で倒れ、ひとりではどうにもならなかったのではないかとの話でした。孤独を抱えたまま何年間この部屋でひとり暮らしていたのだろうかと思うと……」

エレベーターのない団地など、階段を下りるのがおっくうになり、次第に孤立してしまうことも増えている(※写真はイメージです)

 孤独死の男女比は8:2で男性のほうが圧倒的に多い。

「孤独死する人は、単身や離婚後の男性が多い。女性も、離婚や恋愛などでダメージを受けて、セルフネグレクトへ陥ってしまうケースが後を絶ちません。孤独死の現場で社会から孤立したプロセスを知ると、胸がしめつけられます」

 孤独死を防ぐために、できることはあるのだろうか。

「ひとり暮らしの場合は、年齢に関係なく、親族や近所の方、行政などに気にかけてもらえる存在でいることも大切だと思います。発見は死臭によることが多いのですが、郵便受けにハガキや新聞があふれていることがきっかけになることも。定期便など、なにかしら世の中とのつながりを持っているといい」

 また、相談窓口を設けている自治体もあるので“あの家にゴミがたまっている”など、周囲の気になる家について相談をすることが可能だ。

「自治体によって対応の仕方はいろいろなのですが、例えば神奈川県横須賀市には『ほっとかん』という福祉の総合窓口があり、さまざまな不安や困り事を抱える方からの相談を一括して受け付けています。近年、内閣府に孤独・孤立対策担当室が発足したことで、孤独死を取り巻く状況が少しずつでも変わっていくことを願っています」

菅野さんが見た“孤独死”の現場

●集合住宅の上階から次第に下りられなくなり……(Aさん・60代)

 高度経済成長期に建てられたエレベーターのない団地に家族で暮らしていたがその後、離婚し、子どもは独立。自宅は団地の上階にあり、足のケガをきっかけにほとんど出歩かなくなっていた。ケンカが原因で子どもと連絡を絶っていた間にひとり亡くなっていた。

●一家で孤立し熱中症で命を落とす(Bさん・50代)

 精神疾患を抱え、両親と一緒に暮らしていたものの、父親は他界し母親は病気で施設へ。市の登録上は単身世帯ではなかったために支援が遅れ、女性は熱中症で孤独死。自宅には両親が娘のために貯めた多額の貯金が残されていた。

●高級マンションでまさかの孤独死(Cさん・60代)

 3LDKの高級マンションに数匹の犬や猫と暮らし、唯一の肉親である妹とは20年以上音信不通。周囲と遮断されたマンション内で死後半年以上たってから遺体が発見される。ペットは餓死。特殊清掃を行った後も死臭はなかなか消えなかった。

菅野久美子さん●ノンフィクション作家。1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社の編集者を経て2005年よりフリーライターに。孤独死や男女の性に関する記事を多数執筆。著書に『特殊清掃の現場をたどる 超孤独死社会』など。

(取材・文/熊谷あづさ)