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 家事の休憩時間にチョコレートを食べたり、紅茶を飲んだりすると、気分が落ち着いてリフレッシュできた、という経験を持つ人は多いのではないだろうか。

危険なストレスを食べ物で軽減

 実は、チョコレートや紅茶にはストレス改善に役立つ成分が含まれており、不安や緊張を和らげる「ムードフード」(情緒改善食品)として、ここ数年、世界的に注目度が高まっている。

「ムードフードとは、ストレスの軽減や睡眠の質の向上が期待できる食品のことです。すでに海外では10年以上前から知られており、ムードフードによるリラックス効果が研究で明らかになっています」

 そう話すのは、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門で部門長を務める矢澤一良先生。

 近年、ムードフードへの関心が高まっている背景にあるのは、深刻なストレス社会。家事や仕事など日常のストレスに加え、コロナ禍でのマスクの着用、外出や人と会う機会の減少などにより、ストレスを常に感じている人がどの世代にも大幅に増えている。

「それによって引き起こされるのは、うつ病、自律神経失調症、統合失調症など、脳の機能障害が関係する病気。

 こうした病気を予防できる効果が期待され、脳の働きを活性化する食品がブレインフードと呼ばれて注目されていますが、実は、ムードフードはブレインフードの一種です。

 ストレスなどメンタル面のトラブルは脳の働きが関係しており、ムードフードはメンタルヘルス対策によい食品として、さらに期待が高まっています」

ストレスの改善に役立つ成分とは

 ブレインフードは機能性表示食品として販売されている製品も多く、青魚やマグロに豊富なDHA、イチョウの青葉から抽出したイチョウ葉エキスといった成分が脳機能の低下を防ぐといわれている。

 こうしたブレインフードの中でも、ある特定の成分を含む食品がムードフードとして機能する。

「ストレスの改善が期待できる成分には、前述したDHAのほか、ポリフェノール、大豆イソフラボン、GABA、テアフラビン、カロテノイドなどがあります」

 具体的にどのような効果があるのだろうか。

「例えば、バナナには精神安定作用のあるGABAが含まれており、ストレスの緩和、睡眠誘導作用があることが臨床試験で実証されています。

 また、紅茶にはポリフェノールの一種であるテアフラビンという成分が含まれており、自律神経のバランスを整えて、ストレスを改善します」

 特におすすめなのは、カカオ分が70%以上含まれている高カカオチョコレート。

「チョコレートに多く含まれるカカオポリフェノールには、活性酸素を抑える働きがあります。エピカテキンなどの成分が身体の酸化を抑え、ストレスを軽減するのです。

 さらに、認知機能の改善、HDL(善玉)コレステロールの増加、血圧を下げる作用といった健康効果も多く報告されています。ポリフェノールは体内に蓄積されないため、1日の合計が25gになるよう、数回に分けて食べると効果が期待できます」

身近にあるムードフード

身近にあるムードフード

・高カカオチョコレート
 活性酸素を抑える働きのあるカカオポリフェノールを含み、ストレス改善、血圧低下、HDL(善玉)コレステロールの増加などの効果が報告されている。

・バナナ
 GABAを多く含む。また、熟してシュガースポットができたバナナはポリフェノールが多く、抗酸化作用もある。

・豆乳
 大豆や大豆製品に豊富な大豆イソフラボンが、活性酸素を抑える働きがある。更年期障害によるメンタル面の予防・改善にも役立つ。

・マグロ中トロ
 脳の神経細胞の情報伝達を円滑にするDHAを多く含み、記憶力や言語能力など認知機能の低下を抑える効果がある。

就寝前のチョコで睡眠の質を上げる

 ムードフードが広く知られている欧米では、その効果を活用したサービスが実施されている。

 例えば、イギリスのある航空会社では、旅行客がリラックス気分を得られるよう、心身が落ち着くメニューを開発。リラックス効果がある緑茶とラベンダーケーキなど、ムードフードが入った食事セットを「ムードフードボックス」として提供していた。

 また、世界の5つ星ホテルでは、客室を就寝の状態に整える際、ベッドサイドにチョコレートを置く「ナイトチョコレート」というおもてなしのサービスがある。

 寝る前にチョコレートを食べると、カカオポリフェノールの効果によって精神の安定が得られ、睡眠の質が改善されることが研究で明らかになっており、この効果を利用したサービスだ。

 海外では夜に甘いものを食べることを、日本ほど気にしていないという背景もある。

 日本でも帝国ホテルやリッツ・カールトンといった高級ホテルで導入されている。

横浜市のシニア向け分譲マンション「デュオセーヌ横濱東戸塚」では、エントランスでムードフードが配布されている

健康に役立つ上手な食べ方

 間食やおやつを食べるときには、ムードフードを意識して食べるとよい、と矢澤先生。

「おやつを食べると太ったり、3食きちんと食べられなくなったりするのではと心配する人がいますが、おやつはお腹を満たすだけでなく、気分転換やストレス解消などの効果も期待できます。

 また、1日の総カロリーが同じであれば、食事を1日3回ではなく、4回、5回と分けて食べるほうが血糖値の急激な上昇を抑え、2型糖尿病やメタボのリスク低下につながります」

 ただし、食べすぎは禁物。おやつを健康維持に役立てるには、食べ方と何を食べるかが重要だ。

1回のおやつは、200kcalを超えないようにすること。そして、なるべく砂糖や塩分、脂肪が少ない食べ物を選んでください。チョコレートなら高カカオポリフェノールのものがおすすめです。

 病気にならないようにするには、栄養、食事、休養が大切。このうちの栄養、つまり食べ物によって予防できるのが、ブレインフードでありムードフードなのです」

 心と身体によいムードフード。楽しく上手に摂取して、日頃のストレスを解消しよう!

新型コロナ後遺症の改善が期待されるムードフード

 榊原先生の病院にも「ムードフード」コーナーが!

榊原先生の病院にも「ムードフード」コーナーが!

 新型コロナウイルス感染症の療養終了後も、頭痛や息切れが続く「新型コロナ後遺症」。東京血管外科クリニックで新型コロナ後遺症外来を担当されている榊原直樹先生は、ムードフードが改善に役立つのではないかと話す。

「新型コロナ後遺症の症状は、頭痛やめまい、手足や腰の痛み、睡眠障害など多様ですが、ほとんどが自律神経失調症の症状です。

 まだそれを一撃で治す薬はないのですが、エビデンスも蓄積されてきていますので、さまざまな方法を組み合わせ、治療しています。

 漢方薬のほか、高カカオチョコレートといった抗酸化作用を持つ食べ物を適量とることで改善が期待できます」

 カカオポリフェノールなどに含まれる、活性酸素を抑える働きが新型コロナ後遺症の改善に役立つとは驚き。

 東京血管外科クリニックでは、豆乳や紅茶、高カカオチョコレートといった「ムードフード」食品を設置している。

東京血管外科クリニック榊原直樹先生●金沢大学医学部卒業。心臓血管外科医。東京血管外科クリニックの新型コロナ後遺症外来では、主にオンライン診療を行う。
東京血管外科クリニック榊原直樹先生●金沢大学医学部卒業。心臓血管外科医。東京血管外科クリニックの新型コロナ後遺症外来では、主にオンライン診療を行う。
矢澤一良先生●早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門長。予防医学やヘルスフードを専門とし、ムードフードによるリラックス効果を研究している。
教えてくれたのは……矢澤一良先生●早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門長。予防医学やヘルスフードを専門とし、ムードフードによるリラックス効果を研究している。

(文/保田真代)