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 コロナ禍で生活様式が変わり、在宅時間を快適に過ごしたいというニーズから、「精油(エッセンシャルオイル)」をはじめとする香りに対する関心が高まっている。

精油とアロマオイルはまったく違う

 リラックスや精神集中に用いたり、抗菌作用がある「精油」を薄めてマスクにスプレーしたり、掃除などに使ったりという人も増えた。

「ストレス社会の今、『精油』を使う『アロマテラピー』の薬理作用が再認識されつつあると感じています。

『精油』は、国内外で売り上げが右肩上がりで、今後も伸びると予想。輸入品がほとんどでしたが、近年は国産の樹木や柑橘類から抽出した『国産精油』も増えているんですよ」と教えてくれたのは、アロマエキスパートの小野江里子さん。

 香りを拡散して楽しむ器具「アロマディフューザー」などが市場規模を拡大している。

 一方で、小野さんのような専門家が危惧しているのが、「精油」と同じようなサイズ感で売られている「アロマオイル」の存在だ。

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「『精油』は植物から抽出した100%天然由来のもの。植物オイルで希釈すれば、肌につけることができます。

 それに対し、『アロマオイル』は香りを楽しむための商品で『精油』以外の成分も含まれています。しかし、同じようなサイズだと、この2つを混同することも」(小野さん、以下同)

 100円ショップでも「アロマオイル」が販売されるようになったが、買い手が「精油」と「アロマオイル」の区別ができていない場合が多いと小野さんは指摘する。

「外見が似ていたら、アロマテラピーにも使えるに違いないと勘違いされがちですよね。香りを楽しむのならいいですが、直接肌に塗って身体のケアに使うのは危険です」

 日本での「精油」の扱いは医薬品でも化粧品でもなく「雑貨」扱いで、統一した成分表示の決まりがない。さらに日本では「精油」を「アロマオイル」と呼ぶ人もいるため、混同しやすいのだ。

100均のアロマは芳香剤のようなもの

「精油」と勘違いされやすい「アロマオイル」は、100円ショップや、いわゆる「プチプラ」のショップで売られている。

 間違ってまがい物を購入しないために、パッケージなどに表示されている内容について知っておいてほしい。

「『精油』の原料は、植物の花や葉、果皮などです。それを蒸留などの方法によって抽出しており、植物性原料100%。成分無調整のオイルとなっています」

 例えば、「ラベンダー」から蒸留によって抽出された「精油」ならば、成分表示に記載されるのは抽出部位である「花、葉」だけである。

 その一方で、100円ショップなどで販売されている「アロマオイル」の成分表示には「水、界面活性剤、香料、エタノール、防腐剤」などと明記されている。

 表示を見ても、この「アロマオイル」の香りの原料に天然香料と人工香料、どちらが使われているか判別できない。

100円ショップで購入したベルガモット(ミカン科の柑橘類)の「アロマオイル」。成分を見ると水や界面活性剤、香料などでできていた

 界面活性剤は肌への浸透性が高いため、肌トラブルを起こしやすい面もある。また、人工香料の成分は低分子であるため、皮膚に吸収されやすく、アレルギーを引き起こすことも。化粧品に添加される防腐剤でさえ、肌に炎症を起こすことがある。

 しかも化粧品のように理化学試験も行われていないので、安全性が担保できない以上、肌につけるのは避けたい。

 ただし、「アロマオイル」がすべて悪者というわけではない。アロマテラピーによる効能を求めずに、香りを楽しむだけなら問題はない。大事なのは、「アロマオイル」と「精油」の違いを理解して選ぶことだ。

本物を100円で売れるはずがない

 小野さんは、さまざまな種類の「精油」の中から、自分の不調に合うものを選んで使えば、症状の変化が期待できると話す。それは、「精油」の成分に自然治癒力を高める作用が認められているから。

「『精油』の作用を身体に取り入れるための方法はおもに2つ。匂いをかぐ芳香と、希釈した『精油』を身体に塗るトリートメントです」

 1つ目の芳香は、ティッシュペーパーに少量を染み込ませたり、アロマディフューザーなどで「精油」の香りを漂わせる。

「香りをかぐと緊張をやわらげる、イライラした気持ちを静めるなど、感情をコントロールすることもできます。近年では、認知症予防など、脳に働きかける作用があるという研究報告もされており、シニア世代にも日常的にぜひ取り入れてほしいです」

 2つ目は、希釈した「精油」を顔や脚などに塗り、手で優しくトリートメントする。

「『精油』が肌内部に浸透して潤いを高めたり、筋肉の疲労を癒す作用があります」

 ただし、「アロマオイル」では、これらの作用はいっさい期待できないのだ。

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「精油」を買うときは裏面表示をチェック!

 最近はインターネットで購入するのが主流となっている精油。本物を選ぶには、どうしたらいいだろうか。

「必ず『精油』か『エッセンシャルオイル』と書かれています。裏面には『学術名』や『抽出部位』、『抽出方法』、『原産国』を表記しているメーカーがほとんどです」

 価格も大切だ。

「『精油』の種類にもよりますが、販売価格は安くても柑橘系で約1千~2千円の価格帯です。そもそも本物はものすごく少量しかとれず、高価なもの。あまりに安いものは『ちょっとおかしい』と思ったほうがいいですね」

 つまり「精油」と書いてあっても、極端に安いものは要注意だ。

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「『精油』という表示なのに非常に安い商品があって販売元に問い合わせました。『皮膚に使用してはいけない精油』との回答で理由は教えてもらえず。安全に使えば『精油』は肌に塗れるという常識が崩れてきています」

 さらに効能にこだわるなら、成分分析がされて構成比率がわかっている「ケモタイプ(化学種)精油」があるメーカーを選ぶと安心。同じ植物でも育った環境によって含まれる成分が変わるため、効果効能に違いが出るそうだ。

「代表的なのはローズマリーの精油。3タイプあり『シネオール』なら鼻やのどの不調に、『カンファー』なら筋肉や神経に働きかけるなど、効果も異なります。フランスではそれぞれの特徴を医療の中で役立てているんです」

 例えば品名に「ローズマリー」ではなく、「ローズマリーシネオール」などと書かれていれば違いを認識して販売している証拠。そのようなメーカーなら安心して購入できるという。ケモタイプは香りが奥深いので、違いを比べてみるのもいい。

 たとえ安全な「精油」が買えたとしても、使い方を間違えると危険だ。ネットなどで驚くような使い方が広まっていることにも警鐘を鳴らす。

「私の生徒さんには『マスカラにラベンダーの精油を入れるとまつげが伸びる』という話を聞いた人がいるんです。『精油』が目に入る可能性のある使い方は言語道断。絶対にやってはいけません」

 正しい知識を身に付け、それぞれの目的に合わせて安全に楽しみたい。

「精油」はココをチェック!

 間違って買わないための要確認箇所!

裏面表示

「精油」か「エッセンシャルオイル」の表記とともに抽出部位、抽出方法、原産国が書かれているかを確認しよう。天然成分100%のものなので、成分として香料や界面活性剤などの記載があれば「精油」ではない。

【真性ラベンダーの場合】
Lavandula angustifolia
抽出部位:花・葉
抽出方法:水蒸気蒸留法
原産国:フランス

価格

「アロマオイル」は「精油」に比べて価格が安い。「精油」は品質が上がるにつれて価格も高額になっていく。

 また、極端に安い「精油」は、農薬を使用した植物から作られている可能性があるため、香りを楽しむのはいいが塗布しないほうがベター。

匂いをかぐことで、記憶力を上げる認知症予防など、脳に働きかける作用もある
小野江里子さん●アロマエキスパート。株式会社イシス代表取締役。不調解消に精油を使ったことがきっかけでアロマテラピーの世界へ。現在はアロマスクールも主宰。近著に『薬に頼らないアロマ的セルフケアレシピ』(ソシム)。
教えてくれたのは……小野江里子さん●アロマエキスパート。株式会社イシス代表取締役。不調解消に精油を使ったことがきっかけでアロマテラピーの世界へ。現在はアロマスクールも主宰。近著に『薬に頼らないアロマ的セルフケアレシピ』(ソシム)。

(取材・文/松澤ゆかり)