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「女性は40代になると加齢によって筋肉が減少し、皮下脂肪が増えます。さらに更年期になると、脂肪の燃焼を促す働きをしていた女性ホルモン『エストロゲン』が減り、代謝がグッと下がります」と話すのは、血圧や血糖値に詳しい医師の栗原毅先生。

女性ホルモンの減少で内臓脂肪がつくように

 平均閉経年齢は50.5歳(厚生労働省調べ)とあるように、50代は閉経後に女性ホルモンの分泌量が急激に減少する。その結果、皮下脂肪だけでなく内臓脂肪もつきやすくなるのだ。

「女性は男性に比べて内臓脂肪がつきにくいといわれていますが、更年期以降は関係ありません。だんだんと下腹がポッコリ出てくる人が多いのではないでしょうか」(栗原先生、以下同)

更年期女性にありがちな体形

 栗原先生によれば、近年のコロナ禍の影響で、外出や活動量が減って筋肉量が若いころより大幅に落ちた女性が増えている。

「運動習慣がない人は顕著で、腹筋がほとんどないと言ってもいいくらい。筋肉量が少なければ脂肪を燃焼できず、ますます脂肪が身体につきやすくなります。お腹まわりの筋肉も同じように衰えて、脂肪がついたお腹を支えられずに下腹が出てきます」

 また、姿勢の悪さが影響していることも。

「背すじを伸ばそうとしても背筋が弱いと、背中を丸めた猫背になり、歩くときに下腹が出てしまうんです」

 更年期世代がこの下腹ポッコリ体形になったときが、同時に“血圧・血糖値ピンチ”のサイン。

「過剰についた内臓脂肪からは血管を収縮させる物質が分泌されるので、血液が流れにくくなり、血圧が上がります。また、内臓脂肪が増えると血液中の糖分が多くなるので、血糖値も上がります」

 その背景には、肝臓の状態が大きく関係していると栗原先生は考えている。

脂肪が肝臓につくと血圧と血糖値が上昇

内臓脂肪の多い人が気をつけなくてはいけないのは、肝臓に中性脂肪が20%以上たまった状態の病気『脂肪肝』です。脂肪肝というと、脂っこい食事やアルコールが原因だと誤解されることがありますが、日本人の場合は多くが糖質のとりすぎなんですよ」

 肝臓はご飯やパン、果物などの糖質をとったときに、エネルギーとして使われずに余った分を中性脂肪などとして蓄える。

 この容量がオーバーすると、脂肪肝に。栗原先生によれば、脂肪肝は運動不足なども影響するが、特に甘いものが好きな中年女性に多いそうだ。

内臓の周辺に内臓脂肪(ピンク)がたっぷりとついているのがわかる。その周りを皮下脂肪(黄色)が取り囲んでいる(提供/栗原毅先生)

「脂肪肝になると、男女共に血圧や血糖値が上がりやすくなります」

 なぜなら、血液中に中性脂肪があふれてしまうからだという。

「増えた中性脂肪が血管の内部を傷つけ、そこにコレステロールがこびりつくと、動脈が硬くなります。すると血流も悪くなり、血管に強い力をかけないと血液を流せないので、血圧が上がります」

 また、血糖コントロールも肝臓の重要な働きだ。血液中に余った糖を肝臓に貯蔵し、血糖値が上がらないようにする役割がある。

「しかし、脂肪肝になると、血糖値を下げるためにすい臓から分泌される『インスリン』というホルモンの効果が悪くなってしまうのです」

 食事で摂取したご飯やパンなどの糖質は、胃や腸で糖に分解されて血液の中に入り、インスリンの働きで全身に届けられてエネルギー源になる。この働きが衰えれば、高血糖になる。

健康診断の結果で脂肪肝の早期発見を

 しかし、脂肪肝になっても自覚症状が現れるわけではない。自分が脂肪肝かどうかを知るには、健康診断などで行う血液検査の肝機能値から判断する。チェックするのは、肝機能を表すALT、AST、γ―GTPの3つの数値だ。

 ALTとASTの一般的な基準値は10〜30IU/Lだが、栗原先生は長年の治療実績から、17IU/L以上になれば脂肪肝が疑われ、30IU/Lではほぼ脂肪肝になっているという。

「私が理想値として提唱するのは、ALTとASTは5〜16IU/Lで、γ―GTPは女性の場合は10〜30IU/Lです。一般的な基準値よりもかなり厳しい数値ですが、これを超えている人は、脂肪肝の可能性が高いので要注意です」

血液検査でわかる肝機能の数値をチェック!

 一般的な肝機能の基準値もあるが、血圧や血糖値を保ちたいなら栗原先生が推奨する「理想値」を目指そう。γ-GTPは女性の場合、30IU/L以下を目標に。

基準値
・ALT(GPT)10〜30IU/L
・AST(GOT)10〜30IU/L

 健康診断や医療機関の検査などで一般的に用いられる数値

理想値
・ALT(GPT)16IU/L以下
・AST(GOT)16IU/L以下

 栗原先生の長年の治療実績に基づいて導き出された数値

更年期が血圧と血糖値の“曲がり角”

 国民健康・栄養調査によれば、更年期を境に高血圧の女性は3倍以上に増加。女性は男性よりも、より注意が必要だという。

「更年期の間だけ血圧が不安定になり乱高下するパターンもありますが、そのまま高血圧になる方もいます。

 女性ホルモンには血管をやわらかく保つ働きがあるので、閉経に伴い、血管の柔軟性が低下してしまうのです。男性ホルモンの働きが増加することも高血圧の要因に」

 もし、更年期に血圧が不安定だと感じたら、早めの受診を。日々の血圧をこまめに記録しておくようにすることが大切だ。

「高血圧や高血糖を放置しておくと、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気になる可能性もあります」

 また、更年期の女性ホルモンの変化は、血糖値にも影響がある。

「女性ホルモンが減少すると、インスリンの作用が低下し、血糖値が上がりやすくなるのでさらなる注意が必要です」

 栗原先生によれば、女性は脂肪肝が原因で糖尿病を発症するケースが多いという。

「だるい、喉が渇くといった自覚症状が現れたときには糖尿病がかなり進んでしまった状態といえます。内臓脂肪や脂肪肝は皮下脂肪に比べ、落としやすい脂肪でもあるので、主食をちょっとだけ減らすなど、すぐできることから始めてみてください」

 栗原先生は無理なダイエットにも警鐘を鳴らす。

「糖質を極端に制限すると、脂肪肝が悪化してしまう。そこで、私はご飯やパン、めん類などの主食を1割減らす方法を推奨しています」

血圧にも血糖値にも有効な“タンパク質摂取”

 主食や糖質を減らしても、タンパク質だけはしっかりとるべきだという。

 タンパク質は筋肉をつくる大事な材料になり、内臓脂肪を減らす効果があるからだ。

「良質なタンパク質をとるには肉が最適。肉を食べて運動をすれば筋肉が増えて、血圧や血糖値をダブルで下げることができます。また、タンパク質を適量とることが、脂肪肝の予防につながります」

 さらに消化吸収を良くするためには、ゆっくり食べることが大事。早食いをすると糖が一気に血液中に取り込まれるので、血糖値の急上昇が起きてしまうので、よく噛むようにしよう。

 一方、血圧を抑えるには、塩分の摂取を控えること。それには、料理にだしをきかせるようにする。だしのうまみを感じられればストレスを感じないで減塩できるので、うまみ成分を含むきのこ、貝類などを多用するとよい。

 食事だけでなく、生活習慣を変えたり運動を取り入れれば、薬を飲まずに血圧や血糖値を改善することも可能だ。

血圧や血糖値を下げる薬を飲めば、検査数値は正常値になるかもしれませんが、結局は対症療法にすぎません。根本的な点を改善しないと、いつまでも薬を飲み続けるはめになりますよ」

 医師おすすめの改善ワザをしっかりチェックしよう!

更年期に血圧・血糖値が上がるメカニズム

40代前半「基礎代謝が下がり筋肉量が減る」

40代後半「女性ホルモンの減少で内臓脂肪が増える」

肝臓に脂肪がつき「脂肪肝」に

・インスリンの作用が低下して血糖値上昇!
・動脈硬化がすすみ血圧が上がる!

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高血圧&高血糖をまとめて解消!薬不要のラクラク改善ワザ8

 薬に頼らない治療に実績がある栗原先生イチオシの改善ワザを紹介。血圧と血糖値、両方ダウンできて一石二鳥!これで更年期を上手に乗り切って。

【食習慣】

ワザ1:ミートファーストでタンパク質の量を増やす

 食べるときは、タンパク質を最初に食べる「ミートファースト」に変えてみて。タンパク質は筋肉をつくる材料になり、脂肪肝を予防する効果が期待できる。肉ではなく、魚や卵でもOK。次に野菜、ご飯やパンは最後に食べよう。

 その結果、内臓脂肪が落ちやすくなり、おのずと糖質の摂取量が減る利点も。1日にとるべきタンパク質の量は体重が目安。体重50kgなら約50gを摂取して。

ミートファーストでタンパク質の量を増やす(イラスト/やまだやすこ)

ワザ2:早食い厳禁!ひと口30回噛んで食べる

 早食いをすると、短時間で食べ物(主に糖質)が胃に到達するため、血糖値が急上昇してしまう。ひと口食べたら、30回を目安によく噛んでから飲み込もう。食事時間は20分以上かけるようにすると、満腹感が得られ、食べすぎ予防に。

 また、糖質の吸収が緩やかになり、全身の血流も良くなるため、脂肪が燃焼しやすくなり、血圧の上昇も防げる。「ひと口食べたら箸を置く」のも意識したい。

早食い厳禁!ひと口30回噛んで食べる(イラスト/やまだやすこ)

ワザ3:食事のお供は緑茶がベスト

 1日5杯ぐらいを目安に食前、食中に緑茶を飲もう。緑茶に含まれるポリフェノールの一種「カテキン」は糖質の消化吸収を抑えたり、糖質が血液中に吸収されるのを遅らせる効果が。

 脂肪を減らす働きもあり、内臓脂肪はもちろん皮下脂肪も落ちることがわかっている。また、うまみ成分の「テアニン」にはリラックス効果があり、血圧の上昇を穏やかにしてくれる。

ワザ4:1日大さじ2杯のプラ酢をする

 酢の主成分「酢酸」にはアミノ酸が含まれていて、脂肪を減らし、脂肪燃焼の効果が期待でき、また食後の血糖値の上昇を緩やかにする。1日に大さじ2杯(30ml)を目安に酢をとれば、内臓脂肪を燃やしやすくなる。

 大さじ2杯のとり方としては、副菜にもずく酢などの酢の物を加えたり、中華料理などに酢をかけて食べるとよい。

1日大さじ2杯のプラ酢をする(イラスト/やまだやすこ)

ワザ5:おやつは親指1本分の高カカオチョコレートを

 カカオの含有量が70%以上の高カカオチョコレートは、ポリフェノールを多く含むため、インスリンの働きを改善して血糖値の上昇を抑制する。

 また、血流をスムーズにして血圧を下げる効果も期待できる。1回に食べる目安は、親指1本分(5g)。1日25gまでなら肥満になりにくいといわれている。「チョコレート寒天」にすると、満足感がさらにアップするので、食前にとるのもおすすめ。

おやつは親指1本分の高カカオチョコレートを(イラスト/やまだやすこ)

「チョコレート寒天」の作り方
 水400mlと粉寒天8gを鍋に入れて1分間火にかけて混ぜ、高カカオチョコレート40gを加えてよく溶かす。
 熱いうちに製氷皿に入れ、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。型から抜いて食事や食間に2個ずつ食べる。密閉容器に入れて冷蔵庫で3、4日保存可能。

【生活習慣】

ワザ6:週1の舌そうじで味覚を敏感に

 舌の表面は、食べかすや細菌などが付着して白くなる舌苔ができやすい。舌苔は舌上の味覚を感じるセンサー「味蕾」を覆い、味覚を感じにくくする。

 市販の舌ブラシで舌苔をとると、味覚が敏感になり、高血圧や高血糖の原因となる塩分や糖分を減らしても味を感じられる。週1回を目安に、奥から手前方向に、強くこすらず優しくなでる。

週1の舌そうじで味覚を敏感に(イラスト/やまだやすこ)

ワザ7:ぐっすり眠り、自律神経を整える

 血圧や血糖値は睡眠の影響を受けやすい。質のいい睡眠をしっかりとれば、血圧も血糖値も安定する。また、睡眠中には身体の疲労が回復し、傷ついた血管も修復される。

 十分な睡眠をとって自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが整うと、食欲を抑えるレプチンというホルモンの分泌が増えて、肥満を防ぐこともできる。

【運動習慣】

ワザ8:5分もも上げ+10分大また歩きで太ももとふくらはぎを強化

 筋トレと有酸素運動をセットで行うと、血圧と血糖値を下げる効果がある。筋トレでは、大きい筋肉を鍛えたほうが、脂肪燃焼効果が高い。

 人間の筋肉の中で一番大きい太ももの筋肉を5分ほど「もも上げ」で鍛えれば、基礎代謝が上がり脂肪がつきにくい身体になる。有酸素運動では、脂肪や糖質を効果的に燃焼できるので、「大また歩き」でふくらはぎの筋肉を鍛えて。

5分もも上げ(イラスト/やまだやすこ)

「もも上げ」のやり方
1.いすに座り背すじを伸ばし、両足を一緒に床と水平になる位置まで持ち上げ、1分間キープ。
2.片足ずつ交互にリズミカルに上げ下げするのを1~2分続ける。1~2を3セット行う。

10分大また歩き(イラスト/やまだやすこ)

「大また歩き」のやり方
 運動強度を上げるためには歩幅を大またに。背すじを伸ばしお腹をへこませ、腕を大きく振って歩く。10分以上は速歩きを続けてみて。

栗原毅先生●医学博士、栗原クリニック東京・日本橋院長。北里大学医学部卒業後、慶應義塾大学教授などを経て現職。著書は『2カ月でぽっこりお腹が改善!内臓脂肪の落とし方』(主婦の友社)など。
教えてくれたのは……栗原毅先生●医学博士、栗原クリニック東京・日本橋院長。北里大学医学部卒業後、慶應義塾大学教授などを経て現職。著書は『2カ月でぽっこりお腹が改善!内臓脂肪の落とし方』(主婦の友社)など。

(取材・文/松澤ゆかり イラスト/やまだやすこ)