※写真はイメージです

 “食生活にはずっと気をつけているから大丈夫”と思っている人こそ、60代は鬼門。

「健康寿命を延ばすため、65歳を過ぎたらそれまでの食べ方を一新してほしいです」

食生活を変えないとやつれたシニアに!

 そう提言するのは管理栄養士の菊池真由子さん。

 生活習慣病予防の観点から、“まず野菜”“肉より魚”“ご飯は少なめ”といった食事を心がけている人は多いはず。もちろん、これは間違いではない。

 しかし、加齢で筋力が落ち、食事量も減ってくる60代以降に40~50代と同じ食べ方を続けていると逆効果になる場合が多いと菊池さん。“痩せて健康的”ではなく“やつれて元気がない”シニアがたくさんいると懸念する。

「一気に老化が進む60代。筋肉量や筋力を落とさないためにはタンパク質、骨粗鬆症を防ぐためにはカルシウムが重要になります。

 50代までとは必要な栄養素や摂取量が変わるので、食生活をシフトしないと、急速な加齢による身体の変化に対応できません」(菊池さん、以下同)

 もともと筋肉量が少ない女性は、特に加齢による筋力低下のダメージが大きい。年齢によって食生活の転換は必須で、ぜひ食べ方を見直してほしい。

「年齢と筋肉量の関係」グラフ(資料提供:筑波大学大学院久野研究室データをもとに改編)

「基本は“量をしっかり食べる”を意識すること。仕事をリタイアするなど、生活環境が大きく変わる65歳は食事を見直すよいきっかけになると思います」

 では、具体的にどう食生活を変えればよいのか。健康寿命を延ばす食べ方のポイントをチェック!

いくつ当てはまる!?寿命を縮める!食べ方チェック
□サラダを先に食べ血糖値の急上昇を避ける
□肉は噛みにくくなったのであまり食べない
□脂質をカットしてコレステロールを抑える
□糖分が多いので果物は少しにする
□ご飯を少なくして、糖質オフを意識する
□身体によいとされる食べ物を調べて食べ続ける
□塩分過多になるので外食はなるべく控える
□お昼ごはんは麺などであっさり済ませる

危険な食べ方1:「野菜ファースト」で肉は少し

1日3食のタンパク質必食で寝たきりを阻止

 まず、60代以降の食事でいちばん心がけたいのは、タンパク質を積極的にとること。

「65歳を過ぎると、一気に足腰の筋肉量が減って筋力がキープできなくなり、身体が弱る“フレイル”状態を引き起こす人が増加。“寝たきり”の入り口に立ってしまうわけですが、それを防ぐために必要なのがタンパク質です。

 特に、年齢を重ねると食が細くなってタンパク質の摂取量自体が不足する上、吸収能力や筋肉をつくる力も落ちていくので、3度の食事でしっかりと取り入れることを意識しなければいけません」(菊池さん、以下同)

 タンパク質が役立つのは、筋力の保持だけではない。不足してしまうと体力の低下とともに免疫力が下がったり、貧血になるなどして病気にかかりやすくなる。さらに、脳の働きが悪くなり、思考力、記憶力等の低下も招く。

 では、しっかりとタンパク質を摂取するためにはどうすれば? 菊池さんがおすすめするのは、“肉・魚ファースト”の食事だ。

「血糖値を急激に上げないために野菜を最初に食べる“ベジタブルファースト”がもてはやされていますが、肉や魚を最初に食べても血糖値の急上昇は防げます。

 むしろ、食べられる量が減りがちな年代は、先に野菜を食べてしまうと、そこでお腹を満たしてしまい、肉や魚を必要量、食べられなくなるデメリットのほうが大きい。シニア世代は食事の最初に肉や魚を食べるのが最適なのです」

肉が若々しさの秘訣!積極的に食べるべき

 中でも、60代以降のタンパク質源として菊池さんが積極的に取り入れてほしいというのは肉。肉に含まれるビタミンB群は代謝を活発にし、若々しい身体の維持に結びつくと話す。

「若いころは“肉より魚を食べましょう”が合言葉ですが、年齢を重ねたら肉と魚は同じ比率でOK。肉の脂肪は、スタミナアップや肌ツヤの良さを保つのにも役立つので“若見え”にもつながります」

 また、肉を食べることは咀嚼力を鍛えることにも貢献。ドライマウスや歯周病など口の中の健康維持にも効果がある。

「歯周病になると、認知症や心筋梗塞のリスクが高まります。やわらかいものが食べやすくなり、“ステーキなどは食べるのがおっくう”という人もぜひ頑張って食べてみてほしいです」

“お昼に肉を食べる人”は元気に長生き!

 タンパク質の摂取量を増やすのが重要とはいえ、1回の食事で肉や魚をたくさん食べれば大丈夫というわけではない。

「1度に身体に吸収できるタンパク質の量には限りがあります。夕食だけたっぷり食べてもあまり意味がありません」

 納豆や豆腐、卵、肉、魚など、何でもよいので、1日3食タンパク質をとる習慣を!

麺類や丼ものなど炭水化物がメインになりそうなランチは要注意。肉や卵などタンパク質がしっかりとれ、栄養バランスが整ったメニューを

肉・魚ファーストの食べ順

1:肉・魚・卵・大豆などのタンパク質
2:野菜などの食物繊維
3:ご飯などの糖類

 食べ順を意識してタンパク質たっぷり、バランスよく食べよう

※写真はイメージです

菊池さんおすすめ肉・魚以外のタンパク質

 物価高騰で肉も魚も高いし、毎食の調理も手間……という場合は、市販のタンパク質豊富な食材をどんどん使ってほしいと菊池さん。

「第一優先は、タンパク質の摂取量を増やすこと。サラダチキンやツナ缶、ハム、チーズ、ちくわなど、“そのまま”“切るだけ”で、お手頃かつ手軽にタンパク質を取り入れられる加工食品を副菜に足すなどし、少しでも摂取量を増やしましょう」

 タンパク質の供給源がいつも同じにならないようにするためにも、市販の食材を上手に使うのは賢い選択。

 ただし、加工食品は塩分が多めになりがちなので、味つけには注意。野菜をたっぷり加え、いつもより薄味を意識しよう。

卵/6.2g(1個50g)

 アミノ酸がバランスよく含まれた良質なタンパク質がたっぷり。免疫細胞を増やしてくれる亜鉛も豊富。1週間で6~7個、コレステロールが気になる人は2~3日に1個が目安。消化がよい半熟卵で食べるのがおすすめ。

納豆/7.3g(1パック50g)

 血液をサラサラにする酵素、中性脂肪を落として脂肪の代謝を促す「大豆サポニン」、血糖値の急上昇を抑える水溶性食物繊維など、認知症のリスク低減に役立つ栄養素を豊富に含む。食べるのは週に1~2パックを目安に。

厚揚げ/20.6g(200g)

 同じ大きさのサーロインステーキと比較すると、タンパク質は同量なのにカロリーはほぼ半分。焼く、煮るなど調理用途も多様で使い勝手がよく、ボリューム感もあるので主菜にも。肉や魚より安価でお財布にもうれしい。

牛乳/4.5g(200ml)

 骨粗鬆症からの寝たきりを防ぐためにはカルシウムが必須。牛乳ならコップ1杯(200ml)で1日に必要なカルシウムの1/3が摂取可能。さらに、免疫力を上げてくれる成分も。栄養素のバランスがいい普通タイプを選んで。

危険な食べ方2:野菜は質より量! 野菜ジュースで補う

色の濃い野菜が老化も免疫力低下も防ぐ!

 “野菜は何でもたっぷり食べる”が基本。その上で、

「食が細くなる年代は、より身体に重要なものから優先順位をつけて食べてほしい」

 と菊池さん。特に60代が食べたいのは、緑黄色野菜。かぼちゃやブロッコリー、モロヘイヤ、にんじん、トマトなど、断面の色が濃い野菜を選べば大丈夫。

「豊富に含まれているビタミンA、C、Eが老化を抑えて、免疫力の低下も防ぐというダブルの効果を発揮してくれます」

 また、野菜は全般的に腸内の有用な菌を増やす不溶性食物繊維が豊富なので、緑黄色野菜を優先しつつ、ほかの野菜もプラスして食べればなおよし。

 さらに、生で食べられる野菜は、そのまま食べるのが望ましい。

「野菜は、体内の余分なナトリウム(塩分)を尿として身体の外に出してくれるカリウムを豊富に含んでいます。しかし、ゆでたり煮たりすると約30%が溶け出てしまうので、生野菜でカリウムを逃がさず食べることを心がけるのがよいですね。

 日本人の食生活による死因の1位が“塩分過剰”という研究結果もあるので、意識的に生野菜でカリウムをとりましょう」

 一方、100%の野菜ジュースやスムージーで野菜をとるのはおすすめできない。

「野菜不足を補うには便利でよいですが、ジュースだけに頼ってはいけません。野菜そのものを食べるときと比べて、どうしても栄養成分が損なわれていると心得ておきましょう」

ジュースの場合は手作りで

 市販のジュースやスムージーの場合、糖分も多いので、1日1本(200ml)を目安に、あくまで補助食品として捉えること。

迷ったら選ぶべき野菜

 緑黄色野菜を両手に1杯程度1日350gを目指して食べよう!

※写真はイメージです

危険な食べ方3:フルーツは果糖たっぷりで太るから注意!

適量の果物は太らない&血糖値も心配不要

 果物には果糖が含まれていることから、“太りそう”というイメージを持っている人が多いかもしれないが、これは間違い。菊池さんは「果物を食べても太りません」と断言する。

「果物の80~90%は水分。量に気をつければ、毎日食べても問題なし。むしろ、日本人の食生活による死因を調べた研究の3位には、果物不足が挙げられています」

 果物にはさまざまな栄養素が豊富に含まれているため、食べるメリットは大きい。

 例えば、水溶性食物繊維のペクチンは血糖値の上昇やコレステロールの吸収を抑える働き、ビタミンCは免疫力アップ、カリウムは体内の余計な塩分を体外に排出する働き、ポリフェノール類は老化に対抗する力を高める働きをそれぞれ担ってくれる。

 果糖も血糖値を上げるが、ブドウ糖よりも上げ幅は小さいので、食べすぎさえしなければ大丈夫。

「1日に食べる果物の目安量は、握りこぶし大程度(約200g)。だいたいバナナ1本、みかん2個、キウイ2.5個分です。健康寿命を延ばしたいなら、間食を甘いおやつではなく果物に」

 しかし、ジュースや缶詰、ジャムで果物を食べた気になるのはダメ。加工の過程で栄養成分が大幅に失われる上に、糖分が多いのでマイナスが大きい。

 また、果物入りのヨーグルトや大福などで使われている果物だけでは量がまったく足りない。果物そのものを食べることを心がけて。

「お手頃に買える季節の果物で、旬を楽しみながら食べるのがよいと思います」

旬の果物をバランスよく1日200gを目安に食べよう
・バナナ/1本200g
・みかん/1個100g
・キウイ/1個80g
・いちご/5個75g
・柿/1/2個100g
・りんご/1/2個 120g

危険な食べ方4:毎食の炭水化物は控える

ご飯の量を減らすと寿命を縮めることに!?

 メタボ対策としてご飯を控えめにしている人も、60代になったら解禁を。

「太ってはいけないと思ってご飯を少なめにし続けていると、気づかないうちに食べられる量が減ってしまうのが60代以降です。食事の総量が減ると、体力がどんどん落ちてしまうので、逆に“しっかり食べよう”という気持ちでいることが大切。

 ややぽっちゃりぎみのほうが健康的に長生きできるということも最新の研究で明らかになっています」

 また、ご飯やパン、麺類といった炭水化物(糖質)の摂取量と総死亡率の関係を調べた研究によると、摂取量が食事全体の50~55%の人がもっとも寿命が長く、30%未満の人はそれより4年も短かったという報告も。

「日本人の炭水化物摂取量の平均は約60%なので、メタボと診断されていない限り、もともと無理に減らす必要がないのです」

 1食につきお茶碗1杯分(約150g)を目安に、毎日3食しっかり食べること。

危険な食べ方5:肉の脂身はなるべく避ける

モモやロース肉で若々しい肌もキープ

「高血圧や動脈硬化などを防ぐため、コレステロールを増やす肉の脂身は避けてきたという人は多いと思います。でも、65歳を過ぎたら、コレステロールは絶対悪ではないのです」

 例えば、コレステロールはホルモンや免疫細胞の材料になって病気から身体を守ってくれたり、肌のうるおいを守って見た目の若々しさを保つことにも役立っている。

 さらに、エネルギーとして消費されにくいので、スタミナの強化にも。徹底的に排除するのではなく、量に注意して取り入れることが望ましい。

ヒレ肉のイラスト※写真はイメージです。

「脂身が特に多いバラ肉やひき肉、鶏の皮などは避けて、脂身が比較的少ないモモやロース、ヒレ肉を選んで食べてみましょう」

 また、オリーブオイルや植物油、魚の脂であるEPAやDHAはコレステロール値を下げる効果が期待できる。特に、エキストラバージンオリーブオイルには炎症を抑える効果もあり、積極的に使って。

危険な食べ方6:1日30品目でバランスは完璧

回転食でいろんな食品を順に食べる

 健康のためには“栄養バランスのよい食事”が欠かせないとは思うけれど、具体的にはどうすれば?

「1日30品目といっていた時代もありましたが、これは現実的ではないですよね。実は特定の食品に偏らず“いろいろな食品を食べること”だけで十分です」

 菊池さんがおすすめするのは、“回転食”という考え方。例えば、タンパク質なら卵、鶏肉、魚、豚肉、豆腐というように、毎回の食事で食べるものを順番にかえて回転させていく。

「前の食事とは違う食材を使うことを心がけることで、食品同士の栄養の過不足を補え、自然と栄養バランスがよくなります。毎回、レシピを考えるのが大変と思うかもしれませんが、実は調理法はさほど重要ではありません。

 野菜炒めが続いても大丈夫。使う食材さえかえれば、得られる栄養素は変わるので問題ないのです」

 サラダが続くときは使う具材を1つでよいからチェンジして、少しずつでも食べる食材のバラエティーを豊かにすること。外食や惣菜を買う場合も、同じメニューが続かないようにするのがポイントだ。

危険な食べ方7:メタボ予防で食は細め

手のひらで量れば自分の適量がわかる!

 何をどう食べたらよいかがわかったら、あとはどのくらいの量を食べたらよいかを知ることが大切。菊池さんは、自分の手のひらを使った“手ばかり”で理想の適量を知ることを推奨している。

「身体と手のサイズはだいたい比例しているので、手で食事量を量ることで自分に合った食事の必要量が簡単にわかります。1日の目安量は、タンパク質と緑黄色野菜が“両手に1杯”、そのほかの野菜が“両手に2杯”。

 厳密に量る必要はなく、自分の手のひらサイズと比べて、“なんとなくこのくらいかな”という程度で問題ありません」

1日に必要なタンパク質量は両手に1杯 片手に卵なら1個、ささみは3~4枚でOK

 また、毎日しっかりと食べられなくても、3日~1週間の平均でだいたい理想の量を目指せばよい。これに加えて、ご飯は、毎食茶碗1杯を。

「手ばかりの目安量を目標に食べ続けることで、必要な栄養素が不足することなく健康を保つことができます。自分だけでなく、親の介護時にも役立ててください。

 また、年齢が高くなってどうしてもその量が食べられなくなってきたら、野菜を減らしてタンパク質を優先的に食べるように心がけましょう」

菊池真由子さん●管理栄養士。健康運動指導士。NR・サプリメントアドバイザー。国立循環器病センター集団検診部(現・予防検診部)勤務などを経て、厚生労働省認定健康増進施設などで栄養アドバイザーを務める。著書に『65歳から体と頭を強くするおいしい食べ方』(三笠書房)ほか。
教えてくれたのは……菊池真由子さん●管理栄養士。健康運動指導士。NR・サプリメントアドバイザー。国立循環器病センター集団検診部(現・予防検診部)勤務などを経て、厚生労働省認定健康増進施設などで栄養アドバイザーを務める。著書に『65歳から体と頭を強くするおいしい食べ方』(三笠書房)ほか。

(取材・文/河端直子)

 

「年齢と筋肉量の関係」グラフ(資料提供:筑波大学大学院久野研究室データをもとに改編)

 

麺類や丼ものなど炭水化物がメインになりそうなランチは要注意。肉や卵などタンパク質がしっかりとれ、栄養バランスが整ったメニューを

 

1日に必要なタンパク質量は両手に1杯 片手に卵なら1個、ささみは3~4枚でOK

 

ジュースの場合は手作りで

 

ヒレ肉のイラスト※写真はイメージです。

 

※写真はイメージです

 

※写真はイメージです