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 止まらない食料品の物価高やガソリン代の高騰、そして円安……。日本じゅうの誰もが先行きの不安を抱いているが、現役世代はまだいい。打撃をもろに受け、人並みの暮らしにすら手が届かない、貧困ど真ん中に取り残されているのが高齢者たちだ。

シニア女性の困窮は驚愕の低年金が原因

 高齢者の貧困問題に詳しい藤田孝典さんはこう語る。

「コロナ禍で貧困シニアは急増しましたが、コロナがおさまっても、一度困窮に陥ってしまった生活はそうそう立て直せない。特に、高齢女性の貧困問題は非常に深刻で、これからも急増していくと思います」

 同じ年代の男性に比べると、苦しい暮らしを余儀なくされている女性たち。この差はいったいどこからくるのだろう。

「それは、女性が圧倒的に低年金だということにつきます」(藤田さん、以下同)

 年金は主に、全国民が加入している「国民年金」と、会社員や公務員として働く人が加入する「厚生年金」があり、その合算が支給される。国民年金の受給平均額は月5万5000円ほどで、男女で比較しても、男性5万8806円、女性5万2708円と、多少女性が少ないものの大した差とはいえない。

 ところが一転、厚生年金となるとその差は歴然。男性の平均額16万3380円に対して女性は10万4686円と、1.5倍以上の差がある。

「今、年金をもらっている世代の女性は、正社員になっても結婚・出産で退職が当たり前。長く働くチャンスを奪われ、再び働きたくてもパートかアルバイトで、当時は厚生年金に入ることができなかった。結果、国民年金だけ、あるいは厚生年金はあってもわずか、という低年金に苦しんでいるのです」

 それでも、夫が厚生年金を受給できていればまだいい。たとえ夫が先に亡くなって単身になっても、多くの場合、厚生年金の受給額の4分の3が遺族年金として支払われるからだ。

「会社で働く夫とそれを支える妻というモデルにあてはまればいいのですが、そこから漏れるととたんに不利になるのが今の年金制度。夫が自営業だったり、夫と離婚した人、早くに死別した人も、ほぼ国民年金しかもらえない。生涯単身で、働いてはきたけれど会社員ではなかったという女性も国民年金しか受け取ることができないのです」

 国民年金──、まるで国民を思いやるような響きの名前だが、実のところ生きることもままならない低年金というのがその正体なのだ。

ダブルワークもざらパワハラやいさかいも

 いくら高齢といっても、さすがに月5万円ちょっとの収入では、毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

「そういった低年金女性の倹約ぶりは壮絶で、とにかくお金を使わない。春は野草や山菜を採り、狭い畑で野菜を育て、知人友人に食料品をもらいながら生き延びる。とはいえ、それだけでは苦しいので、身体が動く人は働いている。ダブルワークも珍しいことではありません」

 しかし、高齢女性を雇ってくれる職種は限られている。サービス業の人手不足などで求人は増えてきたが、高齢者には狭き門。就ける仕事は介護、保育、飲食業の裏方、清掃など、どれもそれなりに体力を使う仕事ばかり。

 でも、たとえ身体のどこかが痛くても、働き口を失いたくないと、「元気です。健康です」とごまかしながら働き続けている人も少なくないという。

「80代半ばで働いている人もざらで、中には年齢を低く言っている人もいます。最近も、清掃の仕事で転んで手をついた拍子に骨折したシニア女性がいましたが、解雇されるのを怖がって労災も申請しなかったと……。仕事を失うのは死活問題なのです」

 若い人に交じって働く現場では、パワハラも横行している。足腰は弱り、力もなく、スピーディーに動けない高齢者は、仕事の効率化という点では煙たがられる存在。

「同じ賃金なら、若い人がいいというのが雇う側や一緒に働く人の本音で、『ばばあ、早く辞めろよ』『仕事おせーんだよ』といった罵詈雑言もあると聞きます」

 高齢女性が多く働いている介護施設に勤務する50代の女性に話を聞くと、高齢女性同士のいがみ合いや愚痴も目に余ると話してくれた。

「若い人からのパワハラもありますが、気持ちがギスギスしているのか、高齢者同士がたわいもないことで対立したり、ケンカしたりすることも多くて……。『あなたがやったんでしょ?』、『私じゃないわよ!』と失敗の責任をなすりつけ合うこともたびたび。

 いつも愚痴ばかりで『ああ、ほんとは辞めたい』、『こんなところで働きたくない』と言ってるけれども、しがみついている感じがして。

 職場の雰囲気も最悪で、若い人が嫌になって辞めてしまうんです。生活が苦しいのはわかるんですが、正直、自分は将来こんなふうにだけはなりたくない……って思っちゃいます」

 どこかで苦しさを吐き出すしかない現実と悲しみ、孤独。愚痴やいがみ合いは、「助けて」という悲鳴が姿を変えたものなのかもしれない。

犯罪に転落するケースも少なくない

 ショッキングな話だが、生活苦から犯罪に手を染める高齢女性も後を絶たない。

「昔からある話ですが、売春はなくなりませんね。70代、80代でもです。同じ女性が、何度も何度も繰り返す。それしか収入を得る手段がないのでしょう。

 あと、よくあるのは介護現場での窃盗です。施設で入所者の買い物のお金をくすねたり、おつりをごまかす、訪問介護では訪問先でお金やものを盗む。相手が認知症だったりすると、簡単に盗めてしまいますから。

 1回は大きな額ではないのですが、残念ながら福祉事務所で耳にする話です

 明るみに出れば解雇となるのが一般的だが、それとて別の事業所で仕事に就けないわけではない。繰り返し犯罪を重ねるケースもあり、闇は深い。

遠慮せず福祉制度を利用して

 十分な頼りとはいえない年金制度だが、他にも低所得者を救済する制度はいくつかある。生活保護がいちばんのセーフティーネットだが、それ以外に藤田さんがすすめるのが、「リバースモーゲージ」と「無料低額診療事業」だ。

「前者は持ち家がある人がお金を借りられる制度です。民間でもやっていますが、社会福祉協議会が実施している公的制度は福祉目的なので、安心かつ審査も厳しくありません。

 条件はいくつかありますが、いよいよ働けないとなったらじゅうぶん利用する価値はあります。後者は、低額や無料で医療を受けられる施設で、数は少ないですが各都道府県に設置されています。

 身体に不調があっても貧困から病院に行こうとしない高齢者は少なくないので、知っておいてほしいですね

 高齢者になると、インターネット環境からも疎遠になり、さまざまな情報が入りにくくなる。また、福祉制度のお世話になるのは恥ずかしいという思いが強い世代でもあるだろう。

 しかし、高齢女性の貧困は、国の年金制度の不備から生まれた副産物でもある。紹介した2つの制度についてはもちろん、困ったら自治体の福祉担当課に気軽に相談し、受けられる支援を上手に利用することを考えてほしい。

お金がない……! ときに頼れる制度2つ

その1 「持ち家利用」で現金を得る!

「リバースモーゲージ」は、持ち家を担保としてお金を借りられる融資制度。持ち家はあるけれど現金がない、という人にとっては、住む家を確保したまま収入が得られるのが利点。

 公的な制度は、各自治体の社会福祉協議会が窓口となっている。利用者は65歳以上、親以外の同居人がいないことが条件なので単身女性は対象内。

 土地付き一戸建てが対象となり、評価額の7割まで貸してくれる。ただし、借り主の死後は貸付金を返すか、物件を処分することになるので、財産を残すことは難しい。

その2 無料低額診療施設で医療費を減らす!

 医療費の負担に困っているなら、ぜひ無料低額診療事業を利用したい。

 あまり知られていないが、経済的な理由で必要な医療が受けられない事態を避けるための制度で、低所得者、ホームレス、DV被害者などが対象。低額または無料で診てもらえる医療施設が全国に約700か所ある。

 お金がなくて医療を受けられない、医療費を払うと生活に困るなどのケースで利用できる。住まいの自治体の福祉課、社会福祉課などに問い合わせを。

藤田孝典さん●社会福祉士。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に『脱・下流老人』(NHK出版新書)など。
教えてくれたのは……藤田孝典さん●社会福祉士。NPO法人ほっとプラス理事。反貧困ネットワーク埼玉代表。著書に脱・下流老人(NHK出版新書)など。

(取材・文/野沢恭恵)

 

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