きんのさん 1969年生まれ。49歳のとき、80代の母の介護をきっかけに都内に購入したマンションから築50年超えの団地に引っ越し早めの老い支度を始める。ブログ「団地日記」(写真/本人提供)

「以前の私はお金のことが心配で眠れない夜がありました。50歳から月12万円で暮らす“プレ年金生活”を始め、予算内で豊かに暮らす知恵を絞り、不安を安心に変える作業をしているところです」

 そう話すのは50代おひとりさまの身の丈に合った暮らしを綴ったブログ「団地日記」が話題のきんのさん(55歳)。今は月12万円の生活を実践しているが、かつては散財していた時期があった。

新築マンションから築50年の団地へ

交通費込みの3千円旅で成田山新勝寺を訪れたときの一枚。予算内に収めるのをゲーム感覚で楽しんでいる(写真/本人提供)

20代のころはバブル期で、世の中には“お金を使うことが良い”というような風潮があったんですよね。私もブランドものを買ったり、仕事のあとに食事に行ったり。30代で着物が好きになってからは100万円近い着物を買ったこともありますし、割と自由にお金を使っていました(きんのさん、以下同)」

 きんのさんは正社員を辞め、派遣社員として働いていた37歳のときに離婚を経験。お金の使い方に気をつけるようになったのは30代後半からだった。

「当時70代だった母が引っ越し先を探すことになったんです。ところが、不動産会社からは高齢者の契約は難しいと言われ、物件さえも紹介してもらえず……。なんとか今住んでいる団地に入居できましたが、この経験から私の老後には住まいが必要だと実感し、40歳のときに都内の分譲マンションを買いました」

 新築・駅近・1LDKのおしゃれなマンションで、節約を心がけつつおひとりさま生活を満喫していたが、大きな転機が訪れたのは49歳だった。

「母に、団地の別の部屋に住んでもらえないかと言われたんです。母を取るか、マンション暮らしの気ままなシングルライフを取るか。私は何か問題が起きたとき、ノートにメリットとデメリットを書き出す『じぶん会議』を習慣にして不安や迷いを解消しているのですが、団地もマンション、どちらも同じくらいメリット、デメリットがあって。ここで母を見捨てたら一生後悔するからと、私は団地での生活を選びました」

月12万円の生活で老後の予習

キッチンには食用と観賞を兼ねてハーブや豆苗を常備。「お花がなくてもホッコリしますし、そこそこ満足です」

 団地の部屋を自分好みにフルリノベーションしたあと、重大な事実に直面する。

「リノベーションで貯蓄の大部分を使い果たし、老後の資金が足りないことに気づいて(笑)。それで総務省が出している高齢ひとり暮らし世帯の消費支出を参考に月の生活費を試算しました。団地に移って住居費が大幅に減り、月12万円もあれば慎ましくも自分らしい生活ができそうだと思えるように。そこで、老後に備えて月12万円で暮らしてみることにしたんです」

 その後、正社員で勤めていた会社を辞め、52歳で国家試験に合格し介護福祉士に転職している。

「会社員時代の通勤時間は往復3時間でしたが、今は自転車ですぐ。その時間を自分のために使えるのは、私にとって大きなメリットです。母の様子もすぐに見に行くことができますし、今の自分の生活に満足しています」

 予算の内訳を決め、上手にやりくりをしているが、3千円のプチ旅行や陶芸などの趣味のための「教養娯楽費」は多めに設定している。

「人生の後半戦、まだ楽しみたいし、興味のあることにチャレンジしたい。私は倹約家というわけではなくて、例えば、最新のiPhoneを使うために格安スマホから大手キャリアにかえたら通信費が高くなったこともあります。その分、やりくりで工夫すれば、達成感を得られる。貯蓄が目的ではなく、自分の人生を豊かにすることにお金をかけること。それが今の私の暮らしなんです」

きんの流“ムダ”締め節約術

月の予算は12万円!

食費1. 食材とレシピを定番化する

卵、豆腐、納豆、もやし、キャベツ、玉ねぎなどのMY定番食材を決め、味つけや調理法を変えて変化をつける。冷凍野菜などを常備し、すぐ自炊できる工夫も実践。時にはフランスの高級冷凍食品「ピカール」でおうちレストラン気分を味わうことも。

食費2. 外出時は家にあるもので300円弁当を作る

食費の予算は週4千円なので外食は難しい。レンチンレシピや前日の夕食の残りを利用して予算300円以内のお弁当を作ってお昼ごはんに。予算3千円のプチ旅行をする際も、「カフェでお茶をしたいからお昼はお弁当にしよう」と300円弁当を持参する。

光熱費:こまめな見直しで最近は30Aを20Aに

電気代高騰への対策として30Aの契約を20Aに。電気もガスも価格比較サイト「エネチェンジ」で探した、料金が安い会社と契約。固定費である光熱費はこまめに契約を見直すのが節約のコツ。身体に負担をかけないようエアコンは適度に活用。

美容日用品費:株は日常使いできる優待がある会社を選ぶ

自分が使っている商品やサービスでよいと思った企業の株を購入し、化粧品や食品、日用品などを株主優待でまかなっている。昨年は優待品とプチプラの化粧品を併用したところ、化粧品代が年5千円以内に抑えられたそう。

被服費:大量の服を処分し35着に。服を購入することもなくなった

介護福祉士の職場に必要なのは動きやすい服。着ない服をどんどん手放し、オールシーズンの服がほぼ1つのクローゼットの中に。色みを抑えた定番服が中心で、数を減らした分、ストールやアクセサリーでアレンジを楽しんでいる。

教えてくれたのはきんのさん

1969年生まれ。49歳のとき、80代の母の介護をきっかけに都内に購入したマンションから築50年超えの団地に引っ越し早めの老い支度を始める。ブログ「団地日記

<取材・文/熊谷あづさ>