
今年の夏も全国的に猛暑予想。夏本番前にしっかりと準備しておきたいのが熱中症の対策だ。
暑くなる前から始めるべき熱中症対策
梅雨明け前後から、気温の変化に身体がついていかず、熱中症になる人は増加する。
毎日の生活での対策や注意ポイントを、熱中症に詳しい済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜先生に話を聞いた。
「身体が暑さに慣れることを“暑熱順化(しょねつじゅんか)”といいますが、運動や入浴で汗をかくのも暑熱順化と同様の効果があります。汗をかき、水分補給の習慣を今からつけておくことで、熱中症になりにくい身体に準備しておくことができます」(谷口先生、以下同)
熱中症対策で欠かせないのが、毎日の食事。谷口先生は“タンパク質”の摂取がポイントだと説く。
「体内の水分の多くは筋肉に貯められるため、筋肉量が減ると脱水症状を起こしやすくなります。この筋肉量を増やし、維持するのに欠かせないのがタンパク質。また、タンパク質は血液に水分を引き込み、血液量を増やす成分であるアルブミンの合成にも必要な栄養素。積極的な摂取が、熱中症予防につながります」

タンパク質は肉や魚介類、卵、乳製品などに含まれる動物性と、大豆や大豆製品、穀類などに含まれる植物性がある。一日の食事の中でまんべんなくとるのが理想だが、朝食でのタンパク質の摂取が特に大切だという。
「昼間活動する人にとって朝食は重要です。朝食抜きは、タンパク質だけでなく、水分も不足してしまい熱中症を引き起こしやすくなります。空腹だと、胃や腸が動かず自律神経に影響して体温調節がうまくいかず、午前中のパフォーマンスが低下することも。時間がない、食欲がないという人もいると思いますが、牛乳やヨーグルト、チーズなどの手軽な食材でタンパク質を補い、軽くてもいいので朝食はとるようにしましょう」

タンパク質とともにとりたい栄養素が、ビタミンCとアミノ酸の一種であるタウリン。
熱中症予防の最強メニュー
「果物や野菜に多く含まれるビタミンCは筋肉の合成に必要な栄養素で、抗酸化作用もあります。魚介類や肉などに含まれるタウリンは、筋肉疲労の回復をサポート。身体のさまざまな機能を調整する働きがあります」(谷口先生、以下同)
これらの栄養素をしっかりとれるメニューとして、谷口先生がおすすめしてくれたのが『ゴーヤチャンプルー』。
「タンパク質が豊富な豚肉に、豆腐、卵とビタミンCたっぷりのゴーヤは最高の組み合わせ。豚肉にはタウリンも含まれています」
ゴーヤの苦みは食欲を増進させ、栄養価が高く夏バテ防止にもひと役。夏前からの定番メニューにしておきたい一品だ。
もうひとつ重要なのが水分補給。目安にしたい水分摂取量は1日約1リットル。
「水やお茶を飲むだけでなく、みそ汁やスープ、生野菜や果物などからでも水分をとれます。暑くて食欲がない、と食べる量を減らすのではなく、食事をしっかりとることも意識して。おすすめなのはキウイ。サッと手軽に食べられて、水分とともにビタミンCやカリウムなどのミネラルを摂取できます」

年齢を重ねると、水分を保持する身体の能力が低下するうえ、喉の渇きを感じにくくなる。そのため気づかないうちに脱水症状に陥り、熱中症になる危険性もあるという。
「特に、寝る前の水分補給は徹底してください。寝ている間は汗をかき、水分が失われる状態。熱中症のリスクを低減させるためにも、おちょこ1杯分でも飲むようにしましょう」
ここで勘違いしやすいのが経口補水液やスポーツドリンクでの水分摂取、と谷口先生。
「大量に汗をかくと、体内から水分とともにナトリウムなどの電解質が失われますが、これらをすばやく補給するのが、経口補水液やスポーツドリンクの役目です。しかし経口補水液は、主に軽度や中程度の脱水症状をよくするために飲むものなんです。塩分が高いため、水がわりに日常で飲むものではありません。スポーツドリンクも糖分が多いので、炎天下での労働やスポーツなど、大量に汗をかいたとき以外では、飲みすぎには注意が必要です」
筋肉維持のためには食事プラス運動が大事だが、走ったり、ジムに行ったり、ハードなものである必要はない。
熱中症が疑われるときに牛乳はNG
「日常の家事や買い物、通勤でも十分に運動になります。仕事の合間や休憩時間にスクワットをしたり、自分の体力に合った運動を無理のない範囲で続けてください」(谷口先生、以下同)
暑くなってきたら、日傘や帽子、首冷却アイテムなどで対策し、夜もエアコンを使用。涼しく快適な環境で良質な睡眠をとり、疲れをためないこともポイントだ。

それでも熱中症になってしまったときは? そのときこそ、水分、ナトリウム、カリウムを必要な濃度で、すばやく摂取できる経口補水液の出番。脱水症状が起きているとき、真水だけを短時間に大量に飲むと、体内の塩分濃度が急激に下がり、水中毒の状態になる場合があるのだ。
そのほか、牛乳やアルコール類、カフェインを含む飲み物も、熱中症が疑われるときは避けたい。
「牛乳には暑くなる前の熱中症予防には有効なタンパク質が多いのですが、熱中症になってしまったときは体温を上げてしまい逆効果に。アルコール、カフェインには利尿作用があるので、これらも避けたほうがいいでしょう」
全国的にすでに気温は上がっている。一日でも早く熱中症対策を始めることが肝心。必要な食事をして身体を動かし、休息をとり、来たる猛暑に備えよう。

教えてくれたのは……谷口英喜先生●済生会横浜市東部病院患者支援センター長。医学博士。麻酔科医師。東京医療保健大学大学院客員教授。熱中症・脱水症に関する報道・解説でテレビ・ラジオに350回以上出演。著書に『熱中症からいのちを守る 2024年』(評言社)などがある。
取材・文/小林賢恵