
「シニア世代で年齢よりも老けて見られるという人は、血管年齢も老化している可能性があります。近年の研究で、見た目の年齢や体内の老化は血管の年齢に左右されることがわかってきているんです」
と話すのは、愛媛大学大学院で抗加齢医学を研究する伊賀瀬道也先生。
炎症を防ぎ、若返り物質を増やす
「血管年齢とは、一般的に動脈硬化の度合いを表します。動脈硬化は血管の壁にコレステロールや脂肪の塊であるプラークがたまって、血管の壁が厚くなった状態のことをいいます。動脈硬化が進むと全身の細胞に酸素や栄養を運んでいる血流が滞り、肌のシミやシワ、髪の老化を招いて、見た目の年齢を引き上げてしまうんです」(伊賀瀬先生、以下同)
血流が滞ることで起こる障害は、ほかにもある。
「手足の冷えやしびれ、免疫力の低下、認知機能の低下を招きます。さらに全身の臓器も酸素不足に陥ることで、脳が萎縮して認知症のリスクを高めるほか、脳卒中をはじめとした脳血管疾患など重大な病気も引き起こします。これらは要介護リスクを高め、健康寿命を縮める要因になります」
つまり体内の老化を防いで見た目年齢を若く保ち、健康寿命を延ばすには、血管の健康維持が何より大切なのだ。
「残念ながら、動脈硬化は一度進行すると治せません。しかし生活習慣を改善してプラークが増えないよう血流を改善すれば、血管を若返らせることは十分に可能です」
では、血管を若返らせるためには具体的にどうすればいいのか。
「動脈硬化の原因となるプラークは、血管に炎症が起きることで生まれる物質。血管の若返りにはこの炎症を鎮める必要があります。血管の炎症は、高血圧や血糖値の上昇、喫煙などによって傷ついた血管の壁に血液中の悪玉コレステロールが入り込み起こります。禁煙はもちろん、高血圧や糖尿病の正しい治療がとても大切」
また、近年の研究で血管は酸素や栄養を運ぶだけでなく、若返りホルモンのような物質を分泌していることもわかってきた。
「このホルモンは体内の炎症や老化を抑え、血管を拡張させて血流を促しています。さらに臓器の修復、新しい血管の生成を助ける働きもあり、血管や全身の若返りの重要なポイントです」
血管が若返る食習慣
もうひとつカギになるのが、血管を収縮させ血圧を調整するエンドセリンという物質。
「この物質は、ストレスや喫煙、睡眠不足、塩分のとりすぎなどが原因で、過剰に分泌されると動脈硬化や高血圧の原因になってしまいます。日頃の生活習慣を見直すことは、その第一歩なのです」

塩分過剰摂取のほか、悪い油や糖化物質に注意。
「味つけは塩分に頼りすぎず、だしやねぎ、しょうが、みょうがなどの薬味を活用しましょう。また塩分を排出して血圧を調整するカリウムの摂取も有効。カリウムはほうれん草やバナナ、アボカド、納豆などの食品に多く含まれます。塩を選ぶ際は、精製塩ではなく、カリウムやマグネシウムが豊富な天然塩がおすすめです」
酸化した油やトランス脂肪酸などの悪い油も、血管にダメージを与える。
「サラダ油やコーン油、米油など、オメガ6を多く含む油をとりすぎると、炎症の原因に。逆に魚のDHAやEPA、亜麻仁油、えごま油、オリーブオイルは、炎症予防の効果が期待できるので積極的にとりましょう」
血糖値の急上昇やAGEsと呼ばれる糖化物質を抑えることもポイントだ。
「麺類や丼物など糖質メインの食事やスイーツなどの甘いもの、清涼飲料水などに含まれる果糖ブドウ糖液糖の摂取は血糖値を急上昇させて血管にダメージを与えるので、控えめに。AGEsは焼き鳥や焼き肉、揚げ物、カップラーメンなどに多く含まれているため、偏った食事をせず野菜を入れてバランスのいい食事を心がけましょう」
見た目の若さを保つために中高年世代にいち押しなのが、糖化を防ぐシナモンや抗酸化作用の高いルイボスティー。
「身体の隅々に酸素や栄養を届けているのは、血管の99%を占める毛細血管。毛細血管は加齢や慢性炎症でダメージを受けると、血流が途絶えて機能しなくなり、老け見えの原因に。毛細血管は40代から顕著に減っていくため、中高年世代は抗糖化作用が高く、毛細血管を守ってくれるシナモンやルイボスティー、血流改善に有効なスパイスのヒハツをとってみてください」
血管と深い関係のある“腸内環境”
また、動脈硬化の予防には、血管のケアだけでなく、腸内環境を整えることにも有効。
「腸内細菌がつくり出す短鎖脂肪酸という物質には体内の炎症を抑える働きがあり、動脈硬化の予防が期待できます。短鎖脂肪酸を増やすには腸内細菌のエサとなる食物繊維やポリフェノールを積極的にとることが大切。食物繊維である野菜や海藻のほかに、緑茶、コーヒーなどの飲料やブルーベリーなどの果物にも豊富に含まれるので積極的に食べて。おすすめは、血流改善や抗酸化効果があるケール、抗炎症作用で血管を保護するモロヘイヤです。ほかにも、腸内の善玉菌を増やすヨーグルトや納豆などの発酵食品も推奨しています」
食事だけでなく、週5回以上の入浴や7時間以上の睡眠、簡単な筋トレも血管の健康維持に有効だ。
「特に運動はストレス解消効果のほか、血管の善玉ホルモンの分泌を高めて血流を促進し、血圧を下げる効果があります」
ランニングやウォーキングも欠かせないが、血管の健康のために、筋トレは必須だそう。
「糖を消費させる性質を持つ筋肉が増えることで、血糖値が改善されて血管へのダメージが軽減します。鍛えるのは第二の心臓と呼ばれる、ふくらはぎを重点的に行いましょう」
毛細血管の救世主!
シナモンやルイボスティー、ヒハツには毛細血管を元気にする「Tie2」という物質が豊富に含まれる。シナモンは血糖値の上昇を抑え、血管の老化を遅らせる効果が期待できる。ルイボスティーは抗糖化作用が高く、血管の炎症を軽減。ヒハツに含まれるピぺリンという成分が血管を拡張し、血流改善に有効。

シナモンとヒハツのおすすめのとり方
●ヒハツ
煮物やみそ汁など、料理に軽くふりかけて
●シナモン
紅茶やお菓子と相性◎。カレーや煮込み料理に入れると肉の風味を引き立ててくれる
肉や乳製品の脂は血管に影響がない?
牛肉などの肉類や、チーズ・バターの乳製品、ココナツオイルなどの植物性油に含まれる飽和脂肪酸だが、ひと昔前まで心臓や血管の病気のリスクを高める悪い脂として扱われてきた。しかし、近年では少量であれば問題ないことがわかってきた。肉や乳製品を避ける必要はないが、適度な摂取を心がけて。


取材・文/井上真規子