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 先日11月14日が「世界糖尿病デー」であったように、定期的に糖尿病について知り、予防を考えるきっかけを作ることが重要。

 厚生労働省の令和5年の調査によると、日本で糖尿病の治療を受けている患者数は、552万3000人で3年前の調査より27万人近く減少している。

 しかし、糖尿病専門医として3000人以上の血糖値を下げてきた“ミスター血糖値”こと矢野宏行先生は、次のように警鐘を鳴らす。

自覚症状がないからこそ閉経後の女性は特に注意

統計上は減っているように見えますが、医療の現場では減っている実感はなくて、むしろ20代や30代など若い世代でも増えているという印象です

 糖尿病は50歳ぐらいから発症が増える病気だが、若くても、あるいは肥満の指標であるBMIが25未満の標準体形の人にも増える傾向にあるというから驚きだ。女性は男性に比べ、ややリスクが低いものの、閉経後はリスクが上昇するため注意が必要になる。

「エストロゲンという女性ホルモンは糖代謝と密接に結びついています。そのため更年期や閉経によってエストロゲンが減少すると、インスリンが効きにくい体質になって血糖値が上がりやすくなるのです」(矢野先生、以下同)

 いままでの健診では問題がなかったという人も決して軽視できない。そこで気になるのが血糖の基準。

「空腹時血糖値や食後血糖値という言葉になじみがある人も多いと思いますが、前者は前日の夜から10時間以上絶食した、1日の中でもっとも血糖値が低い状態の数値。

  後者は、食事後の血糖値がピークになった状態の数値。1日に3回食事をする人は血糖値の波も3回訪れるため、測る時間帯によって振れ幅も大きくなります」

 血糖値は採血したその時点の数値のため、正確な診断のためには複数回の検査が必要になる。そこで重要となるのが、中長期的な血糖値の推移を示す指標で、糖尿病ガイドラインでも重要指標とされているHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)だ。

「ヘモグロビンとは赤血球の中のタンパク質のことで、血液中のブドウ糖と結びついた割合を示すものがHbA1cです。ヘモグロビンの寿命は約2か月といわれるためHbA1cの値を測定すると過去1~2か月の平均的な血糖値の推移がわかります。

 瞬間的な血糖値は、食前や食後など測る時間によって大きく変動するため、目先の数値で一喜一憂するのではなくて、HbA1cの数値を把握してコントロールしていくことが大切だと重要視されています」

血糖値が気になる人に! 機能性表示食品やトクホもいろいろ登場

「これまでHbA1cに注目した商品はなかった」と矢野先生も注目する「明治ヘモグロビンA1c対策ヨーグルト」。ほかにも、食後血糖値の上昇を抑える働きが期待される桑の葉由来成分配合のサントリー「伊右衛門プラス血糖値対策」など、血糖値の上昇や糖の吸収を穏やかにする、さまざまな製品が登場している

境界型でも油断禁物!放置すると合併症も

 糖尿病の疑いは、空腹時血糖値とHbA1cの両方で判定されるが、空腹時血糖値が126mg/dL以上、HbA1cが6.5%以上で糖尿病と診断される。

「通常、健康診断や人間ドックでは、HbA1cが5.5%までなら正常とされ、5.6~6.4%の方は要注意。5%台後半になると、いわゆる境界型で糖尿病一歩手前とされます。食後血糖値が基準を大きく上回っているケースもあり、決して安心はできません」

 実際、HbA1cが5.5%以下の人の糖尿病リスクを1とすると、5.6~5.7%の人は2.3倍、5.8~5.9%で3.4倍、6.0~6.1%では8.8倍になるという研究報告がある。境界型といっても油断は禁物、0.1%でも下げることが大切になる。

「いまは健康でも数年後には発症する可能性のある予備軍の方が日本中に大勢いると考えられます。そういった方こそ毎日続けやすいもので予防的な意識を持ってほしいと思っています」

 まずは現在の血糖の状態を知ることから。

「現状を把握するならHbA1cの数値を見るとよいでしょう。健康診断や病院で検査をする以外にも、最近では薬局で指先セルフ測定できるサービスが普及してきているので、利用してみるのも手です」

 HbA1cの数値が5%台後半以上の場合、半年に1度は病院で検査を行うのが望ましい。糖尿病は血糖値やHbA1cの数値が高いからと、すぐに身体に異変が起こるわけではない。しかし高血糖状態の放置は、重大な合併症の危険性を増幅してしまう。

三大合併症といわれ、失明につながる目の網膜症や、糖尿病性腎症。これは深刻になると人工透析が必要になります。そして比較的多いのが、手足にしびれや痛みが生じる神経障害。これらは放っておくと、早ければ5年ほどで発症します

 慢性的に高血糖の状態が続くと、食後に眠気を強く感じる、食後に手が震える、精神的にイライラする、汗をかくなどの症状が現れる。月経不順や更年期の症状とも似ているため、婦人科を受診したら糖尿病だった、というケースもあるというから要注意だ。

糖尿病リスクCHECK!
3つ以上当てはまる人はHbA1cの数値が高くなっているかも!?
□食後に昼寝してしまう
□食事はカロリーだけを気にしている
□野菜ジュースを毎日飲む
□毎日、夕食だけが豪華
□シミ、シワが増えてきた
□すぐイライラする。怒りやすくなった
□傷が治りにくくなった
□薄毛や白髪が増えた

食事と運動の「新常識」!今日からできる簡単対策

 血糖値やHbA1cの改善には、食事と運動の見直しがマスト。

「まずは食事。血糖値を上げやすい炭水化物は、量を制限することが大切です。ご飯を半分~2/3杯に減らしたり、パスタやピザ、ラーメンや牛丼など炭水化物に偏りがちな外食を減らす努力を」

“食べ順”も大きなポイント。

以前は野菜を先に食べるベジファーストなど、先に食べるものに言及していましたが、最近は“カーボラスト”といって、カーボ=炭水化物を最後に食べることを明確に強調しています。

 白米や麺などを食事の最後にとることで、食後の血糖値の波を大きく下げることがわかっているのです」

 早食いも血糖値を上げやすいので、最低でも15分かけて食事をする習慣を。

血糖値の上昇を防ぐ食品としては、ブロッコリー、舞茸、無糖ヨーグルト、飲料では桑の葉茶やルイボスティーなどが挙げられます。

 また、HbA1cの低下をサポートする機能のあるヨーグルトが登場するなど、血糖をコントロールするさまざまな機能性表示食品が出ています。HbA1cは中長期的な指標なので、普段の食品をこれら血糖コントロールに効果のあるものに置き換えるとムリなく続けやすいと思います」

 次に、運動のポイント。

「身体を動かすなら食後がイチ押し。食後は血糖値が上昇しやすいので、軽めの有酸素運動を行うと血糖を消費してくれます」

 長期的に上がりにくい体質にするには筋肉の維持も有効。

ウォーキングや踏み台昇降、スロースクワットなどを目安として1日15分行いましょう。運動は、即効性があって長期的にも血糖値を下げる働きがあるので、5分でも10分でもいいから、取り入れてほしいですね

 年齢が上がるにつれて血糖値も上がりやすくなるため、血糖コントロールは一生続くテーマとなる。

「継続のためにもぎちぎちに制限するのではなく、適度な息抜きは必要です。血糖値が上がりやすい食べ物を知って、食べ順を変えるだけでもいい。自分に合ったものを1つか2つ取り入れて、ムリなく継続しましょう」

※本記事では生活習慣によって発症する「2型糖尿病」について解説しています

矢野宏行先生●糖尿病専門医。「やのメディカルクリニック勝どき」院長。これまで3000人以上の血糖値を改善へと導いた実績から“ミスター血糖値”の異名を持つ

お話を伺ったのは……矢野宏行先生●糖尿病専門医。「やのメディカルクリニック勝どき」院長。これまで3000人以上の血糖値を改善へと導いた実績から“ミスター血糖値”の異名を持つ。著書に『7日間でひとりでに血糖値が下がるすごい方法』(アスコム)など。

取材・文/荒木睦美