死別ロスから立ち直る28の方法

「夫や妻、両親など大切な人が亡くなったことで気持ちがふさぎ、眠れなくなったり、食欲がなくなったりするのは当然のことですが、それが続いて健康状態を悪化させてしまう人がいます。そういった死別などの喪失体験からの立ち直りをサポートするのが、グリーフケアです」

 そう話すのは、グリーフケアを長年研究、普及させてきた坂口幸弘教授。

喪失の悲嘆からの立ち直りをサポート

※画像はイメージです

「グリーフ」とは日本語で「悲嘆」を意味するが、「本来のグリーフ(grief)にはもっと広い意味がある」と坂口教授は言う。

「大切な人が亡くなると、怒りや自責の念など、悲嘆だけではなくさまざまな感情があふれ出てきます。また、家に引きこもったり、反対に必要以上に仕事にのめり込んだり、それらの感情が普段とは違う行動に表れることもあります。こうした感情の表出すべてを『グリーフ』と呼んでいます」(坂口教授、以下同)

悲しみを消す必要はない日常を取り戻すこと

 坂口教授は「悲嘆と死別の研究センター」のセンター長でもあり、家族などを亡くした遺族へのグリーフケアも実際に行っている。

「例えば、生まれたばかりの人の心を小さな丸いボールだとします。成長とともにこのボールは大きくなり、結婚や出産などでさらに大きくなる。ところが、ある日、夫が亡くなったとする。心のボールにヒビが入り、部分的に欠けてしまう。これを心の傷と考えます。その傷は、何かに打ち込んだりしても元に戻ることはないでしょう。

 ただ傷は残っても、心のボールをまた大きくしていく生活を取り戻せば、傷の比率は小さくなります。これが、悲しみと折り合いをつけることなのだと感じています」

 喪失の悲しみが消えないのは当然で、無理に心の傷を癒す必要はないという。以前の生活を取り戻し、日々を暮らしていくのが大切であり、悲しみを乗り越えることにつながるようだ。

グリーフが長引く人は専門的なサポートを

 グリーフケアは第三者が遺族に寄り添って支援するものだが、「大半の人は専門家の助けを借りず、自分で元の生活に戻っている」とのこと。

 死に直面しても深刻なグリーフに陥らないようにするには、どうしたらいいのか。

「例えば親の場合、介護をしっかりやれたとか、亡くなる前に希望をかなえてあげたとか、自分の中に悔いがないかどうかが、そのあとのグリーフの大きさに影響すると思います」

 坂口教授が強調するのは、悲しみの大きさや表れ方は人それぞれで、こうでなければならないなどの模範はないということだ。

「人目もはばからず泣く人もいれば、まったく涙が出ない人もいる。感情を出したほうがその後の回復が早いかもしれませんが、無理に泣くことはありません。涙が出る人のほうが、悲しみが大きいというわけではありません。

 悲しみよりも罪悪感や怒りのほうが強い場合もあるでしょう。あとからじわじわと悲しみが襲ってきて、お風呂場で思いっきり泣いたという話も聞いたことがあります」

 グリーフが特に深刻に表れるケースは、事件や災害、病気などの突然の死(喪失)に襲われたときが多いという。死別後、時間がたっても「何もやる気が起きない」「外に出たくない」「どんどんやせ細っていく」「眠れない」などの状態が続くときは、一人で抱えず、誰かと悲しみを分かち合う、または気を紛らわすことが大切のようだ。遺族の会や分かち合いの会などに参加するのもケアにつながると坂口教授は言う。

「2019年に、“遷延性悲嘆症”という病気がWHOで新しく承認されました。死別から半年から1年以上、重篤なグリーフが続く場合に診断されます。うつと違って、抗うつ剤ではあまり効果がなく、治療法については今後の研究が待たれます」

グリーフから抜け出すためのセルフケア

 近年、高齢の親と独身の子どもの同居世帯が増加し、親の死去で一人となった子どもの落ち込みがひどくなる事例や、家族同然だったペットの喪失など、グリーフに陥るケースもさまざまになってきている。今も悲しみから立ち直れないという人は、次の方法を試してみてほしい。

1. 感情を表現する

 思いっきり泣く。誰かに話を聞いてもらう。紙に自分の思いを書く。

 自分の気持ちを言語化すると感情を整理できる。

2. 怒りを発散する

 サンドバッグを殴るなど、人に迷惑をかけない程度に怒りを爆発させる。

3. 無気力状態を受け入れる

 何もやりたくないときは無理をしない。人に会いたくなければ会わない。「できないのが当たり前」と割り切る。

「セルフケアのやり方は人それぞれ。これが正しいという方法はありません。左に紹介している“28のヒント”も参考にしてみてください」

「悲嘆と死別の研究センター」の取り組み

天国とつながるポスト@愛発

「亡き人へのポスト」と「亡き人からのポスト」の2つを用意。亡き人に手紙を書いたり、亡き人があなたにどんな言葉を届けてくれるかを想像したりすることで、気持ちを整理する試み。

 2025年はオンラインで開催。詳しい情報はこちらのHPにて。

 教えてくれた人は坂口幸弘教授

関西学院大学人間福祉学部人間科学科教授。同大学「悲嘆と死別の研究センター」センター長。30年近く死別後の悲嘆とグリーフケアについて研究・教育に携わる。ホスピス、葬儀社、保健所などと連携した活動を行っている。

<取材・文/佐久間真弓>