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 近年、シニア世代の就業状況に変化が起きている。

シニアの就業者が増加 働く必要性が高まる

「総務省の国勢調査によると、定年の年齢を超えて働くシニアの割合が大きく上昇しています。女性の就業率は男性より低いものの、上昇率でいえば男性よりも高い。65歳女性の就業率はここ10年で31・8%から44・9%と半数に迫るまで増えています」

 こう話すのはリクルートワークス研究所で研究員・アナリストを務める坂本貴志さん。働くシニア女性が増加しているのはなぜなのか。

「女性は結婚したら家庭に入り、家事に専念するというひと昔前の価値観が崩壊している表れですね。加えて経済的な事情もある。公的年金の支給開始年齢の引き上げや給付水準の低下により、働く必要性が高まっています」(坂本さん、以下同)

 さらに、老後のお金の現実も就業率の上昇に関わっているという。

「高齢化が進む中、男女ともに寿命の延びは著しくなっています。長生きがお金のリスクを生む時代を迎えているんです。長い老後生活を想定し、元気なうちは働いてお金を蓄える。『稼げるときに稼いでおく』という意識を持っておいたほうがいいでしょう」

 では、実際の仕事探しはどのように行えばいいのか。坂本さんは、シニア世代の仕事探しのポイントを大きく3つ挙げる。

「第一は、これまでの経験にとらわれすぎないこと。定年後の仕事は、必ずしも現役時代の延長線上にはないのです。過去の経験を活かすのは重要ではあります。ただ、『経験したこと以外はやりたくない』と、そこにこだわってしまうと仕事の選択肢を狭めてしまいます。

 その傾向が強いのは男性。女性は比較的、現役時代にさまざまな職場や職種に身を置く人が多いので、シニアになっても視野が広く、自由に仕事ができているようです」

現役時代と価値が違う「小さな仕事」に注目

 第二のポイントは、「小さな仕事」に目を向けること。小さな仕事とは、坂本さんが提唱する仕事の一群。“報酬はそれほど高くはない”けれど、“労働時間が短く”かつ“仕事の負荷やストレスが少ない”、そして、“社会に貢献する価値ある仕事”を指している。

「シニアになると、仕事に対する向き合い方が変わってきます。現役時代のように出世や収入を求めてがむしゃらに働くのではなく、自分のできる範囲でよしとする。仕事内容は身近な人の役に立つことや社会への貢献に重点を置き、新しい体験をすること、身体を動かすことに価値を見いだしていく。こうした傾向がデータから読み取れます」

 そして、この小さな仕事は、人手不足もあり、需要も高まっているそうだ。

「例えば、保育。担うのは保育士ですが、人手が足りなくて『保育補助』の仕事が増えています。保育士が多忙なため、短時間でいいのでサポートしてほしいわけです。看護師を助ける『看護助手』や、調理師を助ける『調理補助』も同じですね。こうした仕事は資格不要なので、就職しやすいという利点もあります」

 第三は、自分の好きなことや得意なことを軸にすること。

「人と接するのが好きなら接客業、手先が器用なら製造業、という感じで探せばいい。好きなこと、得意なことは長続きしますし、やりがいや生きがいを感じられるでしょう」

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 次ページでは、シニア女性におすすめの仕事を紹介。シニアからでも無理なく働けて満足度の高い業種を厳選しており、なかでも「女性が働きやすい」仕事を坂本さんにピックアップしてもらった。

 年金支給、定年後の家計収支などのデータを踏まえ、生活費を小さな仕事で月10万円カバーすれば、豊かな暮らしが可能と坂本さんは言う。

「近年は働き方も多様化しています。短時間・単発で働くスポットワークや、観光地に住み込んで働くリゾートバイトが登場し、シニアにも人気です。仕事や働き方にいろいろな選択肢があることをまず認識しましょう。

 そのうえで、良さそうだと思ったら積極的にトライしてみる。新しい仕事を通じて人・地域とのつながりを築いたり、健康状態を保ったりして、心豊かに暮らすシニアが増えています」

仕事探しのポイント&おすすめの仕事

1.これまでの経験にとらわれすぎない
過去の職種にこだわると、仕事の選択肢を狭めてしまう。経験を活かすのも選択のひとつとしつつ、自由に考えることが大切。

2.「小さな仕事」に目を向ける
シニアになると、「出世・収入」よりも「貢献・健康」に仕事の重点が変わってくる。これに該当する「小さな仕事」に目を向けるべし。

3.好きなこと、得意なことを軸とする
好きなこと、得意なことを軸にすれば仕事が楽しくなる。人と関わるのが好きなら接客業、手先が器用なら製造業というように探してみる。

「どこで」仕事を探せばいいのか?
シニアの仕事先はハローワークで探すのが王道。自分が住む地域の会社の求人を見つけやすい。市区町村ごとに設置されているシルバー人材センターの会員になり、紹介を受ける方法もある。その他、民間の求人広告や知人の紹介、スマホアプリでスポットワークを探すなど手段はいろいろ。

シニアにおすすめの仕事10選

65歳以上・640万人のデータを分析した坂本さんが、シニア世代の女性が働きやすい仕事(職種)をピックアップ!

1.事務
「ストレスは高めだが、長く働ける環境があれば、高収入を維持しやすい」職種。一般・会計・営業事務をはじめ、受付や窓口、データ入力スタッフ、その他各種事務員などまで仕事内容は幅広い。男女比は39.5%:60.5%。

2.包装作業
女性の比率が高く、65歳以上の就業者のうち7割以上を占める。「労働時間は比較的短く、無理なく働ける」職種。製品包装作業員、シール貼り作業員、スーパーのバックヤード作業員などの仕事内容がある。男女比は23.9%:76.1%。

3.清掃員
身体を動かす仕事の代表格。「仕事量は多めだが、ストレスが少なく、短時間でも働ける」職種。ビル・建物清掃員、公園・道路などの清掃員、ハウスクリーニング職、廃棄物処理作業員などの仕事内容がある。男女比は31.5%:68.5%。

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4.接客・給仕
女性の比率が高く、65歳以上の就業者のうち7割超を占める。「人とのコミュニケーションが好きで、職場の人間関係が良ければ楽しく働ける」職種。飲食店のホールスタッフ、ホテル・旅館のフロント、接客などの仕事内容がある。男女比は27.0%:73.0%。

5.調達
収入は低めだが働く時間を選びやすく、ストレスは少ない。一定の体力を必要とするため、料理が好きで楽しめるかがポイント。飲食店・宿泊施設の調理人・調理補助、給食調理人・調理補助などの仕事内容がある。男女比は33.1%:66.9%。

※坂本さん著書『定年後の仕事図鑑』より引用

シニアにおすすめの仕事

6.介護・保健医療サービス
女性の比率が8割を超え、数ある職種のなかでも特に女性が多い。「気力・体力を必要とするが、高い需要があり、利用者や家族に感謝される」職種。訪問介護員、施設介護職員、看護助手などの仕事内容がある。男女比は12.4%:87.6%。

7.生活衛生サービス・生活支援
高齢就業者が多い職種。「手に職で一生続けられる。職場の人間関係が少なく、マイペースでできる」などの利点がある。理容師・美容師やクリーニングスタッフ、家事代行などが挙げられる。男女比は35.3%:64.7%。

8.販売員
シニアの中でも75歳以上の就業者数が多い。「利用客と接するのが好きな人に最適。年を重ねても続けやすい」職種。スーパー・コンビニ・ドラッグストアの販売員、デパート・衣料品店の販売員などの仕事内容がある。男女比は44.9%:55.1%。

9.その他専門職
塾講師、個人レッスン教師、司書、カウンセラーなどは専門性を要するが、高齢になっても始められる仕事もある。高齢の就業者が一定数存在し、スキルを活かし無理なく長く続けられる。男女比は50.9%:49.1%。

10.その他サービス
学童保育支援や保育補助、旅行・観光案内、広告宣伝員といったサービス業。人と関わる仕事が中心で、忙しい時間帯にスポットで働いたり、正社員を補助するような形で働いたりすることが比較的多い。男女比は36.8%:63.2%。

※坂本さん著書『定年後の仕事図鑑』より引用

坂本貴志さんの著書『定年後の仕事図鑑』(ダイヤモンド社)1815円税込み 65歳以降から始めやすい19職種、100の仕事(小さな仕事)を取り上げている。
坂本貴志さん リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。一橋大学国際・公共政策大学院公共経済専攻修了。高齢者の就労、賃金の動向などを近年の研究テーマとして取り組んでいる