「いつかは親に介護施設に入居してもらわないと」と思いつつ、そのままにしている人も多いだろう。イラストレーターの上大岡トメさんもそんな一人だった。
「自分の親はまだ大丈夫」と思っていたら……
「自分の親はまだ大丈夫だという思いがあるんですよね。知り合いに、『親が元気なうちに施設を探したほうがいい』とアドバイスされたのは10年以上前のこと。
『そうだよね』と思っているうちに両親の老老介護が限界に達し、急いで施設を探すはめに。私のような人は結構、多いのではないでしょうか」(上大岡さん、以下同)
そんな緊急事態をどう乗り越えたのか、上大岡さんに振り返ってもらった。
「私の母は現実的な人で、元気だったころから『ゆくゆくは施設に入りたい』と友人と施設見学に行ったことも。父は『施設には入りたくない』と言っていましたが、私と姉、母の間では、両親の将来の『施設入居』は決定事項でした。3人で父を説得しようと話し合っていたんです。
そんなわけで、親を施設に入れる罪悪感はありませんでした。私も姉も地方在住で、横浜暮らしの両親の遠距離介護をするのはむずかしかったんです」
それでも、施設探しを先延ばしにしていた矢先、母親の体調が急激に悪くなり、パーキンソン病の父親も、ある日突然、倒れてしまう。
「ここに至って、ようやく施設探しを開始しました。相談したケアマネジャーに、高齢者施設を案内する会社を紹介してもらいました」
その担当者が示した施設を決めるときのポイントは、1)予算、2)一人部屋か夫婦共同部屋かの選択、3)優先したい希望の3点。
「予算は、事前に母親が資産状況を教えてくれていたため、その範囲内で。部屋は父親の希望で夫婦室に。優先したいことは、医療サービスの充実、実家から近いこと、食事内容、即時入居可能かの4つでした」
この条件が当てはまる施設を5つピックアップし、全施設を見学。2つに絞ったあと、お姉さんと見学して最終決定をしたそうだ。
「決め手は、看護師の24時間常駐。施設長さんの印象がよく、施設も清潔感があって雰囲気もアットホーム。母からホテルみたいな施設はイヤだと言われていたので、その点もぴったりでした」
「重要事項説明書」で本当の施設状況を確認
急に親の介護が必要になったりして焦りがあると、「すぐに入れるならどこでもいい」と施設を決めてしまいがちだが、「ちょっと待って」と上大岡さん。
「姉から、まず施設の『重要事項説明書』をチェックするように言われました。これは施設提供のサービス内容や費用、職員体制、事故発生時の対応など、重要な情報が記載されている書類。
その中で確認したいポイントは、利用者の施設退去後の行き先と介護士の離職率。ほかの施設に転居している人が多ければ、居心地がよくないことが推察され、介護士の離職率が高ければ、施設に問題があるのかもしれません」
パンフレットには良い点しか書かれていないので、重要事項説明書の確認は大切。施設に提示を必ず求めたい。重要事項説明書は、各自治体のホームページからでも調べることができるとのことだ。
「施設を決める際は、利用者の趣味がその施設でできるかも確認するといいですね。
好きな趣味を続けられる、散歩に行ける、晩酌ができるなどは、利用する本人にとって大切なことだと思います。
職員の名前を積極的に覚えたり、受け取ってもらえる場合は訪問時に菓子折りを渡したりなど、家族側の配慮も必要だと思います。職員と顔見知りになると、相談しやすくなります」
タイミングを決めて話し合う機会を設ける
「在宅介護で親の面倒を見ていても、限界が来ることもあるでしょう。それから施設を探し始めると、後手後手になってしまいます。
ただ、親が元気なときに施設入居の話はしにくいもの。私たちは施設入居が前提でしたが、そうでない場合は両親が75歳になったらなど、何かのきっかけを決めて一度話し合うといいと思います」
その際、親に聞いておきたいのが資産と年金額。お金の有無で入居可能な施設が変わるので、確認は必要不可欠。聞きづらい場合は、エンディングノートなどに記しておいてもらうといいだろう。
全体の予算がはっきりしたら、その範囲内で入居できる施設を選ぶ。月額利用料は支給年金内に収めるのが鉄則。預貯金を取り崩す計画だと、利用料が値上げされたときなどに対応できなくなる。
入居一時金(前払い金)を多く払うと月額利用料が下がるが、親の年齢によっては払い損になることも。実家を売却する人もいるが、施設が合わないときに帰る場所がなくなってしまうので要注意だ。
「早めに施設探しをすれば、あれこれ検討でき、親の希望に沿うこともできる。後悔しないためにも事前の準備は大切だと思います」
親の施設探しは自分の老後の予習になる
「親の老後を考えることは、自分の老後の予習になる。残りの人生をどうするか、考えるきっかけになりました」と言う上大岡さん。
元気なうちはサービス付き高齢者向け住宅、身体が不自由になったら老人ホーム、認知症が進んだらグループホームで暮らしたいと、すでに決めているという。
「まずは自分の資産を把握し、荷物を減らす。やりたいことを先送りにしない。動けるうちに旅行をし、食べたいものを食べる。親を反面教師にして、理想的な老後を生きたいですね」
『マンガで解決 老人ホームは親不孝?』主婦の友社 1760円(税込み)
高齢の親に関する不安をマンガで解決するシリーズ第3弾。実際の体験をもとに、高齢者施設選びやお金の問題などを解説。監修はFPの畠中雅子氏。
教えてくれたのは……上大岡トメさん●イラストレーター。「日々を機嫌よく過ごすこと」を信条に、マンガやイラストで世の中のしくみをわかりやすく解説。著書『キッパリ!たった5分間で自分を変える方法』が130万部のミリオンセラーに。著書多数。
取材・文/佐久間真弓 イラスト/上大岡トメ

