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 年末年始の帰省、帰宅後はぐったり……。心理カウンセラーによると、親子関係のゆがみや「親孝行しなくては」というプレッシャー、長距離の移動による疲れなどにより、帰省を憂うつに感じる人が増えているという。老親とのいい関係を守りながら、心を軽くする方法を心理カウンセラーがアドバイス。

“親が喜ぶから”と頑張るのはお互いにとってよくない状態

毎年、この時期が来ると憂うつな気持ちになります

 そうため息をつくのは、都内在住のAさん(40代)。原因は年末年始の帰省だ。結婚してからというもの、年末には埼玉県にある夫の実家へ、年始には群馬県の自分の実家へと“はしご帰省”をするのが恒例になっている。

「日々は仕事と家庭の両立で忙しい。その合間を縫って帰省の計画を立て、混雑のなか移動するだけでも疲労困憊です。義実家は比較的さっぱりとした考え方で“無理に年末年始の帰省じゃなくてもいい”と言ってくれますが、実家はダメ。

 年末年始は家族と一緒に過ごすのが当たり前だと思っているので、日程を変えるなど言語道断。聞く耳を持ってくれません! その上、帰省すると“今がチャンス”とばかりに家の周りの片づけや買い物などの雑用を頼んできたり、たまっていた愚痴をしゃべり続けたり、先々の不安をぶつけてきたり。心身共に疲れるので、帰らなくていいなら帰りたくないというのが本音です

 とはいえ、年末年始を親だけで過ごさせるのも不憫に思え、帰らないという思い切った選択はできない。親孝行だと割り切って今年も帰省予定だ。親からは帰省を楽しみにしているそぶりの連絡が来るが、その期待はもはやストレスでしかないと話す。

今は、昔に比べて離れて暮らす親子が多く、関係性も希薄になっています。そんななかでも、年末年始の帰省は家族の一大行事として残っている。距離や旅費といった物理的なものも帰省のハードルになり得ますが、面倒に感じる根底には、親との関係性や帰省に対する温度差が大きく関係していると感じます

 そう話すのは、親子関係の悩みに詳しい心理カウンセラーの石原加受子さん。離れて住む親にとっては、年末年始に子どもと過ごすことが親子のつながりを確認する安心材料のひとつになっていると指摘する。

親の帰省に対する思い入れは、昔よりも強まっていると感じます。それが子どもへのプレッシャーになっているわけです。そしてそれは、義理の両親との関係より、実の両親との関係のほうが顕著です」(石原さん、以下同)

 また、“親子はこう過ごすべき”という考えは、特に地方在住の親のほうが色濃く、都市部に住む子どもとの感覚のズレはより大きくなっていると話す。

子どもが成人したあとも自分の理想に従わせようとする親も少なくありません。でも、悪気があるわけではなく、それが正しいこと、当たり前だと思っている。ですから、親の顔色をうかがって対応している限り、親はまさか子どもが我慢をしていると気づかない。子どもが負担だと感じながらも“親が喜ぶから”と頑張ってしまうのは、お互いにとってよくない状態を維持し合う依存関係です

 そもそも親子間のトラブルの元凶は、コミュニケーションのズレが大きい。

“家族だから”を免罪符に、相手の感情に配慮しない人が一定数いるのです。だから相手の人格や存在を否定したり、一方的な命令を簡単に口にし、自分の価値観を押しつける。しかし、そういった老親の性格はもう変わらないと諦めたほうが生産的です

自分の気持ちや都合を優先し、勇気をもって断る

 昨今は経済面も親子関係を複雑にしていると話す。

金銭面で余裕がない子ども世代が親からの援助を頼りにしていることも増えています。無条件で子どもに経済的な支援をする親もいますが、ここ10年くらいで“家をあげるから”“遺産をあげるから”と、子どもをお金で操ろうとする親が増えているように感じます。精神面と経済面の両方で親に縛られている子どもは本当に苦しい

石原加受子さん

 石原さんは特に母娘の関係が難しいと感じている。

父親は“俺の命令は絶対だ”というような形で比較的わかりやすく支配するので、そこから逃れやすい。でも、母親は物腰柔らかく、子どもが断りづらいような形で頼る賢さがあるから、知らないうちにコントロールされていることがあります。“大変だから、私が支えないと”と、我慢をしてしまう娘も少なくありません

 では、帰省して親に会うのが負担だと感じている場合、どのように対応するのがよいのか。石原さんは、「まずは距離を置くこと」だとアドバイスする。

帰省して親の相手をしたり、面倒をみるのがつらいなら、その気持ちに正直になりましょう。健全な親子関係であれば、“仕事も重なって疲れているし、年末年始は家でゆっくりして、また別の機会に帰るね”と気兼ねなく言えるはず。それが言いづらいと思う時点で、親に気を使っている関係性だといえます

 帰省しないのは親不孝だと自分を責める必要もない。

帰省しないと言えば、帰ってきてほしくて“こういう困り事がある”“腰が痛くて”と情に訴えかける親は多い。子どもは自分がなんとかしなければと思いがちですが、それを繰り返してストレスになっているのなら、自分の気持ちや都合を優先し、勇気をもって断ること

 距離を置くだけで、イライラや憂うつな気持ちはグッと減るはずだ。

「“親に変わってほしい”と思いがちですが、うまくいかず苦しくなります。人の考えや行動を変えるのは難しいので、親には期待せず、自分が変わることが大事ですね」

 一方、距離を置きたくても帰省せざるを得ないと考える人も。都内に住むBさん(40代)もその一人だ。

関係を断つようなことになるほうがお互いに不幸

「山形県で一人暮らしをしている75歳の母親は、週に何度も電話をしてきて、“あちこち痛いのに病院へ行けない”“一人で寂しい”“あなたが近くにいてくれたらよかったのに”と延々と愚痴を言ってきます。

 娘として申し訳ない気持ちはありますが、昔から母とは考え方が合わず、電話で話を聞いているだけでイライラすることも。それでもきちんと帰省して、将来的に介護はどうするか、家はどうするか、今のうちに話し合っておかなければと思っています

帰省ストレスを減らすコツ

 老親の介護などについて話し合うため、帰省が必要と考えている場合はどうすればよいのか。

「親とうまくいっていないのに、介護など将来的な話をするのは時期尚早です。それよりは、自分の生活を優先し、心が快適なまま親とコミュニケーションを取れるようになることを目指しましょう。そうでなければ、我慢に我慢を重ねて介護をすることになってしまいます。

 実家への帰省は、親と自分がどういう関係を築きたいかを考えるきっかけ。負担と感じない帰省を計画できているか、親からの強引なお願いは無理せず断れているか、自分に問いかけてみてください

 帰省をして顔を見せることが親孝行ではない。

むしろ、我慢をし続けたあげく、関係を断つようなことになるほうがお互いに不幸です。たとえ今回は帰省をやめて親が悲しそうにしていても、これから先に穏やかな関係を続けていけるよう、心を尽くすことこそが愛情だと思います

取材・文/河端直子

石原加受子さん 心理カウンセラー。思考・感情・五感などをトータルに捉えた独自の心理学でカウンセリング。心が楽になる生き方を提案する。『「苦しい親子関係」から抜け出す方法』(あさ出版)など著書多数。