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 大切な家族の一員であり、人生を共にするペットたち。愛犬・愛猫を最後まで飼い続ける“終生飼育”は当然の責任だが、その責任を果たす前に自分の身に何か起こる可能性はゼロではない。そこで考えたいのが「ペット後見」という制度だ。

愛犬・愛猫を幸せにする「ペット後見」

ペット後見とは病気や事故、あるいは急死などでペットの世話ができなくなる不慮の事態に備え、事前にペットの飼育場所や飼育費用などを整えておく取り組みです。

 たとえ何が起きても最後まで飼育責任を果たすために、ペットの後見について考えておくことはとても大切です

 そう話すのは『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(ワニブックス)の著者で、獣医師の奥田順之さんだ。

 奥田さんがペット後見について考え始めたのは、今から15年以上前。学生時代にペットの殺処分問題に取り組み、飼い主の急変により、行き場を失うペットの多さを実感したという。

あるとき、猫を3匹飼っている女性から『私は動脈瘤(りゅう)があっていつ死ぬかわからないから、いざとなったら猫を引き取ってほしい』と頼まれたのです。しかし学生の身でできることには限界があり、ペット不可の家に住んでいたので相談を受けることは叶いませんでした。

 その女性や猫たちを救えなかったことがずっと心に残っていて、ペット後見を考える大きなきっかけとなりました。保護が必要な動物は、今困っている動物だけじゃない。これから困るかもしれない動物たちが見えないところで増えているんです」(奥田さん、以下同)

奥田さんと犬たち

飼育費用の残し方、支払い方法を知る

 飼い主に「もしも」のことがあったとき、ペットの未来を安心して託せる制度をつくりたい。そんな思いより、奥田さんは獣医師になってから2017年に「ペット後見互助会とものわ」を設立。

 '25年までに約40件のペット後見契約を締結するなど、ペットと飼い主のための支援を行っている。

ペット後見には、引き受け先と飼育費用、緊急時に気づいてもらえる見守り体制の3点を事前に準備しておくことが大切です。最初にペットが安心して暮らせる譲渡先を決めましょう。

 親族や友人など環境の変化が少なく、信頼できる身近な人にお願いするのが理想ですが、難しい場合は譲受飼養業(動物の譲り受けと飼養を行う事業)の資格を持つ老犬老猫ホームや保護団体など専門の組織を検討する必要があります

 とはいえ譲受飼養業の資格を持つ団体は少なく、情報もオープンになっていないため、個人で探すのは困難だ。奥田さんの運営するサイト「ペット後見.jp」ではこうしたペット後見に取り組む事業者がリスト化されており、検索することが可能だという。

引き受け手となる事業者や団体を選ぶ際はネットの情報だけで決めず、実際に足を運んでコミュニケーションをとり、信頼関係を築いておきましょう。

 大切な家族を任せる場所ですから、活動の実態や飼育環境、会計の透明性なども確認しておくことが大切です。また、実際に引き受けを頼む事態が10年後、15年後になったときにも、相手が引き受けられる状態でいるかがポイント。

 例えば、姪に猫の引き受けを依頼していたとします。でも、その後に結婚した姪(めい)の配偶者が猫アレルギーだった場合、後見は難しくなってしまう。あらゆる事態を想定して『ここなら安心して任せられる』と判断できる人や場所を選びましょう

 また、「保護団体だから無償で引き取ってくれる」というイメージを持つ人も少なくないが、善意に頼るのではなく、きちんと対価を支払うべきだと奥田さんは言う。

「当然ですが、動物の飼育にはお金がかかります。医療費や施設維持費、人件費など、その負担は決して小さくありません。無償での引き取りを前提とすると現場の団体が疲弊し、結果として動物が苦しむことにもなるかもしれない。

 適正な費用を支払ってサポートをお願いすることで、飼い主にもペットにも安心が生まれると思っています」

 飼育費用の残し方、そして費用の支払い方はペット後見では重要な要素だ。

飼育費用はそれぞれのケースによって異なりますが、支払いのタイミングは、(1)事前に渡しておく、(2)動物の引き取りと同時に渡す、(3)預かってもらっている期間中に月々渡す、(4)飼い主の死亡後に渡す、の大きく分けて4つです。

 生前贈与や遺言、民事信託、生命保険を利用する場合など、さまざまな方法があります。手続きは複雑なので行政書士や保険会社など専門家に相談するのが一番ですが、長期飼育を前提にすると費用が高額になる可能性も考慮して、備えておくと安心です

 一般的にペットの年間飼育費用は、犬で約30万円、猫で約20万円といわれている。仮に飼育期間が10年の場合、費用の総計は犬で300万円、猫で200万円にも上ることは念頭に置いておきたい。

飼い主費用を残す方法(奥田さん監修)

高齢者だけでなく誰にも起こり得る

どの程度の費用を残すべきかは、最終的に引き受け手との相談により決めていく必要がある。遺言や贈与契約を活用して費用について明確な意思表示をすることで、譲渡先も安心してペットを引き受けることができるでしょう。

 また残されたペットを『誰に託すか、費用はどのように支払うか』などを書面化しておけば、別居家族などにもスムーズに事情を伝えることができます

 引き受け手と飼育費用の残し方が決まったら、最後に飼い主の見守り体制を確立することで、ペット後見の基本型が完成する。

奥田さんと犬たち

「見守り体制とは、飼い主の危機を察知してペットの保護を含めた対応をすぐに行える体制を築いておくことを指します。誰にも気づかれずペットと一緒に孤独死していたという事態を避けるためにも、飼い主が飼育困難な状況になったとき、自身とペットの危機を外部に連絡できる手段を確保しておきましょう。

 私の団体では頼れる親族がいない場合、なるべく警備会社や身元保証会社の見守りサービスなどの利用をオススメしています」

 飼い主が亡くなった後、残されたペットは子や孫、友人に引き取られることが自然な流れだが、最近ではそういったコミュニティー自体が希薄化しており、ペット後見の需要が増加しているという。

頼れる人が身近にいないからこそ、ペット後見に頼りたいというご相談の声は増えています。また、高齢者だけでなく若い世代であっても突然死や不慮の事故に遭う可能性はありますし、実際にそういったケースも多く見てきました。どの世代であっても、動物を飼った時点で後見について準備しておくことは一つの責任だと思います

 もし自分がいなくなったら、誰がこの子を守るのか?その事前準備をしているかどうかで、ペットのその後の生涯は大きく変わるだろう。

ペットを家族に迎える前にこそ、後見について考えてほしい。多くの人が“うちはまだ大丈夫”と思っていますが、すでに飼っている人も現実を見つめて備えていきましょう。ペットの未来を守れるのは飼い主さんだけですから

 高齢化や社会的孤立が進む今、ペット後見は動物を飼うすべての人にとって身近なテーマになりそうだ。

奥田さんの著書『自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(ワニブックス・税込み1760円)※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

自分の死後も愛犬・愛猫を幸せにする方法』(ワニブックス・税込み1760円)
 年齢を理由に動物との暮らしを諦めていた方に一つの道標を伝える一冊。

奥田順之さん●獣医行動診療科認定医。岐阜大学獣医学課程卒獣医師。鹿児島大学共同獣医学部講師(動物行動学)。2012年、NPO法人人と動物の共生センターを設立。飼育放棄の主な原因となっている問題行動の予防・改善を目的に、犬のしつけ教室ONELife開業。'14年、ぎふ動物行動クリニック開業。'17年、「ペット後見互助会とものわ」を設立し、ペット後見のサポートを開始。ペットと自分の将来に悩む飼い主への支援を行っている。

教えてくれたのは……奥田順之さん●獣医行動診療科認定医。岐阜大学獣医学課程卒獣医師。鹿児島大学共同獣医学部講師(動物行動学)。2012年、NPO法人 人と動物の共生センターを設立。飼育放棄の主な原因となっている問題行動の予防・改善を目的に、犬のしつけ教室ONELife 開業。'14年、ぎふ動物行動クリニック開業。'17年、「ペット後見互助会とものわ」を設立し、ペット後見のサポートを開始。ペットと自分の将来に悩む飼い主への支援を行っている。


取材・文/片岡あけの