閉経後の女性に訪れる身体と心の変化は、パートナーシップにも影響する。快適さや新しい楽しみ方を模索する“セックスの余生”は、人生後半を豊かにする大事なテーマ。自分らしい答えを見つけるヒントを徹底解説。
閉経に伴い、女性ホルモンは激減
「更年期以降、性欲が下がったという女性は7割」という調査がある。実際、セックスから遠ざかっているというミドル・シニア世代の読者も多いのではないだろうか。
閉経とともに性も閉じてしまう─それは“自然な流れ”だと思い込んでしまいがち。けれど、ここから先の30年、40年をどう生きるのかを考えたとき、多くの女性にとって避けて通れないのが“セックスの余生”という現実だ。
人生100年時代、この長い“セックスの余生”を、ただ諦めるのか、それとも自分らしい心地よさを取り戻すのか─その分岐点に立っている女性たちは多い。
「閉経に伴い、女性ホルモンが激減します。女性の性機能にまつわる変化として、性欲が減退して性への興味がなくなったり、腟などデリケートゾーン、腟の内側の乾燥や萎縮などが起きることがあります。特にご相談が多いのは、潤い不足などから起きる性交痛ですね。こうした加齢による変化でセックスから遠ざかる人が多いのは事実」
そう話すのは、長年、更年期障害やセックスレスの相談に応じてきた性機能専門医の二宮典子先生。
「ただ一方で、女性ホルモンが減ることで相対的に男性ホルモンの値が高まって性欲が増すことも。妊娠の可能性がなくなることから性に開放的になって、よりセックスが楽しめるようになる方もいます。私は月経がなくなって子孫繁栄という大義名分がなくなっても、性行為は生活の満足度を高めたり、パートナーとのコミュニケーションとしても重要だと考えています」(二宮先生、以下同)
女性性機能外来を設置している二宮先生のもとには、セックスを再開したい気持ちがありながら、機能的に不安や悩みを抱える人が多く訪れる。
「お子さんが育って夫婦ふたりの時間が増えたから再開したい、ご主人から求められるから“できる状態”を維持したい、といった方も多くおられます。そうした方々からよく出るのが『セックスはしたほうがいいのか?』という質問。
セックスをするのもしないのも個人の自由であり、セックスの有無と女性らしさは無関係。幸せは本当に人それぞれなので、ひと言で『したほうがいい/悪い』は言えません。ただ、海外ではセックスを継続している人のほうが幸福度や自己肯定感が高いというデータがあります」
実は健康面から見てもセックスにはメリットがある。
睡眠の質が上がることも期待できる
「セックスでオーガズムに達すると、自律神経が交感神経から副交感神経にガラッと切り替わります。これは適度な運動をしたのと同じで、リラックスできますし、寝つきがよくなり睡眠の質が上がることが期待できます。
更年期で睡眠に難を抱えている方などにはうれしい効果ですね。また、セックスする機能を維持できていると、頻尿や尿もれなどミドル世代特有の尿トラブルも少ない傾向があります。そういう意味では、『するとプラス作用がある』といえるかもしれません」
しかし、50代〜60代の女性を対象とした調査では約4人に1人はパートナーがいないという結果も。
「パートナーがいなくても、セルフプレジャーで同様の効果が期待できます。それに、他人に依存せず『どう触ったら気持ちがいいのか』を自分自身で知っておくことも大切。性器に血流が巡ることで、柔軟性や潤いを保つことにつながり、いざ性交渉をするとなった際にも役立ちます」
それでは、しばらくご無沙汰だったミドル世代がセックスを再開したい、もしくは今後も継続していきたいと考えたときに気をつけるべきポイントはあるのだろうか?
「前述のように、女性ホルモンの変化でデリケートゾーンの環境は若いころとは大きく変わっています。そこを整えてセックスできる状態にケアしていくことが大切です」
そのひとつが、デリケートゾーンの潤いを守ること。
「デリケートゾーン専用の洗浄剤も増えましたが、腟は本来、“きれいにする”臓器ではありません。汚れたままもよくありませんが、年齢的に乾燥しがちなミドル女性が毎日、洗浄剤でしっかり洗っていれば、乾燥が加速して腟まわりの皮膚が硬くなります」
また、腟の中を洗浄剤で洗うのは絶対にNGだそう。
「腟の中は湿って、ヌルヌルしているのが本来の状態。もし腟からの分泌物などのニオイが気になるなら、それは中が汚れているからではなく、加齢によって腟内の細菌バランスが変化してニオイが出ているということ。中まで洗浄剤で洗うと、身体にいい菌までなくなってしまうので、余計にニオイが強くなってしまいます。普段はお湯で洗い、洗浄剤を使うのは週1~2回、外陰部のみに」
骨盤底筋のトレーニングは、性機能維持にも効果的。尿もれなどの改善にも効果が期待できるので、可能なら一度、クリニックなどで専門の理学療法士の指導を受けるのがおすすめだ。
「自己流だと“締める”ことにばかり意識が向きがち。筋肉を強化するには“締める”と“緩める”をセットで行うことが大事です。緩めてほぐす方法として、腟内に指を入れるマッサージも有効です」
セルフケアでお悩みが解消しないなら、専門医に相談を。
「腟のかゆみや痛み、ニオイがある場合は、細菌に感染して炎症が起き、腟炎になっている可能性も。腟炎の治療は保険適用ですし、腟内に入れるホルモン剤や漢方薬、ワセリンなどの保湿剤を処方してもらえます」
『人生が豊かになった』という声も
性交痛などセックスのお悩みを相談するなら、まずはかかりつけの婦人科、もしくは女性泌尿器科がおすすめだ。
「ただの泌尿器科だと女性の性機能回復の治療はしていない場合もあるので、“女性”に特化しているところを選びましょう。専門医に相談して原因を特定し、適切な治療やケアを受けることが大切」
もっと根本的に腟内の若返りを図りたいなら、自由診療に頼るのも手だ。
「腟壁にヒアルロン酸を注入したり、レーザー治療といった選択肢もあります。個人差はありますが、例えばレーザーなら月1回の照射を3か月ほど継続すると、スムーズにセックスができるようになったケースも。費用はかかりますが、治療を受けて性生活を取り戻した患者さんからは『人生が豊かになった』という声が多く聞かれます」
実際にセックスを再開するとなった際にも、ミドル世代ならではの意識すべきポイントがある。
「ミドル・シニア世代の男性は勃起力が低下しがち。男性側がやわらかいままでは挿入しづらく、女性の苦痛が増してしまうので、手や道具などでサポートしてあげる優しさは必要です。
また、途中で苦痛や痛みが出てきた場合に『もう無理』というときの合言葉を決めておくのも大事。『イヤ』だけでは、男性側も中断してほしいという意味なのか、測りかねるようです」
市販のアイテムを活用するのも有効。
「潤滑剤はあったほうがいい。最近は温めて使うタイプもあり、ヒヤッとするのが嫌な方にも使いやすいでしょう」
さらに大切なのがセックスに臨む姿勢。
「受け身のままでは、前述のようなメリットは享受できません。『早く終わらないかな』など上の空ではなく、感覚に集中することが大切。どこが気持ちいいのか、どうしたら気持ちよくしてあげられるかと考えながら臨めば、脳の活性化にもなり、よりよいセックスができると思います」
そのためにも自分と相手へのリスペクトを忘れずに。
「ミドル世代でセックスを卒業される方の中には、若いころ経験した奉仕的なセックスや、男性側の一方的なセックスなど、よくない思い出が根底にある場合も。
本当はセックスしたい思いがどこかにあるのに、それがブレーキになっているのだとしたら、方法や相手が違えば、よい体験で上書きできる可能性があります。そう考えると、単に年齢を理由に『引退』と自分で自分に幕を引くのはもったいない気もします」
取材・文/遊佐信子
二宮典子先生 女性泌尿器科・性機能専門医。医療法人心鹿会理事長。「女性性機能外来」を設け、更年期女性の性の悩みに寄り添う。フェムケアやセックスレス問題にも詳しい。
