旅して働く、好きな仕事に再挑戦する、生活に合わせて短時間だけ働くーー。経験値と気遣いを備えた“大人女性”は、今や企業からも引く手あまた。未経験でも挑戦できる仕事は多く、現場で頼られる仕事が広がっている。“好き”や“憧れ”に再挑戦したいという人には追い風だ!
60歳以上の応募者数は5倍に
「コロナ禍を経て働き方が多様化したこともあり、シニア世代で新たな仕事にチャレンジされる方が、ここ数年非常に多くなりました」
そう話すのは、シニアの働き方に詳しい人材派遣会社グッドマンサービスの鈴木将人さんだ。今や定年後も働くことが当たり前になっているが、未経験の業界でこれまでとは違う働き方をする女性が増えてきているという。
「経済的な理由だけでなく“若い人と一緒に働いてみたい!”とおっしゃるなど、社会との関わりを持ちたい方や、働く楽しみを見いだしたい方が目立ちます。シニアの方々は、若い世代でないと職場に受け入れてもらえないのではと心配されますが、そんなことは全くありません」(鈴木さん、以下同)
むしろ社会経験が豊富で一般常識があり、自然と気遣いのできるシニア世代は、企業から求められていることも。
「“働かせていただく”という低姿勢の方が多く、勤務先とも良好な関係を築きやすいんです。例えば旅館は若い世代よりも、着物が似合う落ち着いた大人の女性を採用したいそうで、高級旅館ほど、その傾向は強いです」
旅館の仲居に限らず、ホテルの客室清掃や調理補助など、宿泊施設での仕事はシニア世代の需要が高い。未経験でも可能なのだろうか。
「仲居さんやレストランでの業務は、コース料理の案内など覚えることが多いので、接客経験があったほうが好ましいかもしれません。ですが、客室清掃や調理補助は未経験でも大丈夫な例もあります。まずは客室清掃などで経験を積み、現場の雰囲気や仕事に慣れながら学べます」
契約更新の際に接客業など希望の職種にキャリアアップしていくというのが、最近のスタンダードなのだとか。
「弊社のデータでも、宿泊施設に住み込みで働きたいと希望する方は、コロナ以前の6年前と比較して、60歳以上の応募者数が5倍に増えているんです。宿泊施設側の受け入れ体制も、整ってきました」
なかには夫婦そろって住み込みで働き、第二の人生を歩みはじめた例もある。
「都内在住の60代の旦那様と50代の奥様は、昔から旅行が趣味のご夫婦でした。旦那様の定年退職後に訪れた長野県を気に入り、おふたりで県内の宿泊施設で働きはじめたんです。数か月間にわたり宿泊業務全般をこなして契約満了を迎えましたが、生活環境や職場がとても合っていたようで、その後も繰り返し同じ施設で働いています。
長年、都市部で生活していた人ほど、非日常を味わいたいと、このような働き方を選ぶ傾向にあるかもしれません。温泉好きの方が、無料で温泉に入れるという理由から旅館で働くということもあります」
生活を気に入り、住民票を移して移住する人も
60代の女性で、4人いた子どもが独立したタイミングでほぼ“初めて”働くという例もある。
「その女性も宿泊施設での住み込み勤務ですが、自宅から車で2時間半ほどの場所で働いています。このくらいの距離なら、自宅でひとり暮らしの旦那様に不測の事態が起こっても、すぐに駆けつけられるので安心ですよね」
自分の力で稼げるようになるだけでなく、休日は好きに時間を使えるように。
「環境はガラリと変わり、初めて自由な生活を手に入れられたとおっしゃっていました。しかも、旦那様との関係は程よい距離ができたことで、良好なのだとか。その女性は客室清掃をしていますが、この職種は体力的に負担が少なく、就業時間も短めです。夕方からは自由な時間を持てるので、働きやすいでしょう」
求人には平均して2~3か月の住み込みという条件が多い。残業が少なく休日数は多めで、希望の働き方を選ぶこともできるという。またコロナ禍を経て、かつての相部屋寮から個室寮が増えたことで、幅広い世代が応募しやすくなっている。
「住み込みであれば、住居費だけでなく水道光熱費も無料の場合も。働くエリアや職種によって変わりますが、平均して21万~29万円ほどの月収を得られるので、十分暮らしていけます。その生活を気に入り、住民票を移して移住なさる方もいらっしゃいます」
地方に魅力を感じる人々からは“おてつたび”という人材マッチサービスも注目を集めている。人手不足に悩む地域事業者の仕事を手伝って給与をもらいながら、宿泊場所も提供してもらい、自由時間にはそのエリアを旅することができるシステムだ。
業務は宿泊施設での仕事はもちろんのこと、収穫時期の農家や漁師のサポート、キャンプ場やスキー場の運営補助など多岐にわたる。
今まで知らなかった地方の魅力を発見できるだけでなく、仕事を通じて地域の人々との交流が生まれ、地域社会への貢献につながるためやりがいも大きい。
「やりがいというのは重要で、シニア世代でも諦めた夢を実現させたり、趣味を仕事にする機会は意外とあるんです。例えば遊園地でのアトラクションの管理や運営といった仕事。乗り降りの補助、安全確認、チケット対応などですが、その環境を楽しんで働いていらっしゃいます。若いころからの夢が叶ったと話していました」
ほかにも好きなことを仕事にした例で、美容院のアシスタントや、お酒好きが高じてバーテンダーになった人も。
「人に喜びを与えられるという点で、高級マンションのコンシェルジュもやりがいがあるといえるでしょう。この仕事は来客対応や、宅配便やタクシーの手配、共用施設の予約管理など、住人がより良く暮らすために困りごとを解決する役割を果たします。就業するにはパソコンや英語を使えたり、接客業の経験が必要になることが多いですが、人によってはこれまでのキャリアを生かせるでしょうね」
そこまでのスキルがなくとも、マンションの管理人ならハードルが低い。女性向けマンションの増加によりシニア女性スタッフの需要が高まっており、短時間の労働形態が多いので家事との両立もしやすい。
まずは1か月続けてみる
女性ならではの安心感で住人をサポートする充実感とともに、マンション内の清掃や巡回で自然と身体を動かすので、健康維持にもつながるだろう。では、シニアが仕事をするうえでの注意点は?
「慣れない仕事をはじめると、1~2週間でつらくて辞めたいという方もいらっしゃいますが、1か月もすれば身体が慣れますし、職場の環境や同僚の性格もわかってきます。最初は大変かもしれませんが、まずは1か月続けてみてください。また住み込みの場合は生活環境も変わるので、寮に虫が出やすいとか、近くにスーパーがなく生活が難しいなど“飛び込んでみないとわからない”ということもあるでしょう」
そんな想定外を避けるためにも、直接雇用ではなく派遣雇用の形態がおすすめだという。
「事前に職場環境もわかりますし、働きはじめてからも派遣会社を通して要望を伝えることができるので安心です。現在は働き方の価値観が変わり、同じ職場、同じ仕事を続けるという固定観念はなくなりつつあります。長期は考えていない若者よりも年配の世代を求める企業もあるので、臆することなく新たな仕事を見つけてください」
取材・文/植田沙羅
鈴木将人さん 人材派遣会社グッドマンサービスのリゾート事業部 営業本部長。同社では“リゾートバイト”と呼ばれる、ホテルや旅館、スキー場など各種リゾート施設への人材派遣を行う。また、日本で働きたい外国人専門の求人サービスも展開。
