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「年齢を重ねた方に限っていえば、冬は肌トラブルが多い季節です。私の皮膚科にも、冬になるとかゆみを訴える高齢の患者さんが多く来院されます」

 そう話すのは、いけがき皮膚科院長の生垣英之先生。生垣先生いわく、かゆみの大きな原因は乾燥なのだそう。

肌は年齢とともに乾燥しやすくなる

「肌を乾燥や刺激などから守る働きをするもののひとつが皮脂です。年齢とともに皮脂腺の働きが低下すると皮脂の分泌が少なくなるので、乾燥しやすくなる。

 また、肌の表面にある角層には水分を保持する働きのセラミドという物質があります。セラミドも加齢とともに減りやすくなるため、高齢になるほど肌の乾燥が強まるんです」

 身体の中でも、特に気をつけたいのはすねの乾燥だ。

「かゆみを訴える患者さんを診ていると、すねが乾燥している方がすごく多いんです。すねは皮脂腺が少なく衣服の摩擦を受けやすい上に、心臓から遠く血流や代謝が低下しやすい部位です。年齢とともに血管が細く弱くなると血流がさらに悪くなりますから、どうしても乾燥しやすくなってしまうんです

 かゆみは一見、軽い症状のように思えるが、悪化すると生活や体調に影響を及ぼすこともある。

「僕自身、アトピー性皮膚炎を患っていたことがあるので、かゆみのつらさはわかります。実際、かゆみで眠ることができずに来院される患者さんは多い。睡眠不足になると生活や仕事の質が落ちますし、免疫力も低下してしまいます。

 そうなると感染症や帯状疱疹(ほうしん)を発症してしまうこともあります。また、眠れないほどのかゆみはイライラや焦りといった精神症状にもつながります

 かゆみをきっかけに大病が見つかった患者さんもいるという。

「高齢の患者さんが『背中に5ミリくらいのほくろのようなボツボツが急にたくさんできました』とかゆみを訴えて受診されたことがあります。

 私は内臓に悪性腫瘍がある場合の皮膚疾患を疑い、内科で精密検査を受けていただきました。その結果、初期の胃がんが見つかりました。健康診断を長い間受けておらず、皮膚に赤み(炎症)を伴わないかゆみが長く続く場合は注意しましょう

ローションタイプの保湿剤は塗りやすい代わりに保湿効果は低め。軟膏は塗った後のベタつきが気になるものの、保湿効果は大きい

かゆみはかかずにまず冷やす

 かゆみが生じると、かきむしりたい衝動に駆られることがある。

かゆみは痛みよりも耐えがたいこともあります。でも、かいてはいけません。なぜかというと、かくことで皮膚が刺激されて炎症が悪化してしまうからです。その結果、かけばかくほどかゆみが強くなるという悪循環に陥ってしまいます」

気をつけて!「キケンなかゆみ」のサイン

 かくことには次のようなリスクもある。

かくと皮膚の表面に小さな傷ができ、そこから細菌やウイルスが入り込むこともあります。また、長期間にわたってかゆいところをかき続けると、症状の改善が遅くなるだけでなく、その部分の皮膚が厚くなったり黒ずんだりして痕が残ることもあります」

 では、かゆみにはどのような対処をすればいいのか。

かゆみに耐えられないときには、冷やすのがいちばんです。冷やすとかゆみの神経や炎症を抑えられてかゆみが薄れるんです。

 私自身、かゆみを感じたら冷蔵庫から保冷剤を出して当てています。外出先であれば冷たいペットボトルなどを購入して、かゆい部分をまずは冷やすことを心がけてください」

 冷やしてかゆみが治まった後は、皮膚の赤みの有無で対処法が異なる。

「皮膚に赤みがないのは炎症が落ち着いている状態ですから、保湿剤を塗って肌の機能を回復させましょう。赤みや熱感がある場合は炎症が残っていると考えられ、かゆみの再発リスクが高いといえます。

 抗炎症作用がある市販薬の軟膏などを塗り、炎症を鎮めることが大切です。薬を塗った後に冷やすとかゆみの再発予防に役立ちます

 世の中には多くの薬があるが、抗炎症作用のある成分の代表格はステロイド。しかしステロイドは“副作用がある成分”という印象が根強い。

「患者さんの中には、ステロイドを警戒している方もいらっしゃいます。たしかにステロイドにはさまざまな副作用がありますが、皮膚につける薬の場合、副作用はそれほど強くありません。

 陰部への塗布には注意が必要ですが、身体や手足、顔などへ塗る分には、1週間程度の短期間であれば大きな問題はないと考えます」

保湿で乾燥を防ぎかゆみを予防

 かゆみの対策でいちばん効果的なのは、かゆみを生じさせないこと。

「そのために大切なのが、保湿です。皮膚科で処方される保湿剤はもちろん、市販のものでもかまいません。お風呂から出たら水分を押さえるように身体を拭いて、すぐに保湿剤を塗っていただきたいです。乾燥しやすいすねにも忘れずに塗ってください

 生垣先生は皮膚の乾燥を最小限に抑える入浴法を提唱している。

熱いお湯は皮脂を必要以上に奪ってしまうので、38℃程度のぬるめのお風呂が理想的です。乾燥が気になる方はボディタオルなどで身体をこすらず、石けんを手で泡立てて皮脂の多い脇の下や足の裏、陰部のみをなでるように手で洗い、それ以外はお湯で洗い流すだけにしてください。

 患者さんには『それだけで汚れが落ちるんですか?』と驚かれるのですが、普通の汚れならお湯だけで十分なんです」

 かゆみが生じないよう保湿や入浴の仕方に気をつけつつ、肌トラブルが多いこの季節を乗り切りたいものだ。

かゆみの正しい対処法

1.かゆみが出たらまずは冷やす

 冷やすと皮膚の温度が下がり、神経の伝達が鈍くなるため、かゆみの信号が伝わりにくくなる。また、皮膚の血管が収縮してかゆみや赤み、熱感が落ち着くという効果も。

2.肌に赤みがないなら保湿剤、赤みがあるなら薬を塗る

 赤みがないのは乾燥が主な原因のかゆみなので、保湿剤で皮膚のバリア機能を回復させる。赤みがあるのは炎症が残っている証拠。再発予防のためにも薬を塗って炎症を抑える。

3.薬を塗った上から冷やす

 薬によっては皮膚内部が温まり、一時的にかゆみが悪化する場合も。その場合、塗ったあとに軽く冷やすとよい。冷やすのは薬が肌になじんでから、かゆみが収まる程度の時間に。長時間はNG。

かゆみの正しい対処法

気をつけて!「キケンなかゆみ」サイン

●赤みや乾燥もないのにかゆみが治まらない

 肝炎や胆石といった疾患では、胆汁酸などの物質が体内にたまることでかゆみの神経を刺激し、かゆみが生じることが。

●手のひらがムズムズかゆい

 腎臓の疾患では老廃物の蓄積による神経刺激で手のひらがムズがゆくなることがある。また、悪性リンパ腫などの血液疾患でもかゆみの症状が手のひらに生じることも。

●かゆみとともにほくろのようなボツボツができた

 かゆみとともに生じるボツボツはレーザー・トレラ徴候と呼ばれ、胃がんや大腸がんなどの消化器系がん、乳がん、肺がんなど、悪性腫瘍がある場合に現れることがある症状のひとつ。

生垣英之先生●いけがき皮膚科院長。長野県諏訪市生まれ。弘前大学医学部卒業後、信州大学医学部附属病院皮膚科に入局し、佐久総合病院などを経て2017年茨城県古河市のこだま皮膚科院長に就任し、2019年に現在の皮膚科を継承し開院。

教えてくれたのは……生垣英之先生●いけがき皮膚科院長。長野県諏訪市生まれ。弘前大学医学部卒業後、信州大学医学部附属病院皮膚科に入局し、佐久総合病院などを経て2017年茨城県古河市のこだま皮膚科院長に就任し、2019年に現在の皮膚科を継承し開院。著書に『専門医が教える健康な肌に変わる対処法 皮膚トラブルの治し方大全』。


取材・文/熊谷あづさ