「ここに行きたい、あれに挑戦してみたいと、80歳を過ぎても常にやってみたいことが尽きません。暖かくなってくると、川沿いの桜のつぼみは膨らみ始めたかな、などと気になって訪れたくなります。明日は何をしようかと考えるのが楽しいです」
そう好奇心旺盛な笑顔で話すのは、健康増進の研究を専門とする石田良恵教授、御年83歳。
歩くことは生きる基本!脳も身体も元気にします
講演会で各地を飛び回り、週に1度は50~80代が参加する筋トレ教室で指導を行うなど、現役でバリバリと仕事をするかたわら、趣味の登山を楽しんでいる“フッ軽(フットワークが軽い)シニア”だ。
なぜ、年齢を重ねてもこれほどアクティブでいられるのか。秘訣(ひけつ)は長年習慣にしている散歩だという。
「“歩く”というのは、生きる基本だと思っています。立ち上がって自分の足で動けるからこそ、やりたいことが自由にでき、それがワクワク感や毎日の張り合いにつながっていくのです。今の年齢になって、より歩けることのありがたみを実感しています」(石田先生、以下同)
自らの経験から、散歩は筋力維持だけでなく、心や頭の健康に良い影響があると確信している石田先生。歩くことが脳を活性化し、認知症予防にも役立つと提唱している。
もちろん、それを裏付ける研究結果も各国で報告されている。たとえば、東京都長寿医療研究センターが行った研究によると、1週間に90分(1日あたりにすると約15分)歩く人は、週に40分未満しか歩かない人より認知機能テストの結果が良いことが明らかに。歩くことで記憶力や判断力などの認知機能が改善されたというエビデンスもある。
五感をフルに使って歩く時間が脳に効く!
さまざまな研究結果と実体験から、いつまでも頭をすっきり若々しく保つために散歩の習慣化を推奨する石田先生だが、単に歩けばよいというわけではないとも指摘する。
「街を歩いていると、猫背で足を上げずにペタペタと歩いているシニアを見かけることが少なくありません。見た目にも年齢を感じさせる歩き方ですし、歩くことで得られる脳への良い刺激も少なくなります。もったいないな、と感じます」
脳が受け取る情報の約8割は視覚が占めているといわれるが、猫背で歩くと視線が下を向いたままになってしまうため、脳への刺激が減少。どんなに時間をかけて歩いても、脳を元気にする“ボケない散歩”にはならないのだ。
「大切なのは、歩く量ではなく“歩き方の質”を心がけること。視線を上げて、周りを観察しながら歩きましょう。キレイな花が咲いているな、鳥がいい声で鳴いているなと感激したり、お店のショーウインドーが素敵だなとワクワクしたり。
あるいは、八百屋さんの前を通りながら、お野菜の値段が上がっているな、などと考え事をするのでもよいと思います。そうして頭をフル回転して歩く時間が認知機能の維持に役立ちます。
毎日15分で大丈夫。最初は5分から始めてもいい。たとえ5分でも、1時間ボーっと歩くよりもずっと脳によい影響を与えることができるはずです」
自分の歩き方をショーウインドーで確認したり、家族にスマホで撮影してもらうなどし、まずは歩き方をチェックすることから始めてほしいとアドバイスする。
春は脳を活性化する、散歩に絶好の季節
加えて「歩幅を広げて歩くとなおよし」と石田先生。背すじが伸びて視線が上がるだけでなく、しっかりと地面を蹴って歩けるようになるため、筋力アップが期待できる。
「心と身体は連動していますから、筋肉がついてしっかり歩ける→歩くことがおっくうでなくなるので行動範囲が広がる→興味のあることが増え、気持ちが前向きになる、というプラスの連鎖が起きます」
散歩に加え、簡単な筋トレを取り入れることもおすすめだという。
「脚や足裏に筋肉がつけば、ラクに歩くことができるようになるので散歩が続けやすくなります。私が筋トレなどの指導をしている教室の生徒さんも、散歩を習慣化して、歩けるという自信が持てると、より活発になり、イキイキしてくる人が多いですね。やはり、よく歩くことが頭も身体も若々しくいられる秘訣なのだと感じます」
特に、春は散歩が楽しい季節で、歩き始めにぴったりと石田先生は声を弾ませる。
「私は川沿いの道を歩くのが好きですが、これからの季節は本当に発見がいっぱい。つぼみが膨らんで、芽吹きを感じる。景色の変化を感じながら歩く時間は、心が躍る刺激をたくさんもらえますよ」
世界で立証!歩くことで病気予防に
◎1日3800歩で認知症リスクが25%減
南デンマーク大学などとシドニー大学の研究によると、認知症のリスクは1日平均3800歩前後で約25%、9800歩前後で約50%下がる。
◎脳卒中の発生リスクを下げる
ウォーキングを習慣にしている人は、脳卒中などが原因となる脳血管性認知症の発症リスクが7割以上低いというイタリアの研究も。
◎認知機能に関わる脳の部位が活性化
コロンビア大学や筑波大学の研究によると、歩くことで脳の血流が増え、記憶をつかさどる海馬や論理的な思考を働かせる大脳皮質などが活性化。認知機能の維持につながる。
“脳に効く”歩き方のポイント
★周りの景色を観察
季節の移ろいなどを楽しんで、アレコレ考えながら歩くことがボケ防止に。
「私のお気に入りは川沿いの道を歩くこと。自然の変化を感じるとワクワクし、脳がフル回転します」
★地面をぐっと蹴る
かかとで着地し、親指の付け根のほうに体重を移動。足の裏(足底筋群)を使って、地面をしっかりと蹴り出すように進むこと。
「安定感が生まれ、筋力アップにもつながります。長く歩いても疲れない足腰を手に入れることが大事」
★姿勢よく歩き、途中で「背伸び」&「かかとの上げ下げ」
「猫背で歩くと目線が下になり、景色も楽しめない。そうすると脳への刺激が乏しくなるので、途中で少し休憩をして背伸びをし、姿勢を正すのはおすすめです」
同時にかかとをゆっくり上げ下げし、足底筋群とふくらはぎの筋トレも。
★歩幅を広げて歩く
通常より歩幅を1.5倍程度広げて歩くことを意識。
「大股歩きをし、早歩きとゆっくり歩きを交互に繰り返すなどスピードに変化をつけましょう。筋肉が鍛えられ、認知機能も向上します」
歩く+「貯筋」も大事!
ダラダラと長時間歩いても脳への効果はイマイチ。「5分でも安定した正しい姿勢で散歩をすることが重要です。簡単な筋トレで足裏の筋肉(足底筋群)を鍛えておきましょう」
おすすめトレーニング(1)「足指グーパー」
床に座り、両足をまっすぐ伸ばして肩幅くらいに開き、両手は床につける。足指をじゃんけんの「グー(足指に力を入れてギュッと縮める)」「パー(足指の間に隙間ができるよう、思い切り開く)」のように動かす。「グー・パー」を20回ほどゆっくりと繰り返す。1日1~3回。
おすすめトレーニング(2)「足指タオルつかみ」
イスに腰かけ、足元の床にフェイスタオルを縦向きに1枚敷く。タオルの下端に足の指先を置き、足の親指だけを使ってタオルをたぐり寄せる。たぐり寄せ切ったら、タオルを元の位置に戻す。左右それぞれの指で10回。同様に小指でも行う。1日に1~3回。
教えてくれたのは……石田良恵先生●1942年生まれ。保健学博士。女子美術大学名誉教授。定年退職後、登山を始める。生涯登山ができる身体を目指した筋トレ「山筋体操」など、シニア向けに運動指導を行う。近著に『ボケない散歩 83歳、健康を研究する教授の習慣』(アスコム)がある。
取材・文/河端直子

