人は人から生まれ、人と関わり、そして死ぬ。誰しも参列し、列席し、最期は故人として……。今、そんな葬儀についての苦情が過去最多に。遺族の知識のなさや悲痛な精神状態を利用し、“ボッタクリ”としか言えない葬儀業者が多々。そのあまりに悪辣な手口と避けるべき業者を、葬儀の道50年のプロが解説する。
多発している葬儀屋での料金トラブル
実際にあった葬儀において、遺族に対し葬儀業者が提出した見積書。A4サイズ4枚にびっしり90項目ほど《祭壇》《棺》などと品目が記載されている。そして多くの品目の金額部分に赤ペン二重線での“訂正”が入っている。ディスカウント。それは葬儀業者による悲しみに暮れる遺族に対しての慈しみや寄り添いか、はたまた……。
「50年近く見てきた中で、今の葬儀業界の状況はいちばんひどい」
そう話すのは、東京都で葬儀業を営む「佐藤葬祭」代表の佐藤信顕氏。昨今、葬儀での料金トラブルが多発している。'25年発表のデータによると、国民生活センターに寄せられた相談件数は過去最多を更新した。
「もう何十年も悪徳葬儀屋の手口を紹介して“このような業者は避けましょう”といったことを伝えてきました。しかし、もはや葬儀については“こういうところに注意”とか“ここをチェックして”といったことは意味がない状況です」(佐藤氏、以下同)
冒頭の見積書の葬儀。遺族はネットで家族葬の金額が安い業者を見つけた。いろいろと“込み込み”のような『基本プラン』は56万円だった。
「《基本プラン》は葬儀について。これだけで事足りるかのように書かれている。しかしながら祭壇は遺族が望んでもない、選んでもない形となり、追加料金となっています」
基本プランに含まれない追加の品目は多数。そこに二重線を入れ値引きした金額が書かれている。品目によっては訂正した金額にさらに二重線が引かれ、2段階のディスカウント。一見、かなり安くしてくれたように見える。
「『わかりました。この値段まで頑張ります!』と“お勉強”しましたというような。しかし実態は、基本プランに入っているはずのものがなぜか追加で料金が取られている形になっている。または基本プランに入っているものが、より高い品にされている。
遺族は『そんなものは選んでいない』と話していました。希望していないのに、勝手に追加や変更がなされ、見積もりに入っているわけです」
実際の見積書(のコピー)を見ると、“それ”が何なのか素人ではわからない品目も多々ある。佐藤氏にそれを尋ねると……。
「いや、プロが見ても、『これは何?』です……。《ご遺体処置》という品目は2つ記載されていますし、もう意味がわからない見積書。なぜそれで金を取る?というような品目も。基本プランに入っているはずの《スタッフ》もなぜか1人追加されている。
指摘すると減らしましたが、追加した理由は『神道ですからね』と訳のわからないことを言っていたようです」
見積書は、240万円と相場よりはるかに高額、勝手に追加、プロが見ても何かわからない品目のオンパレード。
「悪徳業者を避けられるように、“細かく見積もりを取りましょう”などと言ってきましたが、この見積書がその成れの果てです……。細かく訳のわからない見積書を出してくるようになった。このような見積もりを『故人様のために』などと言われると、説得されてしまう人もいるでしょう」
ちなみにこちらは参列者が5人の葬儀だった。見積書からは、“少しでも多くの金銭を遺族からせしめよう”とする確固たる意志が感じられた。
不要な故人の入浴で36万円
佐藤氏のもとにはこのような相談が多数寄せられている。次もその一例だ。
葬儀において「湯灌」というものがある。故人の身体をぬるま湯などで清め、死に装束を着せ、化粧を施す儀式。故人を清らかな姿で送り出すための伝統的な作法だ。そこで……。
「某葬儀業者は、『生きている人も毎日お風呂に入りますよね』というセールストークで、遺体を毎日湯灌することを提案。1回9万円×4日間で合計36万円を請求したとのことです」
佐藤氏によれば、死亡後は汗や皮脂の分泌は止まるため、毎日お湯をかける必要性は科学的にも薄い。また、ドライアイスや冷蔵安置で腐敗を抑えている遺体を繰り返し温め、移動させる行為は、体液漏出や皮膚の弱化を招き、かえって腐敗を促進するおそれがある。
そのため病院でのエンゼルケア(清拭)や家族による簡単なタオル拭きで十分な場合が多く、プロの湯灌は火葬直前の1回が標準的。すなわち不要なものを3日分追加された形だ。
「プロが見ても意味不明なことを見積書に入れてくる業者がありますが、意味不明なだけでまだマシという世界。遺体については一般の方は皆さん不慣れです。ましてや亡くなられてすぐの正常な判断が難しい状況。
そこで『においが出ますよ』『お父さん、かわいそうじゃないですか』などと言って料金を上乗せ。遺体を盾に取るような商売は絶対にやってはいけない。遺体を盾に取れば、正直葬儀業者はいくらでも不安商法が可能なわけです」
今、なぜトラブルが増えているのか。
「トラブルの増加は、正直なところ、亡くなられる方が増えていることによる自然増によるものです。葬儀が増え、一定数でトラブルがある。しかしその内情は変わっています。急速に増加しており、かつ悪質化している」
悪徳業者はあの手この手を使うので、ハウツー的な指南は意味をなさない。とはいえ、それを避けるためには……。
「多くの人が参列者の少ない小さな葬儀を選ぶようになりました。それによって葬儀の“体験”が少なくなっている。以前は自身の体験や近しい人からの評判をもとに葬儀業者を選んでいましたが、体験がないため、ネットで探す。
ネットで集客をしている業者は耳目を引くために、安い金額を謳います。そこには多額の広告費がかけられており、回収するために、実際の金額はその何倍にもなる」
ネットの口コミや広告に要注意
しかしながら、慈しむ気持ちはあれど、遺族にとって費用は重要な要素だ。
「まじめにやっている、嘘をつかない業者は『これぐらいかかります』とまともな金額を提示します。そして広告では勝てないので、もうまともな業者は広告を積極的に打とうとしていない。約束を守る気がないならいくらでも安値を提示できます」
では、どう選ぶか?
「やはり“人づて”の紹介。信用できる人から信用できる情報として聞いてみてください。信用はタダじゃない。人と付き合わない限り、信用も生まれないし人づても生まれません。まともな人とまともな付き合いであれば、変なところはすすめられないでしょう」
逆に言えば……。
「簡単にタダで手に入る安い情報は鵜呑みにしない。ネットの口コミもありますが、そこには操作も売買もあるでしょう」
事前の準備をすればするほど、確率的に悪徳業者にハマってしまうという。
「悪徳な業者は広告をたくさん出しているので、ネットで調べれば調べるほど、そういった業者への接触は増えます。ですので、最初から人づてで考えてほしいです。広告ではない、誰かわからない人のレビューでもない、実際に体験した人に葬儀屋の印象、対応を聞いてください」
良い葬式、いや“当たり前”の葬式が少なくなってしまっているのが今の時代なのかもしれない。
