食後に血糖値が乱高下することを“血糖値スパイク”というが、近年、これを繰り返す生活が続くと、身体の不調だけではなく、生活習慣病のリスクも高まることがわかってきた。なぜ、血糖値の乱高下が起きるのか、それを防ぐにはどうすればいいのか。糖尿病の専門医が解説。
“血糖値スパイク”が健康に深く関わっている
「『最近、お腹まわりが気になる』、『食後に眠くなってしまう』、『健康診断では何も異常がないのに、なんとなく疲れやすい』といった不調を感じている人が少なからずいらっしゃると思います。実は、その不調には血糖値の急変動が関係しているかもしれません」
そう話すのは糖尿病専門医の矢野宏行先生。
「血糖値は糖尿病の人が気にする数値、と思っている人も多いでしょう。しかし最近は、食後に血糖値が急激に上昇し、その後急降下する“血糖値スパイク”が健康に深く関わっていることが知られるようになり、注目を集めているんです」(矢野先生、以下同)
血糖値とは血液中に含まれる、ブドウ糖の濃度のこと。
「食事をすれば誰でも血糖値は上がりますが、気をつけたいのは血糖値の急激な上昇です。本来は身体がうまく調整して大きく乱高下しないような仕組みになっています。でも、空腹時に甘いお菓子だけを食べたり、白米や麺類を早食いしたりすると、血糖値が急上昇しやすくなるのです」
血糖値が急激に上がると、身体の中でどのようなことが起こるのだろうか。
「血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンには血液中の糖を細胞へ取り込む働きがあり、分泌されると血糖値が下がります。
血糖値が急上昇するとインスリンが大量に分泌され、血糖値を急激に下げようとします。それにより脳のエネルギー(糖)不足が起こり、食後の眠気や倦怠感、イライラといった症状が起こりやすくなるんです」
血糖値スパイクを繰り返す生活は、次のようなリスクに直結するという。
「インスリンには、余分なエネルギーを脂肪として蓄える働きもあります。つまり、血糖値が急激に上がる食生活を続けると脂肪をため込みやすい状態が繰り返されることになり、太りやすくなってしまうんです」
また、血糖値スパイクが慢性的に続くと、身体にも大きな負担がかかることになる。
ポイントは食後15分以内に15分だけ身体を動かすこと
「膵臓が大量のインスリンを分泌することを繰り返すと、細胞がインスリンに慣れて、その利きが悪くなってしまいます。これを『インスリン抵抗性』といいます。インスリン抵抗性が進むと血糖値が慢性的に高めになります。その結果、糖尿病のリスクが高まります」
血糖値が高い状態が続くと、血管に影響が及ぶ。
「血管は全身に張り巡らされている血液の通り道です。高血糖が続くと血管に負担がかかり、血管が傷つきやすくなります。その結果、高血圧や動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こしやすくなるのです」
血糖値スパイクを防ぎ、肥満や病気を予防するためには、どのようなことに気をつければいいのだろうか。
「2つのポイントがあります。1つ目は『プチ糖質制限』です。普段、私たちが食べている食事は炭水化物(糖質)中心になりがちです。糖質は身体に必要な栄養素ですが、とりすぎると血糖値が急上昇してしまうんです」
例えば、ご飯茶わん1杯に糖質は約55g含まれている。
「糖質はイモ類や根菜類にも多く含まれており、料理の味つけなどに使われる砂糖も糖質が多い食品です。餃子や春巻き、ポテトサラダといったおかずにも糖質が含まれています。糖質をとりすぎないよう、ご飯の量は茶わんの半分、できれば3分の1程度にまで減らしたいものです」
では、2つ目のポイントとは?
「炭水化物を食事の最後に食べる『カーボラスト』です。食事の最初に糖質をとると、血糖値スパイクを引き起こしやすくなります。でも、同じ量の糖質を食事の最後にとった場合、血糖値の上昇はゆるやかになるんです」
もう1つ、血糖値を急上昇させないために矢野先生がおすすめしたい方法があるという。
「食後15分以内に15分だけ身体を動かすことです。血糖値が上がる前に軽度な運動をすると食事でとったエネルギーが消費され、食後の血糖値の急上昇を抑えることができるんです。毎食後が難しい場合は、夕食後だけでもかまいません。ウォーキングや踏み台昇降など、無理なくできる運動を取り入れてみてください」
矢野先生いわく、血糖値コントロールに必要なのは1%の努力だそう。
「24時間の1%は約15分。糖質の量や食べる順番に気をつけて食後15分の簡単な運動を習慣にするだけで、血糖値は整いやすくなります。肥満のリスクや日頃の不調を軽減するためにも、ぜひ“1%の努力”を続けてほしいと思います」
血糖値をリセットする体操
踏み台昇降にチャレンジ!
1.背筋を自然に伸ばしてお腹に軽く力を入れ、腕を曲げて立ち、右足を台の上にのせる。このとき、身体が前傾しないように気をつけること。
2.左足を台にのせ、台の上に両足で立つ。背すじを自然に伸ばし、お腹に軽く力を入れた姿勢を意識する。
3.右足を台の上からおろしたあと、左足を台からおろす。1~3を繰り返す。適度に休憩をはさみながら15分続ける。
【ポイント】
・踏み台昇降用の台があればベストだが、ない場合は階段の一段目や室内とベランダの境目など、自宅内の段差をうまく利用して行う。
・台の高さは15cmぐらいからスタートするのがおすすめ。
・雑誌や本などを重ねた自作の台は安定せず、転倒の危険があるので使用しないこと。
・ゆっくりでもいいので一歩ずつ、自分のペースで行うように。
・疲れてきたら、台を使わず、その場で足踏みするだけでも運動効果アリ。
取材・文/熊谷あづさ
矢野宏行先生 医学博士。糖尿病専門医。やのメディカルクリニック勝どき院長。1981年生まれ。2006年日本医科大学を卒業後、同付属病院勤務、国立国際医療研究センターの糖尿病研究センターの研究員を務め、2023年にクリニック開業。YouTube「Dr.ゆきなり【~糖尿病克服への道~】」など、各種メディアでも情報を発信中。
