年齢とともに高まる、転倒や骨折のリスク。健康のためにウォーキングを続ける人も多いが、膝や股関節に負担をかけてしまうこともある。そこで整形外科医・中山潤一先生がすすめるのが、1日1分からできる「ゆる体操」。転びにくく、動ける身体をつくる簡単習慣を紹介する。
歩くだけでは足りない理由
「健康のために歩くことは大切ですが、筋力が落ちた状態で歩きすぎると関節を痛めることもあります。転倒予防には、まず下半身を支える筋肉を鍛えることが重要です」
そう話すのは整形外科専門医の中山潤一先生。
年齢を重ねると筋力は少しずつ低下していく。特に50代以降はその傾向が強まり、65歳を過ぎる頃からは転倒や骨折のリスクも高くなる。女性の場合は閉経後に女性ホルモンが減少することで骨密度が低下しやすく、骨粗しょう症のリスクも高まる。
転倒や骨折は単なるケガでは済まないことも多い。骨折をきっかけに活動量が減り、そのまま寝たきりや要介護状態につながるケースも少なくない。だからこそ、元気なうちから身体を支える力を維持することが重要なのだ。
そこで取り入れたいのが、1日1分から始められる「ゆる体操」。
「激しい運動は必要ありません。大切なのは、身体を支える筋肉とバランス能力を無理なく鍛えること。そのために効果的なのが片足立ちを取り入れた運動です」(中山先生、以下同)
中山先生が提唱するのは、「ゆる片足上げ」「ゆる腰下げ」「片足つま先立ち」の3種類。どれも片足で身体を支える動作を取り入れているのが特徴だ。
なかでも基本となるのが「ゆる片足上げ」。
背筋を伸ばして立ち、片足を少し浮かせた状態で1分間キープするだけというシンプルな運動だが、その効果は侮れない。片足で1分間立つだけでも、太ももの付け根にある骨には大きな刺激が加わる。
研究では、片足立ち1分で約53分歩行したときに相当する負荷が骨にかかることが報告されている。
「歩行そのものと同じ運動効果を意味するものではありませんが、骨や筋肉に効率よく刺激を与えられる点は大きな魅力。
片足で立つと、身体が倒れないように下半身や体幹の筋肉が自然に働きます。特別な運動をしている感覚がなくても、バランス能力や筋力を効率よく鍛えられるのです」
片足立ちでは太ももやお尻、股関節まわりの筋肉だけでなく、身体を安定させる体幹も使われる。その結果、ふらつきにくくなり、転倒予防につながるという。
さらに、歩く、立ち上がる、階段を上るといった日常動作もスムーズになる。実際に体操を続けた人の中には、片足立ちができる時間が延びたり、歩行速度が向上したりするなどの変化がみられたという。
「転びそうになったとき、とっさに踏ん張る力はとても重要です。その力を支えるのが速筋と呼ばれる筋肉です。ゆる体操を続けることで、そうした筋肉も効率よく使えるようになります」
効果を実感するまでの期間には個人差があるが、早い人では4〜6週間ほどで変化を感じることもあるという。
「それでは意味がない」医師が警鐘、効果を左右するポイント
ただし、中山先生が何より大切だと強調するのは「続けること」だ。
どれほど効果的な運動でも、数日でやめてしまえば意味がない。反対に、負荷が軽くても毎日続ければ身体は少しずつ変わっていく。その点、ゆる体操は特別な道具や広いスペースを必要としない。自宅でできるため、運動習慣がない人でも始めやすい。
「テレビを見ながらでも、歯磨き中でも、ドライヤーをかけながらでも構いません。日常生活の中に組み込んでしまうのが続けるコツです」
外出がおっくうな人や運動が苦手な人でも取り組みやすく、天候にも左右されない。忙しい人でも無理なく続けられるのは大きなメリットだろう。ただし、無理は禁物。体操は壁や机など支えのある場所で行い、痛みや強い違和感がある場合は中止すること。膝や股関節に持病がある人は、主治医に相談してから行うと安心だ。
手軽なゴムハンドでさらに筋力アップ
体操に慣れてきた人には、ゴムバンドを使った「ゆる加圧」という方法もある。太ももの付け根近くに専用のゴムバンドを軽く巻き、同じ体操を行うものだ。筋肉への刺激が高まり、より効率よく筋力アップを目指せるという。ゴムバンドは100円ショップなどで売っている幅3センチほどのものを使用。ゴムを巻く時間は2分以内を目途にする。
「まずは通常の体操を習慣にすることが先決です。そのうえで物足りなくなった方は、次のステップとして取り入れてみるといいでしょう」
まずは1日1分。今日から始めるその習慣が、10年後も自分の足で元気に歩き続けるための土台になるはずだ。
たった一分で動ける体に大復活する体操。まずは1日1分。今日から始めてみよう!
転倒や骨折を防ぐ「ゆる体操」のやり方
ゆる片足上げ
(1)背筋を伸ばして立ち、足を肩幅に開く。膝を軽く曲げて、両手は楽な位置に下ろすか、軽く開く
(2)右足のつま先が5センチくらい床から離れるように、右足を上げ、そのまま1分間維持。反対側も同じように行い、1セット
目安回数:1分間を片足ずつ×1日2~3セット
効果:骨粗しょう症予防・立ったり歩いたりが楽になる・転びにくくなる
部位:腰から太ももにかけての腸腰筋・太ももの前面の大腿四頭筋に効果あり
ここがポイント!
軸足に重心を傾けるのではなく、常に身体の中心に真っ直ぐ重心を置く
ゆる腰下げ
(1)背筋を伸ばして立ち、足を肩幅に開く
(2)右足を5センチくらい床から離し、そのまま2~3秒間維持
(3)上げた右足を2歩分くらい前にゆっくり踏み出す
(4)両膝を曲げて膝を下げる
(5)前足のかかとで床を蹴って、ゆっくり最初の姿勢に戻る。足を交互に替えて、各足10回ずつ行う
目安回数:10回を片足ずつ×1日2セット
効果:股関節や柔らかくなる・歩きやすくなる
部位:お尻の大臀筋と中臀筋・太ももの前面の大腿四頭筋・骨盤底筋群に効果あり
ここがポイント!
・ゆっくり行うことで股関節の遠心運動になり、柔軟性が取り戻せる。アキレス腱に痛みがある人は無理に体操を行わないこと
・膝に負担がかかるので、踏み出した足の膝は、つま先より前に行かないように行う
片足つま先立ち
(1)背筋を伸ばして立ち、足を肩幅に開く
(2)右足で片足立ち
(3)右足のかかとをスッと上げ、そのまま1~2秒間維持
(4)ゆっくりとかかとを下ろす。10回行ったら足を替え同じように行う
目安回数:1~2秒間10回を片足ずつ×1日1セット
効果:股関節や膝の痛みが軽くなる・立ったり歩いたりが楽になる・転びにくくなる
部位:ふくらはぎの下腿三頭筋に効果あり
ここがポイント!
動作だけに集中するよりも、ふくらはぎが緊張していることを意識することで、筋肉の増加率がアップ。ただし足がつりそうになったら、すぐにかかとを下ろす
ゆる加圧
(1)太ももの最も太い部分を、ゴムバンドでひと巻きする
(2)それを二つに折り、半分の長さのところに印をつける
(3)とじ代をつくるため、印をつけた長さより両端とも長めに切る
(4)両端をとじる。とじ方は好みのものを選ぶ
こんな人は避けて!
閉塞性動脈硬化症や静脈瘤のある人、透析中の人、血液をサラサラにする薬を服用している人は行わないでください。
イラスト/アスコムから提供
中山クリニック院長、整形外科医、医学博士。大阪医大(現大阪医科薬科大学)卒業後、同年神戸大学整形外科入局。神戸逓信病院医長、神鋼加古川病院医長を経て11年に中山クリニックを開業。著書『動ける体が大復活する1分体操』(アスコム)が発売中。
