近年、「墓じまい」が増加しているのをご存じだろうか。墓じまいとは、今あるお墓を解体・撤去して更地に戻し、その土地をお寺などの管理者に返すことを指す。墓じまいをして、遺骨を別の場所のお墓に移すことを「改葬」というが、2024年度の改葬の件数は17万6000件余りと過去最多を記録(厚生労働省「衛生行政報告例」より)。この10年で約2倍になっている。
10年で約2倍に急増の理由は?
なぜ、ここまで急増しているのか。相続相談を業務とし、墓じまいにも詳しい夢相続代表の曽根恵子さんが説明する。
「『お墓が遠くて、お参りになかなか行けない』『お墓の承継者がいない』といった理由からだと思います。昔は進学や就職で上京しても、リタイア後は自分の故郷に戻るのが通例でしたけど、今はそのまま東京など都会に根を下ろす人のほうが多数派です。
そうなると田舎にあるお墓を守るのは難しくなります。子どもたちに引き継ぐとなるとなおさらで、50代、60代の世代が墓じまいを検討しているのでしょう」(曽根さん、以下同)
人ごとではないと感じた人も多いだろう。墓じまいの第一の課題は、お墓に納められている遺骨をどうするかだ。選択肢は2つ。ひとつは先に述べた改葬で、遺骨を別の墓に移すという選択。いわゆる“お墓の引っ越し”だ。
「自分の住む場所の近くに新しくお墓を建ててそこに遺骨を納めた場合、引き続き、お墓の管理は必要となりますが、負担は大幅に減らすことができます」
もうひとつは、今後、家のお墓を持たないという選択。厳密に言えば、こちらが墓じまいにあたる。
「家のお墓を持たない場合でも、遺骨を移して供養する先を選定しなければなりません。永代供養墓や納骨堂、樹木葬などが一般的です。いずれもその墓地の管理者が管理を担うため、以降、家族の手間はなくなります」
費用の総額は30万~300万円
墓じまいには、相応の費用がかかる。曽根さんによれば、「総額30万~300万円ほど」と幅がある。状況や選択によって大きく変わるからだ。
まず既存のお墓の解体・撤去、遺骨の取り出し、お寺へのお布施などで合計約20万~50万円程度。次に新たな納骨先にかかる費用。改葬で新しいお墓を建てると100万~300万円程度。永代供養墓だと10万~100万円が目安となる。
そのほか、手続きに必要な書類の用意にも数千円の費用がかかる。
「これまでお墓を管理してもらったお寺の檀家をやめることになるので、その管理先から離檀料を求められるケースもあります。法要1~3回分が相場といわれています。離檀料の支払いは義務ではないため、あまりに高額な金額を提示されたときは検討し、消費者センターなどに相談するのもひとつの方法です」
改葬して新しくお墓を建てると、費用はそのぶん高くなり、またそのあと管理する手間が生じてしまう。
「ですから、家の墓を持たず、遺骨の引っ越し先は承継者不要の永代供養タイプを選択する人が増えてきています」
永代供養墓をはじめ、納骨堂、樹木葬などがそれに該当する。
「永代供養タイプの場合、最初にまとめて永代供養料を支払えば、以後の供養や管理に対する出費は基本ありません。もっともポピュラーな永代供養墓のひとつが合葬墓。
不特定多数の遺骨を一緒に納めるタイプで費用を抑えられますが、一度合葬したら遺骨を取り出せないなどの難点もあります。メリットとデメリットを踏まえて、選択しなければなりません」
そのほか、散骨や遺骨を家に引き取って供養する手元供養という選択もある。
「散骨は遺骨を海や山にまく自然葬です。禁止している自治体もあるなど、容易にできるわけではないので専門の業者などに相談するとよいでしょう。また手元供養についても、先祖代々の遺骨をすべて手元に引き取るのは、数が多くなるのであまり現実的ではありません。ケース・バイ・ケースの選択になってくるでしょう」
家族や親族の理解を得られるかがカギ
さまざまな選択事項を決定したら、いざ墓じまいの手続きへと進む。
まず用意しなければならない書類が「改葬許可申請書」。窓口は今あるお墓を管轄する自治体の役所だ。加えて、「埋蔵証明書」が必要となり、こちらは墓じまいをする寺社などの管理者に依頼する。
次に、遺骨の引っ越し先となる側の管理者に「受入証明書」を発行してもらう。通常、遺骨の引っ越し先が決まっていないと、改葬の許可は下りない。
準備した埋蔵証明書と受入証明書を改葬許可申請書に添え、今あるお墓を管轄する自治体の役所に提出。受理され「改葬許可証」を手にしたら、ようやく墓じまい・改葬が行えるようになる。
「行政の手続きを含め、墓じまいは労力を伴うものです。近年は一連の作業を代行するサービスもあり、霊園業者や墓石販売店などが手がけています。金額やサービスは各社さまざまなので、HPなどで内容を精査し、数社見積もりをとってから利用を検討しましょう」
墓じまいの成否は何より、家族や親族の理解を得られるかどうかで決まるという。
「あらかじめ、家族や親族と十分話し合うことが大切です。お墓は一家族だけではなく親族にも関わることなので、周囲の賛同を得られないまま事を進めてしまうと、のちにトラブルに発展しかねません。
遠方のお墓を管理する大変さなど事情をきちんと説明し、家族や親族の意見も聞きながら、遺骨の供養方法を決めましょう。お盆を迎えるこの時期は、家族で話し合う絶好の機会。コミュニケーションを第一に、墓じまいをスムーズに進めていただきたいと思います」
<取材・文/百瀬康司>
