単身高齢者は900万人を超え、今後も増え続ける見込みだ。一方で、高齢になると賃貸住宅は借りにくくなり、持ち家でも住み替えの際、不利な状況になることがある。「家があるから大丈夫」は本当なのか。誰もが迎える老後に備え、知っておきたい住まいの現実と今から何を備えるべきかを住生活問題の専門家・葛西リサ先生に聞いた。
「持ち家」前提が崩壊、高齢期の住居が課題
65歳以上の一人暮らし、“単身高齢者”が今後さらに増加すると見込まれている。その一方で、老後の住まいを確保するハードルは高まっているのが現実だ。
その背景を、住生活問題を専門とする追手門学院大学の葛西リサ先生は、「日本社会が前提としてきた家族モデルが成立しなくなっているからだ」と指摘する。
「これまでは、結婚して持ち家を購入し、子どもが親の老後を支えるライフスタイルが一般的でした。しかし今は、結婚しない人や子どもを持たない人も増えています。わざわざ家を購入する前提そのものが、揺らいでいるのです」(葛西先生、以下同)
その結果、賃貸住宅で高齢期を迎える人がさらに増えることが予想される。ところが、賃貸市場では高齢者の入居を敬遠する傾向が依然として根強い。背景にあるのは「孤独死・孤立死」への懸念だ。
部屋で亡くなり、遺体の発見までに時間がかかれば、特殊清掃や原状回復(入居前の状態に戻すこと)などが必要になる。不動産会社や大家にとって大きな損害となるため、高齢者の受け入れに慎重になるケースが少なくない。
そのため、現在の不動産業界では“若い入居者”が優先されやすく、まだ働き盛りの50代でも入居を断られるケースがあるという。
「健康で仕事を持っていても、不動産会社から見ると50代は、『いずれ高齢者になる』予備軍です。一度入居すると長く住み続けることも多いため、将来的には孤独死などのリスクを抱える可能性が高いと判断されてしまいます。
預貯金があれば、持ち家の購入も選択肢にできますが、就職氷河期で正規雇用につけず、十分な蓄えがないまま中高年になった人たちは特にリスクが高くなります」
一方で、持ち家がある既婚女性であっても安心はできないという。
「夫に先立たれた女性が、郊外の戸建て住宅を持て余しながら一人暮らしを続けるケースも増えています。『駅近の便利な場所に移り住みたい』と賃貸住宅への入居を希望しても、身動きが取れなくなることがあるのです」
高齢期になると、体力の低下や生活環境の変化によって、今の家に住み続けることが必ずしも最善とは限らなくなるケースも少なくない。しかし、いざ住み替えようとしても、現在の住居が思ったように売却できないこともある。
つまり問題は、持ち家か賃貸かではない。高齢期になっても安心して住み替えられる選択肢が十分とはいえないことだ。それは誰にとっても人ごとではない。
高齢者の住まいとして知られるのが、国が整備を進めてきた「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」だ。バリアフリーなど高齢者が暮らしやすい環境を備え、安否確認や生活相談などのサービスを受けられる住宅である。しかし一方で、費用面のハードルもある。
サ高住などの施設は費用面の問題も
「住まいの確保と高齢期の介護や生活支援の両方を受けられるサービスですが、そのぶん利用料金が高額になりやすく、誰もが入れる場所ではない、という課題があります」
また、生活支援を必要としない50代は入居対象にならないため、「賃貸住宅に入りにくく、高齢者住宅の対象にもなりにくい」という狭間に置かれる人たちも生まれている。
こうした状況から、不動産業界の中にも、高齢期の新たな住まいのあり方を模索する動きが生まれているという。
「その一つが、見守りやコミュニティー機能を備えた賃貸住宅やシェアハウスをつくる試みです。例えば、高齢者と同じく住宅を借りにくい立場にある外国人留学生が、同じ建物で暮らす取り組みも始まっています。交流が生まれることで、高齢者にとっても留学生にとっても安心でき、互いに助け合う住まい方として注目されています」
また高齢期に向けて、段階的に住まいを移行できる仕組みを検討する事業者も現れているという。
「賃貸住宅に住みながら、隣接するサ高住の食事や見守りサービスを利用できる仕組みを考える事業者もいれば、将来的に介護が必要になったらサ高住へ移行できるなど、段階的に住まいが変えられる仕組みをつくる事業者も現れています。
高齢者が必要としているのは、安心して暮らし続けられる住まいです。『来年出ていかなければならない』『5年後には住めなくなるかもしれない』と年齢で区切られることへのプレッシャーは、高齢者にとって非常につらいものです」
孤独死を「個人の問題」にしない社会へ
超高齢社会の日本では、高齢者施設に入れない人だけでなく、そこまでたどり着けない人も増えていく。だからこそ、住む側も貸す側も「賃貸住宅で最期を迎える社会」を前提に考え、リスクを共有し、支える仕組みを考えていく必要がある。
「孤立死・孤独死というと、遺体の発見が遅れることばかりが注目されがちですが、本質的に考えていくべきことは、生きている間に誰ともつながれず、不安や寂しさを抱えて暮らしている人を減らすことです」と、葛西先生は強調する。
自治体では、見守りを兼ねた宅配サービスや、異常を感知する人感センサーの活用など、高齢者の孤独死・孤立死を防ぐための取り組みが広がっている。また、外出の機会が増えるよう、地域活動の活性化を目指す動きもある。
しかし、葛西先生は「参加する人は一部にとどまる」と指摘する。
「高齢者の誰もが地域活動に参加したいかといえば、それは違います。だからもっと、ゆるやかなつながりでもいい。例えば、毎朝、誰かとLINEであいさつを交わすだけでもいいのです。返事がなければ誰かが気にかける。そうした習慣があるだけでも、人は安心して暮らすことができます」
今後は、一人で最期を迎える人がますます増えていくだろう。そのとき必要なのは、孤独死を“個人の問題”として片づけないことだ。
葛西先生の話から見えてきたのは、孤独死を防ぐことだけではなく、「孤独なまま老いない社会」をどうつくるかという視点だ。SNSでつながる、近所で声をかけ合う─そんな小さな積み重ねが、孤独を防ぐ第一歩になる。
孤独死させない社会、そして孤独にならないための備え。今、その両方を一人ひとりが考える時期に来ているのかもしれない。
高齢者向け「住宅支援」の実例
【ケース1】
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
高齢者が安心して暮らせるよう、バリアフリー設計の住まいに、安否確認や生活相談などのサービスを組み合わせた住宅。高齢者単身・夫婦世帯向けの賃貸住宅などとして制度化されており、自立した高齢者から一定の介護ニーズがある高齢者まで入居している。
【ケース2】
高齢者を対象にしたシェアハウス
高齢者同士が共同で暮らす住まいの形。共用スペースで交流しながら暮らすことで、孤立防止や見守り、支え合いにつながることが期待されている。中には、高齢者と外国人留学生が同居する民間シェアハウスの実例もある。
取材・文/田島えり子
追手門学院大学地域創造学部教授。住宅問題、居住貧困問題を専門とし、公的施策への提言のほか、民間の不動産関連事業者とともに空き家を活用したシェアハウスの提案などを行う。著書に『単身高齢者のリアル―老後ひとりの住宅問題』(筑摩書房)がある。
