暑さを理由に外出を控えていると体力や筋力は少しずつ低下していく。だからこそ今、自宅で続けられる運動習慣が大切だ。シニア世代を多く指導するパーソナルトレーナーに無理なく続く“家トレ”のポイントを聞いた。
健康意識の向上で家トレが人気
「美と健康のため、少しは身体を動かさなきゃ」と焦りつつも、あまりの暑さに「家から一歩も出たくない……」。そんなお悩みを救ってくれるのが、自宅でできるトレーニング、「家トレ」だ。YouTubeの筋トレ動画などを見ながら、冷房の効いた自宅で身体を動かす人が、50代、60代の女性にも増えている。
消費経済アナリストの渡辺広明さんは、この流れの背景に「健康寿命」への意識の高まりがあるとみる。
「平均寿命と、健康寿命との差は男女ともに約10年もあります。ただ長生きするだけでなく、老後を元気に過ごしたい。核家族化が進み、老後は子どもに迷惑をかけたくない。物価高や医療費・税金の負担が増す中、単なる健康維持のためだけではなく死活問題として捉えられているのでは」と渡辺さん。
健康寿命を延ばすカギとして昨今知られるようになったのが筋トレの重要性。
「その効果を高めるものとしてプロテイン(タンパク質)も広く浸透しました。骨や筋肉、臓器の健康を維持するうえで欠かせないものとして認識されています。これらは、かつてはボディビルダーなど身体を鍛えたい一部の男性のものというイメージが強かった。
しかしこの10年ほどは、中高年女性も、積極的に生活に取り入れたいものとして捉えるようになっており、市場も非常に過熱しています」(渡辺さん)
この流れを大きく後押ししたのがコロナ禍だった。
「外出自粛によって、多くの人が『動かなければ身体はてきめんに衰える』ことを身をもって実感しました。特にシニア世代は、数週間活動量が落ちるだけでも筋力や体力が低下しやすく、一度衰えた機能を取り戻すには時間がかかります。そのため、無理なく身体を動かすことを毎日の習慣にする大切さが、多くの人に浸透しました。
『じっとしていてはいけない』という危機感は、コロナ禍を機に高まったと思います。スクワットやかかとの上げ下げなど、自分の体重を利用した運動を毎日続けるだけでも、筋力の維持や転倒予防につながります」
そう話すのは、シニア世代を多く指導するパーソナルトレーナーの三嶋教夫さん。こうした社会の変化を受け、24時間ジムや女性専用フィットネスクラブが各地で増え、筋トレはより身近なものになった。
「自宅で使えるトレーニンググッズや、コンビニでも購入できるプロテインバー、プロテイン飲料なども充実。筋トレを始めやすく、続けやすい環境が整ってきています」(渡辺さん)
では、お金をかけずにできることは何か。
外出できない日はスクワットを3セット
「本来であれば、ウォーキングで1日4000歩程度は歩きたいところですが、猛暑日は熱中症のリスクが高まります。そんな日は無理に外へ出ず、自宅でスクワットを取り入れましょう。
短時間でも毎日続けることが、筋力の維持につながります」と三嶋さん。スクワットは、お尻や太ももの筋肉が鍛えられて日常動作がスムーズになるだけでなく、疲れにくく痩せやすくなる効果も期待できる効率的な筋トレだという。
「足を肩幅よりやや広めに開き、足裏全体を床につけたまま、太ももが床と平行になるまでしゃがみ、立ち上がる。これを1度に10回、1日3セットやりましょう。慣れてきたら、足を前後に開き、前側の足裏と股関節に重心を感じながらしゃがむ“スプリットスクワット”に挑戦してみましょう」(三嶋さん、以下同)
なお、運動前には、身体をほぐすストレッチも欠かせない。おすすめは「お尻のストレッチ」だ。
「臀部から股関節の関節の動きをよくしておくと、ケガの予防につながります。椅子に座って足を組み、片方の足首をもう一方の膝に乗せる。浮いてくる膝を手で軽く押さえ、身体をゆっくり前に倒す。お尻が伸びる感覚があれば正解です」
ただし、家トレには注意点もある。
「少しでも違和感や痛みを感じたら、すぐにやめてください。無理に続けると、関節や腱を痛めてしまう可能性も。痛みが続く場合は整形外科を受診して」
YouTubeなどの動画を見ながら家トレに取り組む場合は「エンタメとして楽しむのはいいのですが、中には間違った情報も。発信者の運動指導の実績や資格の有無を確認しておきましょう」とアドバイスする。資格としては、理学療法士や柔道整復師、鍼灸師のほか、民間資格ではNSCA認定なども目安になるという。
「家トレのいいところは、思い立ったらすぐ始められること。着替えなくても、道具がなくても、スクワットなら今日からできます。『やらない理由』を探すより、『まず1回しゃがんでみる』。その一歩が健康への第一歩になります」
パーソナルトレーナー直伝「簡単家トレグッズ」
グッズを使って多少の負荷を加えるだけで、短時間で効果が実感しやすくなる。
●ストレッチポール
家トレの最初に身体をほぐす……そんな時に使えるアイテム。別名フォームローラー。背中を乗せてゴロゴロするだけでも血行が促進され、身体がすっきりする感覚が得られる。
●軽量ダンベル
1~2キログラム程度の軽いものから始めるのがおすすめ。両手で下げてスクワットすると負荷が増し、重心も安定しやすくなる。肩や二の腕を鍛えるために使う場合は、関節を痛めないよう正しいフォームを確認して。
●ゴムチューブ
ダンベルより安価で購入のハードルが低く、コンパクトで収納にも困らない。スクワットの際に、輪っか状のチューブを足で踏みながら肩に担ぐようにして使えば、負荷が増す。
取材・文/鷺島鈴香
消費経済アナリスト。テレビ番組で共演したバズーカ岡田氏に誘われ、パーソナルジム「スタジオバズーカ」の顧問に就任。プロテインバー開発にも携わり、健康・美容市場の動向に詳しい。
パーソナルジム「スタジオバズーカ」都立大学店トレーナー。柔道整復師の資格を持ち、身体の機能や構造を熟知した正しいフォームトレーニングを重視している。https://www.studiobazooka.com/toritsudai
