家族負担が重くなる政策を次々と

 少子高齢化社会では、社会保障費は自然に増えていく。年間で約8000億円と試算されているが、伊藤周平・鹿児島大学法科大学院教授は「安倍政権は、主に介護や医療を削り、自然増を約5000億円に抑制しています」と指摘する。

 かつて、税と社会保障の一体改革によって、年金・医療・介護の高齢者向け3経費に加えて、少子化対策の4分野に、消費税の引き上げによる増収分をあてるとしていた。

 しかし、高齢者の社会保障は下の「安倍政権の主なシニア向け政策」のとおり「改悪」されてきた。年金支給額が実質的に減らされる通称「年金カット法」が’16年に成立。介護では、特別養護老人ホームの入所条件が厳しくなり、要支援1、2は介護保険からはずされた。一方でサービス利用料は引き上げられている。家族負担が重くなる政策を次々と打ちながら、「介護離職ゼロ」を掲げるのは無理がある。

「今回の衆議院解散の理由に、全世代型の社会保障のために、消費税の使い道を大きく変えることにしたとしていますが、介護 ・医療については改善点をあげていません」(伊藤教授)

 政策の矛盾は弱い部分に集中する。このままでは、介護自殺や介護殺人が続出しかねない。

■ 安倍政権の主なシニア向け政策

【年金】
◎年金給付額の伸びを物価や賃金の上昇分よりも低く抑える「マクロ経済スライド」を初めて発動(’15年4月)
◎ 公的年金の支給額を賃金に合わせて下げるルールを盛り込んだ「年金制度改革法案」が成立(’16年12月)

【介護】
◎介護報酬を9年ぶりに2.27%引き下げ(’15年4月)
◎介護職員の賃金が平均月1万2000円上がるよう加算(’15年4月)
◎「介護離職ゼロ」の目標を表明(’15年9月)
◎’20年代初頭までに特別養護老人ホームなどの介護施設を50万人分以上、整備すると発表(’15年11月)
◎要支援1、2と認定された人の訪問・通所介護を介護保険の対象から除外、自治体へ移行(’15年4月から順次開始)
◎介護保険サービスの利用料を収入が一定以上ある人は’15年8月から、自己負担額上限の原則1割を2割に引き上げ。’18年8月からは3割に引き上げ。

取材・文/渋井哲也