現在は動画配信やSNS投稿など、デビューやプロモーションの入り口が増えて目や耳に触れやすくなった反面、アーティストの分母が増え、人々の嗜好も細分化して、「誰もが知り、誰もが好きな歌姫」が生まれにくくなりました。

「ドラマや映画も社会現象になるほどのヒット作はなく、タイアップでの大ヒットは望めない」こと、「安室さんのようなファッションを絡めたビジュアル面の流行が生まれにくい」ことなども、音楽ビジネスを難しくしています。

ゼネラリストでは歌姫になれない

 世間的な注目度が高いのは、単独ライブより多くのアーティストが集まるフェスであり、1時間のレギュラー番組より季節ごとの長時間特番。共存共栄と言えば聞こえはいいですが、実際は1組1組の収益やステータスは分散され、下がる一方という厳しさがあります。

 ビジネス的に見れば、「参入はしやすくなったが、競合は増えた」「市場規模は小さくなっているが、軌道に乗れば安定しやすい」「顧客満足に徹して稼いでいるが、できれば拡張性を見いだしたい」という状況。

 トップとニューカマーの差が少なくなっているうえに、その分布はニューカマーの近くに集中しているのです。

「ライブ以外でどう稼ぐか」「どうやってファン層を開拓するか」が課題の彼らは、映画やドラマなどの俳優、ナレーターやナビゲーターなどの声の仕事、文筆や芸術などの創作と、さまざまなジャンルに顔を出すようになっています。

 しかし、そのようなゼネラリストを目指すスタンスでは、安室さんのような国民的な歌姫になるのは難しいでしょう。

 安室さんは、「ライブでのトークをカットして歌とダンスのみで勝負」「テレビ番組には出演しない」というスタンスを貫くことでスペシャリストとしての存在価値を高めていきました。

 ネットの発達で情報があふれる世の中になり、自らSNSで発信して親近感を武器にするアーティストが多い中、「歌と踊りだけに集中する」「ファンと一定の距離感を保つ」という独自の戦略をかたくなに貫いたのです。