近年急増した「食事とがん」の研究データ

 佐藤先生がこう思うようになった背景には、がんになったお母さまの存在もあるという。

「私が高校生のころ、母親が乳がんになり、昔のことですから乳房をすべて切除しました。術後は再発の不安におびえる日々。やはり、どんな食事がいいのか気にしていました。ただ、インターネットもまだなく、周囲の人の情報などから怪しい健康食品に手を出したことも……。もしそのときに、食事に関する知識が自分に少しでもあれば、母をもっと安心させることができたかも、という思いもあります」

 佐藤先生は6~7年前からがん食事の関係を積極的に調べるようになった。すると、以前にはあまりなかった食事に関する科学的なデータが近年になって急増していることがわかったのだ。

「これまでは、食事の研究にお金を出す企業は少なく、研究そのものがあまり行われていませんでした。ですが、アメリカやヨーロッパを中心に食事が関係していると思われる大腸がんが増えているせいか、近年、食事の研究にも研究費がつくようになっていたのです」

 研究が増えたおかげで、キャベツやブロッコリーといったアブラナ科の野菜に含まれる成分にがん細胞の増殖を抑える効果が見つかったり、大豆などに含まれる成分には、がん細胞が栄養を集めるのを邪魔する効果が判明した。

「いまあるがんを消しはしませんが、がんのリスクを下げる効果のある食材が、徐々にですが、科学的に認められてきたということです」

 また2022年には、ノーベル賞を受賞したことでも話題になった免疫チェックポイント阻害薬の治療効果が腸内環境と密接に関係しているという報告が。腸は食事の影響を直接的に受けるので、ふだんの食生活によって薬の効き目が変わってくる可能性があるということだ。

「今年に入ってからも、果物や野菜、魚、オリーブオイルやナッツなどをよく食べる“地中海食”と呼ばれる食事スタイルが、がん患者の治療効果を高め、生存率をのばしたという研究結果がアメリカの科学誌で報告されています」

 佐藤先生はいまなら食事がんに関して役立つ情報を伝えられると考え、診察室で患者さんに伝えつつ、書籍やYouTubeでも積極的に発信するようになった。

「患者さんからは『大半のがんの医者は食事の大切さを教えてくれないので助かります』といった声をいただいています。なかにはSNSで『トンデモ医者がまたいい加減なこと言ってる』といった批判的なコメントをもらうこともありますが、がん患者さんの日々の暮らしの役に少しでも立てたらと思い、これからも情報を発信していきたいと考えています」

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【写真】「リスクが20%高くなる」「1日に1個までにするのが賢明」がんになりやすくなる食材とは?
佐藤典宏先生 がん専門医。産業医科大学第1外科講師。九州大学医学部卒。2001年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部に留学し、多くの研究論文を発表。1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。YouTube「がん情報チャンネル」の登録者数12.9万人。著書に『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)など。