がんのサブタイプが治療の有力な情報に

 乳がんの治療は、非浸潤がんを除き、ほとんどの場合、「切って(手術して)終わり」にはなりません。再発予防の治療を継続して受ける必要があります。また、発見時の病期によっては、薬物治療(抗がん剤など)を優先し、病巣を小さくしてから、手術をする場合もあります。

 術前・術後の薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的治療)の選択については、今までも「ホルモン受容体」が陽性か、「HER2」が陽性かなどで検討し、治療されていましたが、近年、「サブタイプ分類」という考え方が定着してきました。

 サブタイプ分類は、がん細胞の「性質」で分類する考え方で、遺伝子解析によって提唱されています。遺伝子検査は費用も高額で、実用はまだ難しく、実際は生検や手術で採取されたがん細胞を、免疫染色で調べることで、どのタイプに分類されるかを判定しています(下図を参照)。

 患者さんのサブタイプがわかることで、医師は効果的な治療を提案できるのです。

乳房を失ってもきれいに再建できる

 乳がんの治療現場では、高い温存率からきれいな『乳房再建』へと大きく流れが変わっています。乳房再建には「一次再建」と「二次再建」があり、がんを切除する手術と同時に行うのが「一次再建(同時再建)」。手術や放射線治療、抗がん剤による薬物療法が終わり、治療の全容がわかってから1~3年後ぐらいで患者さんの希望する時期に行うものが「二次再建」です。

 乳房再建には、患者さん自身のおなかや背中などから採取した組織(自家組織)を使う方法や、シリコンやインプラントなどの人工物を用いる方法があります。従来は自家移植の場合にのみ公的医療保険が適用されていましたが、現在では、インプラントなどの人工物を使う場合にも、保険が適用となっています。

《プロフィール》

◎木下貴之先生
国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長。慶應義塾大学医学部卒。米国テネシー大学留学、国立病院東京医療センターなどを経て現職。診断から治療まで、患者の気持ちに丁寧に寄り添うことで定評がある。