現場には条文を理解していない警察官もいる

 さらに、ストーカー事件のたびに耳にする「警察に相談したが、何も対応してくれなかった」ことにも、紀藤弁護士は厳しく注文する。

「なぜストーカー規制法の運用がうまくいかないか。それは現場の警察官の質の問題が大きい。そもそも警察という組織の問題でもある。警察官の定着率は低く、毎年が、大量採用・中途退官の連続。そのため現場には、条文をしっかりと理解していない警察官もいる。だからこそ、現場の警察官への研修の徹底が必要です。警察によっては、過去にネットに誹謗中傷を書かれたことで相手を摘発したケースはいくらでもあるのです」

 小早川理事長が経験した過去の事例では、ストーカー被害者の友人も出入りする加害者本人のSNS上に、被害者への中傷を書いた場合でも、警察が加害者に警告を出してくれた事例があったという。

「知り合いをおびき寄せ、名誉を害する内容を見られる状態にしたとみなしてくれました。このように、ひとりひとりの警察官が被害者を守るためにギリギリの努力をしてくれることを期待します」

 と小早川理事長。

今後は姿の見えない、人間関係のないストーカーが爆発的に増える

 2014年くらいまでは、リアルな人間関係が背景にあったというストーカー事件。相談に乗れば“謝ってほしい”“許せない”“会いたい”という言葉を聞いたという。

「そこに私たちカウンセラーが介入できた。ですが、SNSは人間が予期しない影響を与えるものです。被害者と加害者の距離が一気に短くなり、相手に接近したい欲求が暴走する。このスピードの速さはカウンセラーの介入の余地を残さない。今後は姿の見えない、人間関係のないストーカーが爆発的に増えると思うんです」

 規制が強化されても、また新たなストーカーが生まれ、次に対策を打ち出す……といういたちごっこ。いつ自分が巻き込まれるかわからない恐怖─。“ストーカーという病”に特効薬はなさそうだ。