「この道しかない」

 昨年末の解散総選挙で安倍首相はこのフレーズを連呼した。アベノミクスではなく、実は憲法改正をゴールに据えた"この道"であったと、憲法問題に詳しい伊藤真弁護士は分析する。

「もともと安倍首相には、憲法を改正したい、日本の安全保障政策を変えたいという思いがあります。集団的自衛権を容認して軍隊創設、日米軍事同盟を対等な形で強化して、アメリカの期待にこたえたい。日本を一流の国として認めてもらいたい。それには経済的な貢献だけじゃダメ。"軍事同盟は血の同盟"というのが彼の持論ですから、日本が軍事力による国際貢献ができる強い国にならなければいけないと、かねてから考えていたんですね」

 戦争ができる国に変えたければ、憲法改正の手続きを踏むのが本筋だろう。

「安倍内閣が今、やっているのは真逆の順番。まず解釈の変更を昨年7月に閣議決定して、『日米ガイドライン』の改定を5月に行い、アメリカと合意をしてきました。それに合わせて今回、安保法制を作ろうとしている。さらに最後の仕上げとして、憲法を改正しましょうという流れです」

 憲法違反の法律を先に作り、あとでそれに合わせて憲法を変えてしまう。戦争ができる国にするため「法の下剋上」(伊藤弁護士)を起こしたというわけだ。

「12年4月27日に、自民党は憲法改正草案というものを発表しています。その内容は、個人の尊重の否定など今の憲法が様変わりしてしまうものです。その中から戦争に関するところだけ抜き出してみると、国民に国防義務を課す、軍隊を創設する、集団的自衛権はもちろん行使できるようにすると書いてあります」

 "改憲のXデー"を具体的に見通すのは、東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんだ。

「昨年末のアベノミクス解散により、残り2年で解散予定だった衆議院の寿命を4年に延ばした。来年7月の参議院選挙では、憲法96条が定める改憲要件の衆参両院3分の2議席を取る。改憲の発議をもって国民の承認を得る作業を17年の通常国会の間に行う。いきなり9条の改定はハードルが高いから、いわゆる『お試し改憲』と安倍さんの側近が言っているような、とっつきやすいところから着手する。環境権、財政規律条項、緊急事態条項の3本立て。これがうまくいけば衆議院の任期の最後にあたる18年、通常国会でいよいよ憲法9条の改正をする。それが安倍首相の描くスケジュールです」

 首相にとって、安全保障法制を出すタイミングは今しかなかった。

「だから遮二無二突き進んで、野党からいろんなことを聞かれても同じことを繰り返し答えるだけで、まともな議論に応じない。アラが見えちゃうから。最後は衆議院3分の2をとった勢いで強行採決というのが、首相のテクニック」

 安保法制が成立したら、どんな未来が待ち受けているのか。伊藤弁護士によると、国内外を問わずテロの脅威にさらされ、膨れ上がる軍事費を補うため社会保障費はさらにカット。

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「徴兵制も考えられます。リーダーシップを育むトレーニングとか、訓練ができるサマーキャンプとか、そんなネーミングで人を集める実質的徴兵制のような形をとるでしょうね。そうして国防意識を植えつけていくのだと思います」

 元自衛官で軍事ジャーナリストの神浦元彰さんは、

「ブルドーザーを運転できるとか、外国語をしゃべれるとか、何か特技や技術を持っている人をあらかじめリストアップしておいて、ピンポイントで狙う選抜徴兵制が考えられます」

 戦後70年にして迎えた大きな岐路。この先、どんな道を進むのか。ひとえに私たちにかかっている。