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 食べ物が気管に入ってむせる、急に咳き込む、かたいものが噛みにくい、滑舌が悪く話しづらい。これらの症状に思い当たったら、口が衰えている証拠。

口の衰えで老化が加速する!

「ささいな症状なので見過ごされがちですが、口の衰えを放置すると全身のフレイル(衰弱)や誤嚥性肺炎、糖尿病、動脈硬化、心筋梗塞、うつなどのリスクを高め、4年後の死亡リスクは2倍以上に高まります」

 と話すのは、高齢者の口腔環境に詳しい歯科口腔外科医の平野浩彦先生。

「呼吸や発話、飲み込むなどの動作は、口や喉の筋肉の働きが重要です。しかし加齢で口が衰えると、うまく働かなくなるのです」

 その結果、呼吸・発話・食べるといった動作がしづらくなる。

「これを見過ごして何も対策をせずにいると、むせて誤嚥性肺炎につながるのはもちろん、唾液も減るので口が渇き、悪玉菌が増えて歯周病が多発します。

 さらに、口に増えた悪玉菌が歯ぐきから侵入して動脈硬化を進め、糖尿病、心臓病のリスクまで高めてしまうのです」(平野先生、以下同)

 歯科学会でこうした口の衰えはオーラルフレイルと呼ばれ、注目を集めてきた。

「千葉県柏市に住む65歳以上の高齢者を対象に4年間行った『柏スタディ』という大規模調査では、オーラルフレイルが寿命に直結することがわかっています」

 この調査によれば、口の衰えを放置すると、4年後に要介護に陥るリスクは2.4倍、総死亡リスクは2.1倍、全身のフレイルは2.4倍ほどになるとのこと。

「逆に、口や喉の筋肉が発達していれば、要介護や死亡リスクを半減できるということです。早く老ける人といつまでも元気な人の違いは、口の筋力にあるのです。いまのうちからトレーニングをして筋肉をつけておきましょう」

藤井 恵さん(仮名・83歳)「長生きうがいで、食欲回復」

 大好きなおせんべいも食べられるように。

大好きなおせんべいも食べられるように

 歯周病治療で平野先生の病院に訪れた藤井さんは、噛む力や噛み合わせの力が低下して大好きなおせんべいが食べられないと残念がり、気力がなくなっていた。

 そこで平野先生の指導により、食後の3度のうがいを「長生きうがい」にかえたところ、約3か月後には口腔機能が改善され、食欲が回復。

 体重も増えて、薄いおせんべいが食べられるまでに回復。元気を取り戻すことができた。

風邪や感染症の予防にも

 そこでおすすめなのが、平野先生も実践している「長生きうがい」。いつものうがいを少しパワーアップするだけの簡単なトレーニングで、口や喉の衰えを予防、改善できる。

 長生きうがいは、「お口筋トレうがい」と「喉トレうがい」の2つがある。

「まずは唇まわりの口輪筋や頬の筋肉が鍛えられる、お口筋トレうがいから実践してみましょう。食べ物がこぼれにくくなり、舌の筋肉も刺激できるため、むせや咳き込みの予防・改善に最適。また表情筋も鍛えられて顔のたるみ改善効果も期待できます」

 方法は、水を口に含んでカチカチと5回噛み、左右の頬に水を素早く10秒間往復、さらに前後に10秒間往復させて水を吐き出すだけ。

「1日3回程度で1〜2週間後には効果が表れるはずです。病院に来てくれた患者さんにもやってもらっていますが、みなさん半月ほどで『口が渇きづらくなった』『食べ物を飲み込みやすくなった』とおっしゃっています」

 喉トレうがいは、少し難易度が上がるが、飲み込みの動作をするときに使う声帯筋や喉頭筋を直接鍛えられるので、誤嚥性肺炎の予防に有効。お口筋トレうがいに慣れたら挑戦してみよう。

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健康寿命を延ばす長生きうがい

「長生きうがいは普通のうがいよりも感染症対策への効果も期待できます。口の中の水にしっかり勢いをつけるので、粘膜に付着した菌やウイルスを流しやすいのです。私自身、長生きうがいを始めてからほとんど風邪をひかなくなりました」

 マスクの着用が個人の判断に任されることになり、新型コロナウイルスの感染が不安ないまにうってつけ。さらに、うつ病や認知症の対策にもつながる。

「話しづらくなって会話が減ると脳への刺激が激減し、うつや認知症も発症しやすくなります。口の渇きが気になって、少しでも話すのがおっくうと感じ始めた人は早急にトレーニングを始めてください」

 今のところ症状はないし、自分には関係ないと思っても、口の老化は40代から始まっているため、気づかぬうちにオーラルフレイルが進行しているケースも多い。さらに、コロナ禍での会話不足で悪化した人も少なくない。

「症状がある人は改善が期待できますし、症状がなくても早いうちから長生きうがいでオーラルフレイルを予防すれば、健康寿命を延ばすことにつながります」

新習慣「長生きうがい」3ステップ

1. 水を噛む

 大さじ2杯(30ml)程度の水を口に含み、唇を閉じて、せんべいをかじるイメージで水を5回カチカチと噛む。

ステップ1「水を噛む」

2. 頬を片側ずつ交互に膨らませる

 右頬を大きく膨らませて、水を右側に移動させる。左頬を大きく膨らませて、水を左側に素早く移動。

《POINT》左右の頬の筋肉を意識するのがポイント

ステップ2「頬を片側ずつ交互に膨らませる」

3. 両頬を膨らませたり、すぼめたりする

 口を大きく膨らませて、口の前側に水を移動させる。口をすぼめて、水を後ろ側(喉側)に移動させる。

《POINT》頬と唇の筋肉を意識!

ステップ3「両頬を膨らませたり、すぼめたりする」

〜水を吐き出してフィニッシュ〜

喉トレもプラスで効果アップ
(1)まで同じ。水を5回噛んだら口を閉じたまま軽く上を向き、喉に水をためる。口を少し開けて、喉を震わせながらガラガラと音を立てて10秒間うがいをする。
 60〜70代の人は頸椎を痛める可能性があるため、上を向きすぎないように注意。

教えてくれたのは……平野浩彦先生●東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長・研究所研究部長。医学博士、歯科医師で、高齢者歯科分野のスペシャリスト。著書に『のどを鍛える長生きうがい』(文響社)。