寝起きの痛み ※画像はイメージです

「日本の中高年の女性は痛みを我慢しがちな人が多い印象です。でも我慢強いのは決して良いことではありません。もっと痛がってくれれば発見が早かったのに、というケースはあります」

 そう語るのは、痛みの専門医、河合隆志先生だ。

「寝起きの痛み」でわかる病気

「痛みの中でも、特に朝、痛みが出ることで代表的なものが“関節リウマチ”と、“冠攣縮(かんれんしゅく)性狭心症”です」

 まず1つ目の関節リウマチとはいったいどのような病気だろう?

「起きてから30分以内に痛みが出ることが知られています。特徴的な症状が、ゴワゴワした指のこわばり。指先のちょっとした動作に違和感が出ます。ただ、日中や夜などには症状が落ち着きます。

 関節リウマチと同様に、朝、手の痺れが出る病気が“手根管症候群”。どちらも更年期以降、中高年の女性に多い病気です。妊婦の方などにも出やすいので、女性ホルモンの分泌変化が関連しているといわれています」

手首の痛み ※画像はイメージです

 関節リウマチは、関節の中にある滑膜(かつまく)に炎症が起きて腫れや痛みが起こり、放置することで手が変形することもあるという。

「自己免疫疾患といって、膠原病(こうげんびょう)の一種です。10何年前までは難治性の病気だと思われていましたが、最近は著しく治療が進化して、指の変形もなければ痛みも出ないようにすることが可能になりました。

 早期発見すれば、かなり寛解に近い状態まで持っていけるため、異変を感じたら早めの受診が肝心です」

 一方、冠攣縮性狭心症は注意が必要な危険な病気だという。

「これは、冠動脈の血管の筋肉が痙攣(けいれん)し、血流が低下することで起こる狭心症の一種です。夜中から早朝に起こりやすく、特に明け方に痛みを生じる安静時胸痛が特徴。ほかにも、ストレスを感じた時や喫煙、飲酒時にも起こりやすいといわれています」

 具体的にはどんな痛みを感じるのだろうか。

「胸のあたりが締めつけられるような激しい痛みで、“狭心痛”と呼ばれています。ケガのような痛みではなくて、発作的に来ます。胸が締めつけられるような感じや胸部圧迫感、吐き気を感じることも。基本的に胸痛が起こったら要注意です」

 冠攣縮は、狭心症の6割に関与しているといわれるうえ、心筋梗塞や、突然死の原因ともなる。朝の痛みで最も危険なのが胸の痛みだと覚えておこう。

胸の痛みには要注意! ※画像はイメージです

更年期はホルモンの変化で痛みが出やすい

 更年期にさしかかると、身体のあちこちに痛みを感じることが増える。痛みで朝起きるのが憂鬱(ゆううつ)な人もいる。

「痛みの閾値(いきち)、つまり痛みの感じ方は人それぞれです。そのため、ペインクリニックでは、痛みの強さ(10段階)、痛みの性質(チクチク、ズキンズキンなど)、日常生活支障度、生活の質の4つの指標で痛みを評価します。

 更年期になると女性ホルモンのエストロゲンが減ってきます。すると、痛みの閾値が下がる傾向にあります。それで節々の痛みをより強く感じてしまうことがあるのです」

 更年期は痛みにも弱くなりやすい、というのは驚きだ。また、中高年は起き抜けに膝や腰に痛みを感じることも多い。

「患者さんの話を伺うと、“朝の動き始めが特に痛い”と訴える方が多い。

 膝の場合は、“変形性膝関節症”の可能性があります。これも女性に多く見られる疾患で、年齢とともに膝の軟骨がすり減ったことから生じる痛みです。

 腰は、椎間板や骨の変形により腰痛・座骨神経痛が起こる“変形性腰椎(ようつい)症”が疑われます。わかりやすく言うと腰の老化ですね。典型的な椎間板ヘルニアは、時間帯を問わず動いたら常に痛い。

 一方、変形性腰椎症はいつでも痛いけれど、朝の動き始めが一番こたえるといわれています。これは“スターティングペイン”といって、歩き出す1歩目や何か行動する最初に感じる痛みのことです」

 スターティングペインは、動き始めてしばらくたつと軽減するため、「喉元過ぎれば」で治療に踏み出さないままになってしまう人も。

腰の痛み※画像はイメージです

まじめな人ほど慢性痛になりやすい

「痛みは早期発見が大切です。私は慢性痛が専門なので、中には20年ものの腰痛を持つ患者さんもいますが、早めに対処することで一生ものの慢性痛になることを防げたはずです。

 例えばリウマチだったら、血液中にリウマチを確認できるバイオマーカーがあります。一方、似た症状の線維筋痛症はそれがない。診断が早ければ、それぞれの病気に適した治療ができます。

 50歳以上の方は、帯状疱疹の後遺症である帯状疱疹後神経痛に長期、悩まされる方もいますが、これも早期対処で防げます」

 慢性痛になってしまう人にはまじめで頑張り屋さんが多い印象、と河合先生。痛みが慢性的になれば、生活の質や人生の幸福度も下げてしまう。異変を感じたら、まずは何科を受診すればいいのだろう。

「運動器と言って、運動にかかわる場所は整形外科へ。首から下で動く部分の痛みは整形外科です。お腹の痛みは内科や消化器内科。

 胸、胸部は、内科でも呼吸器内科か循環器内科。痛みプラス何か特有の症状がある場合、背中が痛くて、尿に血が混じる、それなら泌尿器科。

 腰が痛いなら整形外科。腰の痛みがいつも月経の時なら婦人科へ。痛みプラス、特有の兆候がある場合は兆候の出ている科の受診がおすすめです」

 痛みの感じ方は人それぞれ。その痛みでどれだけ生活の質が落ちているか、日常生活が困難になっているか。しっかり診療を受けて、痛みゼロの状態に近づけたい。

「安静時から動き始める朝は、自分の身体の変化に気がつきやすい時間帯です。例えば、50代以降の女性に多い三叉(さんさ)神経痛は、頬や鼻など顔に痛みが生じます。そのため朝の洗顔や歯磨きの時などに、気づきやすい。メンテナンスの気持ちで、身体の痛みに耳を傾けることが大事ですね」

※画像はイメージです

朝に痛みが出る主な病気

関節リウマチ

 免疫の異常により関節に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる病気。進行すると、関節の変形や機能障害を来す。原因は不明。関節症状に加え、貧血や微熱、全身倦怠(けんたい)感などの全身症状を合併することもある。

冠攣縮性狭心症

 冠動脈の収縮により血流が低下し、心筋への血液供給が減少することによって生じる狭心症のこと。長時間、攣縮が続いて冠動脈が閉塞すると、心筋梗塞を併発するおそれがある。危険因子は、喫煙、アルコール、ストレス、寒冷気候など。

変形性腰椎症

 腰椎の加齢変化によって腰痛などの症状が出るものの総称。変形が進行すると、脊柱管狭窄(きょうさく)症、変性すべり症などになる。女性は更年期障害の一環として起き、循環障害や骨粗鬆(こつそしょう)症を伴うことが多い。

※症状には個人差があります。気になる場合は自己判断はせず医師の診断を受けましょう

河合隆志先生●医学博士。日本整形外科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。愛知医科大学学際的痛みセンター勤務後、米国ペインマネジメント&アンチエイジングセンターなどで研修。2016年、フェリシティークリニック名古屋を開設。
教えてくれたのは……河合隆志先生●医学博士。日本整形外科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。愛知医科大学学際的痛みセンター勤務後、米国ペインマネジメント&アンチエイジングセンターなどで研修。2016年、フェリシティークリニック名古屋を開設。

(取材・文/ガンガーラ田津美)

 

頸椎、胸椎、腰椎ってどこ? ※薄いグレー色の部分が頸椎、白色部分が胸椎、濃いグレー色部分が腰椎です

 

頻度の高さではトップとなるのが腰椎や背骨の骨折。転倒による衝撃だけでなく、荷物を持ち上げるなどのちょっとした動作で折れてしまったり、圧迫骨折など気づかないうちに骨折していることも。ほかの部位でも次々と骨折の連鎖が起こやすく、命にも関わることに。 出典:骨粗しょう症の予防と治療ガイドラインより

 

河合隆志先生●医学博士。日本整形外科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。愛知医科大学学際的痛みセンター勤務後、米国ペインマネジメント&アンチエイジングセンターなどで研修。2016年、フェリシティークリニック名古屋を開設。