
「中高年の多くは圧倒的に栄養が不足しています。栄養不足は筋力の低下や認知機能の衰えといった老化を招き、ヨボヨボまっしぐらになってしまいます」
そう警鐘を鳴らすのは高齢者専門の精神科医である和田秀樹先生。
健康への意識が招く低栄養の食習慣
「栄養不足には2つの理由があります。1つは年齢とともに消化力が落ちて食事量が減ること。もう1つは“健康のためにこれは食べる、数値が悪くなるからこれは食べない”と健康を追い求めるがゆえの偏食です」
低栄養になると、特に中高年以降はタンパク質と脂質が不足しがちになる。
「タンパク質が多く含まれる肉などは消化に負担がかかるため、野菜などを中心にした食生活にシフトしがち。タンパク質は筋肉をつくる大切な栄養なので、不足すると足腰が弱くなり、畳みかけるように老化がはじまります」
脂質については、コレステロール値を気にして摂取量を抑える傾向がみられる。
「コレステロール値が、基準値に近いほうが健康であると考えるのは大きな間違いです。というのも、これらはアメリカの研究結果を基準にした数値で、日本人においては、コレステロール値は高齢になれば基準値よりも“高い”くらいのほうが、がんなど、病気になりにくいんです」
コレステロールは免疫細胞の材料でもあり、極端に避けると免疫機能が低下し、感染症や病気のリスクも高まる。
「一時、このコレステロール値が上がるから牛乳は危険といった風潮がありましたが、これは間違った認識です。これほどバランスよく栄養が摂取できる食材はほかにありませんし、牛乳は薬だった時代があるんですよ!夏に飲むメリットも大きいですから積極的にとりましょう」
また日本人の“痩せ願望”も栄養不足に拍車をかける。
「疫学調査や統計調査では、BMI25前後の人が長生きをしているという結果が出ています。ところが、日本ではBMI25以上だとメタボ健診の指導対象になるため、痩せたい一心で食事の量を控えてしまう。
世界の国々の摂取カロリーを比較した場合、日本よりも少ない国は北朝鮮とウガンダだけという深刻な状況なんです」
健康をつくるのは薬よりも牛乳生活
和田先生は、「元気で長生きするためには、漠然と健康への不安を抱えるよりも、栄養状態を上げるほうが建設的」だと話す。
「不足しがちなタンパク質をしっかりととれていれば、肌や髪は若々しく、血管や筋肉は強くなって老けにくくなります。血管が丈夫なら脳出血などのリスクも減り、筋肉があれば加齢に伴う筋力の低下を防止できます。さらに自分の足で出歩くことは脳の活性化にもつながり、認知症も予防できます」
低栄養の克服に活用したいのが「牛乳」だ。
「日本は長い間、長寿国として世界中から注目されています。長寿を支えるのは昔からの食事スタイルである粗食とされていますが、実はこの考え方は間違いです。日本が長寿国になれた大きな理由は栄養状態の改善。
戦後の学校給食で牛乳を原料とする脱脂粉乳が提供されるなど、牛乳や肉類を多く食べるようになったことこそが長寿の大きな要因なんです」
牛乳は圧倒的に不足しているタンパク質をとりやすい食品でもある。
「胃腸が弱い人でも、体調が悪く食欲がないときでも、牛乳を飲めば手軽にタンパク質を補給することができます。一度に200mlを1日3回飲んでもらえれば、タンパク質をはじめとする栄養を摂取することができます。
牛乳自体が苦手な人は、アーモンドミルクやオーツミルクなどでもかまいません」

牛乳でお腹の調子を崩してしまう人には乳製品がおすすめだという。
「牛乳を飲んでお腹がゴロゴロするのは病気ではなく、乳糖不耐症が原因です。乳糖不耐症の方はヨーグルトなどの乳製品で栄養を補給してください」
必要な栄養をとるためには、牛乳と乳製品を併用することも大切だ。
「牛乳にいちごやバナナを混ぜたフルーツ牛乳でもいいですし、牛乳の代わりにアイスクリームやヨーグルト、チーズ、生クリームといった乳製品をとるのもいいでしょう」
牛乳を飲む際にはひとつだけ注意したいことがある。
「低脂肪牛乳では脂質を十分に補給できず、せっかく牛乳を飲んでも低栄養の状態を改善できないことになります。牛乳は脂肪分が入っている無調整の牛乳を飲むようにしてください」
牛乳の8大効果
(1)骨や歯を丈夫にする
骨や歯は新陳代謝によって分解と再生を繰り返して強くなるが、その際に必要なカルシウムが豊富に含まれている。骨粗しょう症になりやすい更年期の女性の強い味方でもある。
(2)筋肉をつくる
筋肉の材料となる2種類のタンパク質が豊富に含まれている。タンパク質が多い食品をとることで筋肉の成長と補修を促し、筋肉量の低下を防止することが可能に。
(3)腸内環境を整える
牛乳に含まれる乳糖は腸内の善玉菌のエサとなり、善玉菌が増えると悪玉菌の増殖が抑制され腸内環境が整う。その結果、栄養の吸収率がよくなり身体はより健康に。
(4)血圧を調整する
ミネラルの一種であるカリウムがナトリウムの排出を促すことで血圧を調整する。また、コレステロールの働きによって血管が強くなり、血管の収縮を防ぎ血流がスムーズに。
(5)ストレスを緩和
ストレスを軽減する神経伝達物質のひとつである「セロトニン」の材料・トリプトファンが神経の働きを正常化する。不安や緊張をやわらげストレスを軽減し、気分の安定をサポート。
(6)睡眠の質を高める
牛乳に含まれる必須アミノ酸の一種・トリプトファンはセロトニンの材料に。セロトニンが生成された14~16時間後に眠りをもたらすホルモン「メラトニン」がつくられる。
(7)食べすぎ防止
牛乳に含まれるタンパク質の一種・カゼインは消化・吸収がゆっくりなため、摂取すると長時間、満腹感が続くという特徴があり、食べすぎ防止に役立つ。
(8)美肌効果
エネルギー代謝に必要なビタミンB2とビタミンB12によって肌のターンオーバーが促進される。正常なターンオーバーが健康な皮膚をつくり、シミやくすみを防ぐ。
意外なおいしさ!牛乳サイダー
和田先生の夏のおすすめは、炭酸水やサイダーと牛乳を1:1で割る飲み方。炭酸のシュワシュワッとした感じと牛乳の組み合わせは意外と新鮮。「夏に牛乳はまったりしていて重たい」と感じる人でもとても飲みやすく、口の中に清涼感が広がります。無糖の炭酸水でも、少し甘みのあるサイダーでもよく合います。味変を楽しんで飲みましょう。

夏バテにも牛乳が効く
暑さで脱水状態になると、ナトリウムやカリウム、マグネシウムといった電解質が失われ、疲労感が続いたり血圧の急激な変動が起こるなど、身体に大きな負担がかかる。脱水症状の対策として大切なのは水分と電解質を同時に補うこと。電解質が含まれている牛乳は夏バテ対策にも有効だ。
1日3食、牛乳ちょい足し「お手軽ミルクレシピ」
年齢とともに食事の量が減っていき、栄養不足が気になる人は特に、牛乳をちょこちょこ取り入れた食生活を心がけることが大切。そのためには朝・昼・夜と、献立の材料やおやつに積極的に牛乳を使って、摂取量を増やしてみて。
【朝】バナナレモンダブルミルク
タンパク質合成に必須なビタミンB6、さらにマグネシウムもIN!

材料(1人分)
・バナナ…1本
・無調整豆乳…50ml
・牛乳…150ml
・レモン汁…大さじ1
・はちみつ…大さじ1
【作り方】
(1)バナナは皮をむいてひと口大に切り、材料すべてと一緒にミキサーに入れて攪拌する。
(2)グラスに注ぎ、好みでシナモンパウダーを振る。
【昼】食パンチーズキッシュ
卵やツナ、野菜なども一緒にとってアクティブに活動できる身体に!

材料(1人分)
・食パン(5枚切り)…1枚
・ほうれん草…1/4束
・ツナ水煮缶…小1缶(70g)
・卵…1個
・牛乳…50ml
A〔ホールコーン…大さじ1、ピザ用チーズ…20g〕
・塩、こしょう…各少々
・調理油…適量
【作り方】
(1)食パンは耳から1cmくらい内側に四角く切り目を入れ、切り込みを入れた中央の部分を、底を抜かないようにはがし取る。あいた中央の部分は押さえてつぶし、箱形を作る。
(2)ほうれん草はサッとゆでて2〜3cm長さに切り、水けをしっかりと絞る。ツナの缶汁をきる。
(3)ボウルに卵を割りほぐし、牛乳と(1)のはがしたパンをちぎり入れ、(2)、Aを加えて混ぜる。塩、こしょうで味を調える。
(4)トースターの天板にホイルを敷いて薄く油を塗り広げ、その上に(1)をのせ、(3)を注ぎ入れて、ホイルをかぶせる。オーブントースターで20分焼き、ホイルを取ってさらに10分程度、焼き色がつくまで焼く。
【夜】ミルク炊き込みご飯
牛乳&シーフードが疲労回復に効果的エネルギー不足も解消!

材料(4人分/作りやすい量)
・精白米…2合
・シーフードミックス(冷凍)…150g
・玉ねぎ…1/2個
・しいたけ…4個
・にんじん…80g
・油揚げ…1枚
・バター…10g
・小ねぎ…4本
・水…150ml
A〔おろししょうが…小さじ1、酒…大さじ1、牛乳…200ml、しょうゆ…小さじ2、みりん…小さじ1、塩…小さじ1/3、こしょう…少々〕
【作り方】
(1)米は洗って炊飯器の内釜に水と入れておく。
(2)シーフードミックスは半解凍して水けをきり、余分な水分をふき取る。
(3)玉ねぎは横半分に切って薄切り、しいたけは薄切り、にんじんは細切り、油揚げは縦半分に切ってから細切りにする。
(4)(1)にAを入れて軽く混ぜたら、(2)と(3)をのせて広げ、バターを散らして炊飯する。炊き上がったら小口切りにした小ねぎを加えて、さっくりと混ぜて器に盛る。
朝・昼・夜でそれぞれ違う目的別の摂取タイミング
牛乳は摂取する時間帯で身体への効能も変わるというから驚き!朝・昼・夜、それぞれのメリットをしっかり理解して、効果的な飲みグセをつけよう。
朝牛乳:睡眠の質が上がる
牛乳を飲むとトリプトファンが体内に取り込まれる。これが「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンを分泌させ、そして睡眠に不可欠なメラトニンに変換される。睡眠に入る14~16時間前など、時間を逆算して朝牛乳を飲むと、深い眠りにつけるようになる。
昼牛乳:活発に動ける身体をつくる
牛乳に含まれるタンパク質には「分岐鎖アミノ酸」といって筋肉の成長に必要なものが多く含まれており、筋肉のエネルギー源となる。中高年にとっては筋力低下の予防や疲労回復にも有効。
夜牛乳:加齢でもろくなりがちな骨を補強する
牛乳のカルシウム吸収率は小魚などより高く、また吸収に最適な時間は睡眠中。つまり夜牛乳を飲むことが骨の強化につながる。
【朝】ザクザクいちごのダブルミルクドリンク
抗酸化作用が豊富なアーモンドミルクとビタミンCもたっぷりな美肌ドリンク

材料(1人分)
・いちご(冷凍でもOK)…5粒
・てんさい糖…大さじ1
・アーモンドミルク(砂糖不使用)…50~100ml
・牛乳…100ml
【作り方】
(1)グラスに5mm角にしたいちご、てんさい糖を入れて混ぜる。
(2)アーモンドミルク、牛乳を混ぜて、(1)にそっと注ぎ入れ、好みでいちごを飾る。
【昼】ミルクセーキ
おやつにもぴったりな手作りプロテインドリンク

材料(1人分)
・牛乳…150ml
・卵…1個
・きび砂糖…大さじ1
・バニラエッセンス…少々
【作り方】
(1)ミキサーに牛乳、卵、砂糖、バニラエッセンスを入れて、なめらかになるまで攪拌する(ミキサーがない場合は、ボウルに砂糖と卵を入れて泡立て器で混ぜ、牛乳を少しずつ加えて溶きのばす。最後にバニラエッセンスをたらす)。
(2)茶こしでこしながらグラスに注ぐ。
【夜】鶏胸肉のトマトクリーム煮
冷えた内臓を温めて抗酸化成分がしっかり吸収できる老化防止スープ

材料(4人分)
・鶏胸肉…1枚(200g)
・塩こうじ…大さじ1
・こしょう…少々
・小麦粉…大さじ1と1/2
・玉ねぎ…1/2個
・かぼちゃ…60g
・キャベツ…2~3枚
・オリーブ油…大さじ1/2
・水…100ml
A〔トマト水煮缶(ダイスカット)…100~150g、牛乳…200ml、コンソメスープの素…小さじ1/2、塩こうじ・砂糖…各小さじ1、こしょう…少々〕
【作り方】
(1)鶏肉はひと口大に切り、塩こうじをもみ込んで、こしょうを振ったら小麦粉をまぶす。玉ねぎは薄切りに、かぼちゃはひと口大に、キャベツは3cmほどのざく切りにする。
(2)フライパンにオリーブ油を熱し、鶏肉を焼く。焼き色がついたら端に寄せて、あいたところに玉ねぎを入れてサッと炒める。
(3)かぼちゃと水を加えてふたをして、5分ほど煮る。
(4)Aとキャベツを加え、時々かき混ぜながら、材料に火が通るまでさらに5~6分煮る。

教えてくれたのは……和田秀樹先生●精神科医。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、「和田秀樹こころと体のクリニック」院長。『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)など著書多数。
料理レシピ監修/金丸絵里加 撮影/難波雄史(『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』より) 取材・文/熊谷あづさ