中村雅俊らが出演する映画『五十年目の俺たちの旅』が中年層以上を中心に反響を呼んでいる。中村をはじめ、田中健、秋野太作、岡田奈々という主要メンバー4人の平均年齢が74歳のこの映画が、公開1週目で福山雅治主演の『ラストマン』、天海祐希主演の『緊急取調室』やロングランの『国宝』『鬼滅の刃』など並みいる話題作の中で、全国動員数7位にランクインしたのだ(興行通信社調べ)。
映画『五十年目の俺たちの旅』に大人たちが感動する理由
なぜ大人たちは、シニア映画ともいえるこの作品に感動して涙するのだろう?
始まりは50年前(1975~76年)に放送していた連続ドラマだった。中村が歌う主題歌『俺たちの旅』が大ヒットし、Gパンに下駄履き姿で歩く中村のスタイルを真似する若者たちが続出するなど、熱狂的な支持を得た。
主な舞台は吉祥寺。中村と田中の役は大学4年生で、どうにか就職するものの会社員生活に馴染めず、中村が開業した便利屋「なんとかする会社」に、田中と先輩役の秋野も合流する。岡田は田中の妹で中村に好意を抱く役で出演していた。
筋立てを聞くと、軽妙で痛快なドラマを想像するし、確かに笑えるシーンも多かったが、主人公たちが信頼していた人物に裏切られたり、利己主義の世の中で切り捨てられていく人々を描いたりと、考えさせられる内容も多く、ゲスト俳優も植木等、桃井かおり、竹下景子らと豪華で、非常に見応えがあった。
中でも筆者の印象に残っているのは、秋野の兄でエリート商社マン役の中尾彬が、人を自分の出世に利用しようとするが、最終的には自分が辺境の地に左遷され、妻にも愛想を尽かされてしまうアイロニカルな物語だ。10年、20年、30年後に放送したスペシャルドラマもそれぞれ話題を呼んだ。
そして50年後の劇場版は、中村の死んだ恋人・洋子(金沢碧)の影がちらつき、意外にもミステリー仕立てで始まる。
洋子は中村の役に一途に想いを寄せ、献身的に就職の世話なども焼いてやるが、まだ一人に縛られたくない中村を諦め、連ドラの最後で海外に旅立った。その後もふたりの人生は何度か交錯するが、30年後のスペシャルでは既に洋子は死亡していた。
だが、洋子の謎とともに進む50年目の物語のテーマは「人生の最後に本当にしたいことは何か」。
自由を選んだ主人公たち
50年前に社会に縛られるのを嫌い、自由を選んだ主人公たちだったが、年を重ねるに連れ、否応なく社会や家族に縛られ、自由を失っていた。そんな彼らが最後に望むものとは? 観る人によっては男の身勝手に映るかもしれないが、そのメッセージが響く人も多いだろう。
さらに50年前の連ドラを観ていた人が、無条件で感動してしまうシーンもある。少しネタバレになるが、50年前と全く同じロケ場所で、中村、秋野、田中の3人が同じようにボールで戯れるシーンがあるのだ。こんなことが出来る作品が他にあるだろうか。私は幸運にも4人にインタビューする機会を得たが、元気そうな姿を見て、50年後にこのメンバーが集まれて映画を作れたそのこと自体に、感動させられた。
しかも3人の風貌は50年分歳を取っているのに、表情は変わらず無邪気なのだ。そのシーンを見た瞬間、私は感動で鳥肌が立ってしまった。それぞれが懸命に生きてきたこと、そして過ぎてしまえば50年の月日はあっという間だったことなど、さまざまなことが無言のうちに伝わってくるからだ。
そして「人生の終盤くらい、少しわがままになってもいいから、自分のやりたいことを追い求めてもいいんじゃないか」、そんなメッセージを大ベテランの俳優たちが身をもって伝えようとしてくれていることにも感動するのだ。
シニア映画と決めつけることなく、ぜひ多くの世代に観ていただきたいし、願わくば60年目、といわず55年目でもいいからまた、その先の人生を見せてほしい。
