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20代から70代までの全体的な傾向として、移住に関心を持つ人の割合の数値は右肩上がりです。シニア層も増えています

 こう語るのは、ふるさと回帰支援センターを運営する公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構の広報企画室主任、平田美姫さん。

“次の暮らし”を探すシニア世代が増加

 コロナ禍をきっかけにした働き方、生活、価値観の変化が、移住への関心につながっていることが推測される。直近の事例をもとに、首都圏在住のシニア層の移住理由や相談内容をいくつか挙げてもらった。

・首都圏の夏は酷暑。涼しい北海道に移住したい。利便性を考えて札幌が候補地の一つ。交通面や生活コストのことなどを聞きたい

・東北で暮らす両親が高齢になり、介護を必要としている。親の近くに住んでサポートしていきたいが、仕事が見つかるかどうか心配

・旅行でよく訪れた長野で将来暮らしたい。実際暮らしていけるのか

・最近、法事や同窓会などで出身地の福岡へ帰省する機会が多くなった。故郷や人のつながりを大事に感じる年齢になり、Uターン移住に前向きになっている。住まい事情などを知りたい

 移住理由や心配事は多種多様ながら、移住先選択の条件に変化が見られるという。

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以前は、自然環境の良さが一番に求められていました。完全なリタイアを前提としたからだと思います。対して最近は、就労の場があることが重要視されるようになっています。元気なうちは移住先でも働きたいシニア世代の増加が読み取れますね」(平田さん、以下同)

 その傾向は移住希望地にも表れている。ふるさと回帰支援センターでは、窓口相談者などを対象に移住希望地のアンケートを実施。

 2024年は1万9000人余りから回答を得た。上位20位が発表されるランキングで2009年の調査開始以来、初めて東京都が14位となった。

年代別の移住希望地ランキングで60代だけで見ると、千葉、神奈川、東京がベストテンにランクインしました。首都圏がそろってランキングに並ぶのはこの年代のみです。

 都会のほうが仕事の選択肢が多く、医療面の充実や交通の便の良さなども備えているからでしょう。また、地方でも田舎より都市部への移住を希望する人もいます。これも同様の利点からだと思います

年代別での統計で60代は首都圏が人気上位で都会志向が顕著となった。ちなみに全年代では群馬県が1位、静岡県が2位、栃木県が3位。全年代で前回ランク外だった東京都も14位に上がっている

後悔しないための「移住ステップ」

 移住を考えたとき、どのようなステップを踏めばいいのか。まずは家族やパートナーと話し合い、理想の暮らしに必要な条件をリストアップ。優先順位をつけ、上位の条件に合致しそうな移住先を絞り込む。

「候補地には実際に足を運んでみることをオススメします。多くの自治体が実施する『移住体験ツアー』や『お試し住宅』などを利用し、地域の人の話を聞き、現地での生活を体験しましょう。暑さや寒さを体感してみるのも大切です」

 あとは、移住先での仕事や住まいに見当をつけておけば準備完了。いざ移住生活がスタートするという流れだ。

 シニアの移住で懸念される仕事探し。大きくは自治体の就職支援窓口や、ハローワークのインターネットサービスを利用して地方の仕事を探す方法がある。

『地域おこし協力隊』の制度を利用するのもひとつの選択肢です。都市から地方へ移住して、1年から3年程度、報酬を得ながら地域貢献活動に従事するもの。

 総務省が推進して活動内容はさまざまですし、制度自体に年齢制限はありません。また、任期終了後には約7割の人がその地域で定住しています

 住まいの問題は都市部では困ることは少ないが、地方の場所によっては確保が難しいケースも。

「その場合には自治体が運営する『空き家バンク』がおすすめ。空き家バンクとは自治体のホームページなどに空き家情報を掲載し、持ち主と移住希望者をマッチングするサービスです。物件の賃貸や購入が可能で、比較的格安な費用で済むものもあります」

 そのほか、東京圏から地方へ移住する場合、最大100万円の移住支援金をもらえる。国と自治体の制度でシニアも対象とされるが、各種条件にあてはまらなければならないのでチェックが必要だ。

地方でも働き先があり、医療や交通などインフラも整っている都市部が人気 ※写真はイメージです

成否を分けるのは人間関係

 実際に移住をした人で、働き口も決まったのに“落とし穴”があったという例も。

 Aさん(62歳・元会社員)は、定年を機に山々の連なる田舎への移住を決意。観光客の接客業で働き口を見つけ、ひと安心して移り住んだ。

 しかし、実際に働き始めると“シニアだから体力的に無理のない範囲で”と軽作業を想定していたが、繁忙期には朝7時から夜8時まで立ちっぱなしの接客業務。さらに冬季は仕事が激減し、収入が夏の半分以下に。

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 そこまでのシミュレーションができておらず後悔したという。さらに、職場の人間関係も想像以上に濃密で、地元出身者ばかりの中で“よそ者”として扱われることにストレスを感じ、わずか1年半で都会に戻ることを決めた。

 移住前に現地で短期アルバイトや職場見学をしておけば、こうした現実が見えていたかもしれない。

 新天地での生活に夢が膨らむ移住だが、すべての人にハッピーな暮らしが待っているというわけではない。成功のカギは何なのか。

コミュニケーションがカギを握ると思います。地域は共同体で、濃密な人間関係やしきたりがあったりするもの。移住後は積極的に交流を持つなど、自ら溶け込む努力も必要です。早く地域になじむために、お祭りやイベントに参加するなどコミュニティーの一員に加わるのも手ですね

 憧れだけで移住すると、こんなはずじゃなかった……ということになりかねない。事前の情報収集をはじめ、移住相談や移住体験などを行っていれば、そうした失敗は避けられることも多い。

「子育てや、親の介護、定年退職など、移住は人生のターニングポイントと重なるケースが少なくありません。ふるさとは自分が生まれ育った場所だけではなく、人生後半から腰を据えて暮らす場所も“第二のふるさと”となりえます。どうしたら豊かに生きられるかを考え、じっくりその地を探しましょう」

移住後に気づいた想定外事例

医療・介護

 専門医が遠方にしかなく、通院に片道2時間以上かかるケースも。夜間救急対応のない地域では急病時に不安が残る。将来必要になる介護施設の空きが少なく、入居待ちが数年単位。

地域の慣習

 町内会の役目が頻繁に回ってくる、地域行事への参加が半ば強制など、想像以上に時間と労力を取られる。ゴミ出しの分別ルールが細かく複雑、収集日も限られて都会との違いに戸惑う。

近隣関係

 小さなコミュニティーはプライバシーへの感覚が都市部と異なり、干渉されすぎてストレスに。話し相手が少ないため孤独感があり、都会の友人関係を失って後悔する場合も。

移住成功のカギは地域でのコミュニケーション。イベントに参加するなど積極的に ※写真はイメージです

物件トラブル

 空き家バンクの物件が、実際には大規模修繕が必要で想定外の出費が発生。売却も困難で“やはり戻りたい”と思っても、購入した家が売れず身動きが取れない。

交通の不便・買い物難民化

 スーパーが車で30分以上、移動販売も週1回のみで食材の選択肢が限られるということも。バスの本数が少ない地域では、免許返納後の生活が困難に。

生活コスト

 避暑目的で移住したが冬の雪かきが重労働、寒冷地の暖房費が想定外に高額。車が必須で維持費がかさむ、灯油代や除雪費用など、地方ならではの出費が予想以上に。

災害、害獣・害虫問題

 土砂災害警戒区域に気づかず移住、豪雨時に避難が困難な立地だったということも。クマやイノシシ、スズメバチなど都会では経験しなかった被害にも悩まされる。

教えてくれたのは……「ふるさと回帰支援センター・東京」●全国約650の自治体と連携し、移住に関する情報提供、相談業務、セミナーやイベントなどを行っている。東京・有楽町駅前に事務所を構え、移住相談は無料。電話やオンラインでの相談も可能。公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構が運営している。https://www.furusatokaiki.net/


取材・文/百瀬康司