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「認知症の予防・改善に有効な運動の代表として、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動が挙げられます。運動の強度は、脈拍が1分間に110から120を超えない範囲で、軽く汗ばむ程度がよいとされています。

 記憶や空間認識、ストレス抑制などの認知機能に関わっている脳の海馬は、年とともに萎縮し始める。ところが、運動を習慣にすることで、脳内の細胞が若返ることがわかっています

 と話すのは、脳神経外科医の篠浦伸禎先生。

運動で認知症やうつ病など脳の病気を予防

 運動と認知症の関係には、さまざまな研究がある。例えば、記憶障害のある高齢者が6か月間の運動プログラムに参加したら、認知機能が改善したという報告が。

 1970年代から20数年にわたるフィンランドの調査では、少なくとも週に2回以上運動していた人は、そうでない人に比べて認知症になる確率が50%低いこともわかっている。

 運動と脳の関係については、次のような話もある。

「動物実験では、運動により海馬の神経再生が促進され、学習能力が高まると報告されています。人の場合でも、運動すると脳の血流が増加し、その結果、海馬の体積が増加すると考えられています。

 心臓の機能も向上し、全身の血流が増加するため、脳にさらに血液が送り込まれる。脳機能を良好な状態に保つので、うつ病や脳血管障害などの脳の病気にも効果があります」(篠浦先生、以下同)

 軽く汗ばむ程度の有酸素運動は、身体にちょうどよい負荷を与え、免疫力などを高める。これはホルミシス効果といわれており、適度なストレスは健康上必要な要素。 

太極拳やヨガで認知症のリスクを軽減

 また運動は、筋肉内で活性酸素を発生させる。活性酸素も免疫力アップを助ける働きがあるが、過剰になると正常な細胞を傷つけてしまい、老化や動脈硬化などの原因になってしまう。

「つまり、全力のジョギングより速足程度の軽い運動のほうが、身体にも脳にもいいということです。私は、『3分速足3分ゆっくり』を繰り返すウォーキングをすすめています。足腰の筋肉も鍛えられるので、要介護状態になるリスクも低くなります」

 ウォーキングのほか、太極拳やヨガにも認知症を予防する効果があるようだ。

イラスト/石山綾子

「どちらも身体全体を連動させる動きが特徴で、バランス感覚が鍛えられます。これにより右脳の頭頂葉が活発になり、空間認知や感覚情報などの高次認知機能が維持されます。右脳が働くと、論理的思考や計算能力を司る左脳にもいい影響を与え、脳全体の機能が改善するわけです」

 太極拳は元来、武術でもあり、全身の筋力アップにもなる。一方のヨガは全身を使ってポーズを保つため、柔軟性が鍛えられる。

「中高年になると薬の服用が増えてきますが、それは対症療法でしかない。本当の健康を維持するために、運動や食事で従来の身体エネルギーを上げていくべきです。無理をせず、自分に合ったペースで運動は続けてほしいです」

 運動が苦手な人は、篠浦先生が実践する体操も教えてもらったので、ぜひ、チャレンジしてほしい。

脳機能を改善する運動3選

 これらの運動は、医学的にも効果が実証されており、脳の血流を増やし、脳機能を向上・維持させます。いずれも無理のない範囲で、身体が汗ばむ程度行うとよいでしょう。

脳機能を改善する運動3選 イラスト/石山綾子

速足ウォーキング

 ゆっくり歩くのでもジョギングでもなく、「少し息が弾むが、会話はできる」くらいの強度がベスト。「ゆっくり歩き(3分)+速歩き(3分)」を繰り返す「インターバル速歩」はさらに効果的。1日15~20分を目安にして。

太極拳

「ゆっくりした動作」「腹式呼吸」「体幹の安定」を意識して、片足立ちや重心移動を行う。バランス感覚、精神の安定、転倒予防も期待できる。型がある運動なので、初心者は「24式太極拳」「簡化太極拳」を調べて、始めるとよい。

ヨガ

 古代インド発祥の修行法で、「ポーズ」「呼吸」「瞑想」を組み合わせたもの。深い呼吸をしながら、さまざまなポーズをとる。心が落ち着き、脳のストレスを軽減させるので、不安感や不眠を解消し、集中力を高める効果がある。

手軽に家でできる「脳トレ」体操

 いきなり脳機能を改善する運動を始めるのはハードルが高いという人は、ちょっとした時間にできる心身活性体操をご紹介。座って行っても、立って行ってもOK。

 イスに座って行うときは、足の裏がしっかり地面に着くように浅く腰かけ、立って行うときは、足を肩幅に平行に開き、膝を軽く曲げた状態で行います。

 最初は1つの体操を8回(1セット)でいいので、まずは始めることが大事。慣れてきたら、各4セットを目標に。

手軽に家でできる「脳トレ」体操 イラスト/石山綾子

かしわ手体操

(1)脇を締めて両手を開き、指先に力を入れ、胸を広げる。
(2)両手を目の前でたたき、再度、胸を広げて両手を開く。
(3)1、2を繰り返す。両手を開いたとき、ひじを後ろに引かないように。肩甲骨を寄せるように意識する。

山登り体操

(1)片手をまっすぐ上に伸ばし、もう片方の手は肩の位置まで上げる。
(2)両手の指に力を入れて、岩をつかみながら山をよじ登るイメージで、交互に腕を伸ばす。これを繰り返す。

羽ばたき体操

(1)ひじを曲げて肩の高さまで上げる。手はグーにして握り、肩甲骨を寄せるように胸を開く。
(2)ひじを脇腹に押し当てるように下げ、鳥が羽ばたくようにひじを上下させる。これを繰り返す。

バンザイ体操

(1)バンザイをしてひじを伸ばし、両手の指は開く。
(2)両手を勢いよく下ろし、パンと音が出るくらいに太ももをたたく。
(3)1、2を繰り返す。バンザイするときは、ひじが耳につくくらいしっかり腕を伸ばす。

教えてくれたのは……篠浦伸禎先生●東京大学医学部を卒業。米シンシナティ大学分子生物学部に留学後、都立駒込病院脳神経外科部長を務める。覚醒下手術の第一人者として活躍する一方、食事療法や代替医療にも取り組み、根本治療を実践。現在は篠浦塾を設立し、西洋医学にこだわらない統合医療を推進している。


取材・文/佐久間真弓