「春は、新年度に伴う環境の変化で不安を感じる人が多くなります。就業者なら自分の異動、あるいは職場に新しい人が来る、そのほかパートナーの転勤、子どもの進学や就職といった身辺の慌ただしさに、心がついていけなくなってしまうのです」
こうした不安が大きくなると、「全般不安症」という病気に至るケースがある、と言うのは精神科医の清水栄司先生。
周りの事柄すべてに不安を感じてしまう
「『全般不安症』とは、特定のことに限らず、さまざまな事柄について不安になる、こころの病気です。その不安によって疲れやすい、眠れない、緊張するといった症状が現れます。その原因は遺伝、環境、そして生活習慣と考えられます。ただ遺伝については、ほかの病気ほどはっきりしたものではなく、遺伝より環境や生活習慣のほうが大きいと思います。
環境は、生育環境と今の環境の両方が影響します。虐待や両親の不仲などがある家庭だと、いつも不安を抱えながら育つことになります。また、今の労働環境が厳しい場合だったりすると、不安の大きさは全く違います。生活習慣というのは、考え方や行動パターンのこと。不安の強い人は、不安を増強させる思考のクセのある人が多いのです」(清水先生、以下同)
これらの複合的要因が重なって、全般不安症が誘発されるという。
全般不安症の症状は、大きく3つある。
(1)6か月にわたり、毎日不安が続いている。
多くの人は新しい職場で不安であっても、だんだんと慣れるもの。それが半年間、毎日不安となると、病気のレベルに。
(2)いろいろな物事に不安を感じている。
一つのことに終わらず、次々と不安の種を見つける傾向がある。例えば、自分の職場の心配が大丈夫となったら、今度は子どもの学校のことなどに不安を感じる。さらに、親の介護など、不安がどんどん別のことに移っていく。
「これを浮動性不安といいます。不安が浮いているように、あちこちに移っていくのがポイントです」
(3)特定の症状が現れる。
疲れやすい、集中できない、眠れない、気持ちが落ち着かずに緊張している、イライラして怒りやすい、精神的要因で筋肉が緊張している。このうち、3つ以上そろうと診断基準になる。
「全般不安症は『GAD―7』という質問票で、セルフチェックできます。名前のとおり7問のチェックシートです。1問3点の21点満点中、10点以上だと全般不安症が疑われます。8点や9点の人は、診断がつかないかもしれないけれど、全般不安症予備群。放っておかずに、今のうちから不安の対処法を知ってほしいですね」
女性は共感性が高く不安になりやすい?
実は全般不安症は、男性よりも女性のほうが多く、その発症頻度は倍以上とか。
「その理由は主に2つ。1つは女性のほうが、性ホルモンの影響を受けやすいから。うつ病やパニック症も女性のほうが多い。もう1つは、女性のほうが共感性の高い人が多いとされているからです。もちろん個人差はありますが、一般的に男性のほうがドライな面があります。
例えば、震災や災害などの映像を見ると、自分も不安になったり、つらくなったりしてしまう。それを共感疲労といいますが、それも女性のほうが多い傾向にあります」
全般不安症と診断されたら、重度の場合は薬物療法も必要になるが、認知行動療法(考え方や行動のパターンを修正し、不安を改善する心理療法)に基づくストレス対処を実践する。その第一歩は、「不安を理解する」ことだ。
「不安を点数化したり、不安はだんだん慣れることができるなどを知って、まず“不安”について学ぶことから始めます。不安の点数化とは、今の不安に点数をつけて、それが60点なら、『100点の不安と比べて、まだまだ大丈夫』と自分で不安の程度を知ること。また、不安に慣れるとは、『段階的曝露(ばくろ)』という技法で、不安や恐怖を感じる状況にあえて身をさらして慣れていくことです。
そして、不安を学ぶと同時に、高血圧や糖尿病と同様に、正しい睡眠や食事、ストレスの対処法といった生活習慣の指導もします。特にストレスの対処法は大事。なにしろ全般不安症の人の考え方や行動は、不安を長続きさせるクセがついているので、それを見直していきます」
軽度の全般不安症や全般不安症予備群は、自分でもケアできる。そのおすすめの方法が「RIBEYE(リブアイ)メソッド」「ぽじれん」「呼吸法」の3つだ。
「全般不安症の人は、同じ悩みをずっと考え続けてしまいますが、それが余計に不安を強めます。そのぐるぐる考えてしまう思考をやめて、ベストな解決策を決めようというのが『リブアイメソッド』です。悩んでいると何が問題かわからなくなるので、まず問題をはっきりさせて、解決案をどんどん挙げていく。それらのメリット、デメリットを分析、点数評価して、そこから1つ選んで実行する。この間15~20分。24時間考えていると不安に押しつぶされてしまうので、短時間で終わらせるのがポイントです。
そして、そのぐるぐる考える時間をポジティブな感情に使おうというのが『ぽじれん』です。生活の中で起こった良いことを3つ書くシンプルな方法ですが、書くことで、ポジティブな感情を思い起こしてもらいます。
リラックスのための『呼吸法』を行うと、身体の緊張がほぐれます。息を吸うことに集中してしまいがちですが、吐くほうに集中してほしい。6秒一呼吸が基本です」
過度な不安は病気を招くが、不安自体は生存するために大切な感情とのこと。
「不安はいけない感情ではなく、大事なのは、不安とうまく付き合うことです。そのためには、まず自分の感情を理解する。そして自分が何を大切にして生きているのかを考えたうえで、不安を取り除こうとするのではなく、心のスペースを広げて受け入れましょう。自分の大切なことに、人生の時間を使ってもらいたいですね」
心がざわついたときこそ、自分を整えるチャンスなのかも!
自分でできる不安解消法
RIBEYE(リブアイ)メソッド
考え続けることをやめて、ベストな解決策を決める方法。
(1)リラックス
(2)問題を明らかにする
(3)解決案をリストアップ
(4)メリット・デメリットを点数化
(5)解決策を選ぶ
(6)実行する
この手順で進めると、15~20分でアクションプランを決めることができる。
ぽじれん
ポジティブに考える練習。
(1)できたこと
(2)うれしかったこと
(3)感謝したいこと
上記3つを書き出すことで、達成感や楽しい感情、思いやりの気持ちを思い出す。どんなささいなことでもOK。小さな良いことに気づく習慣がつくと、ネガティブな情報ばかりを気にする偏りがなくなってくる。
呼吸法
強い不安を感じているときは身体が緊張しているので、「ゆっくり呼吸」で心身をほぐす。頭の中で「リラーックス」と唱えながら、3秒かけて息を吐く→3秒かけて息を吸う、を繰り返す。吐くほうに意識を集中して、6秒一呼吸を5分程度続ける。
不安とうまく付き合う3つのコツ
(1)自分の感情を理解する
「恐怖」は対象がはっきりとわかっている感情ですが、「不安」は曖昧な危険に対して起こる感情。その不安な感情を「100点中60点」などと点数化する。不安だけでなく喜びや怒りなど、ほかの感情に気づいてバランスを取る。
(2)価値観のエクササイズを行う
不安になったら、「自分が何を大切にして生きているか」という価値観を確認。「ワーク」「ライフ」「休み・健康」「人間関係」の4つについて、自分が大切に考えていることを書き出し、0~100点で評価する。さらにその満足度を上げるアクションプランも書く。
(3)不安を受け入れる
不安を取り除こうと思うのではなく、そのまま受け入れる。自分の心の中に余白をつくり、ネガティブな感情の居場所をつくる。呼吸法で、息を吸うときに、自分のおなかや胸を広げて、いろいろなものを受け入れるイメージをするのも有効。
教えてくれたのは……清水栄司先生●精神科医、千葉大学大学院医学研究院教授。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター教授。千葉大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院精神神経科、プリンストン大学留学などを経て現職。2016年には千葉大学医学部附属病院に認知行動療法センターを設置、センター長を務める。不安症、認知行動療法のスペシャリストとしてさまざまなメディアに出演。著書・監修書多数。『「いつも不安で頭がいっぱい」がなくなる本』ディスカヴァー21(税込み1870円)
取材・文/池田純子

