島本理生さん 撮影/北村史成

 臨床心理士の真壁由紀は、父親を刺殺した女子アナ志望の女子大生・聖山環菜に関するノンフィクション本の執筆を依頼された。自身の過去を振り返りつつ、環菜とその周辺の人々と接するうちに、意外な真相が明らかになっていくが……。

 第159回直木賞に選ばれた島本理生さんの最新作『ファーストラヴ』(文藝春秋)は、家族という名の迷宮を描いた傑作長編だ。

女性が女性を救う物語を描きたかった

これまでいろいろな形の恋愛小説を書いてきたのですが、次第に女性のなかには恋愛では救いきれないものがあると思うようになりました。今回、いちばん最初にあったのは、男性には理解できない女性の心理や問題を女性が救う小説を書きたいという思いでした

 物語は臨床心理士である由紀の視点で綴られている。島本さん自身、もともと心理学や精神医学に関心があったのだという。

「10代のころ、図書館の心理学のコーナーで臨床心理学の本に出あい、小説と並行して読むようになりました。例えば、あまりにもショックな出来事を経験すると人は記憶がなくなるとか、その記憶が10年後、20年後に突然よみがえることもあるとか。そんなことが人間の脳に起こるなんてと衝撃を受けるとともに、おもしろさを感じました。

 これまでの小説は恋愛メインのものが多かったのですが、以前から心理学や精神医学を通して主人公の内面を探っていくような、スリリングな展開の小説にも挑戦してみたいと考えていました」

 別の作品の取材で訪れた裁判傍聴の経験も、本作に大きな影響を与えることになった。

当時、傍聴していたのはとある殺人事件の裁判だったのですが、報道されていることと裁判の現場でわかる話はまったく違うことを知りました。外側から見ただけでは、当事者たちに何が起こり、それぞれが何を考えてどういう行動をしているのかが全然、わからないものなんです

 そして、複数の裁判を傍聴するうちに、裁判自体にも興味をひかれていった。

「例えば、被告人が“自分がやりました。すべて検察官の言うとおりです”と認めていればいいのですが、被告人は“殺してません”、検察側は“殺しました”となった場合、お互い、その根拠を立証していきます。そうなった場合、被告人が殺人を犯しているのかそうでないのか、正直なところ私には判断かつかない事件もありました。そうした裁判を傍聴するうちに、弁護側と検察側の主張が真っ向からぶつかるような場面を書いてみたいと思うようになりました