本書には、環菜の危うげな男性遍歴や、環菜の国選弁護人で由紀の学生時代の同窓生であり義弟でもある、庵野迦葉と由紀との若かりしころの出来事も描かれている。タイトルの『ファーストラヴ』には、次のような思いが込められているのだそうだ。

例えば、愛情のように見せかけて実は身体が目当てだったりとか、特に若いころには、恋愛と見せかけた危ないものが周りにたくさんあるものです。そのため、恋愛とは似て非なるものを混同している女性って、実はすごく多いんじゃないかと思うんです。“あのときの恋愛は実は恋愛ではなかったのかもしれない” “本当は悲しい気持ちを押し殺していたのかもしれない”。読んだ方に少しでもそうした気づきがあればと思い、この小説に“初恋”という意味のタイトルをつけました」

『ファーストラヴ』島本理生=著(文藝春秋/税込1728円) ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】インタビューを受ける島本さん

ライターは見た!著者の素顔

 息子さんが小学生になり、生活がにわかに忙しくなったという島本さん。「朗読の練習など毎日、宿題が出るのでそれを見たりとか、やることがたくさんあるんです。リビングのテーブルで私がゲラに赤字を入れ、その隣で息子が宿題をしたりしていて、こういうのもわりと楽しいかもしれないと思うようになりました。息子自身は大変だと思うのですが、日々、成長が見られるのはおもしろいですね。元気に健康に、普通に働く人に育ってほしいです(笑)」。

しまもと・りお◎1983年東京都生まれ。2001年『シルエット』で群像新人文学賞優秀作を受賞。2003年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、2015年『Red』で島清恋愛文学賞受賞。『ナラタージュ』『真綿荘の住人たち』『アンダスタンド・メイビー』など著書多数。

(取材・文/熊谷あづさ)