故人をゆかりの地へ……新サービスが人気

 葬儀サービスにおける最前線のトピックをもうひとつ紹介したい。神奈川県川崎市の葬儀社が開始した新サービス『故郷に帰ろう』をご存知だろうか? 主な取り組みは故人のゆかりの地などに遺体を搬送することで、ジワジワと注目度を高めてきている。利用した女性(75)に話を伺った。

「小さいときは狩野川で遊んだんだとか、沼津のアジのひらきは最高だって、折に触れて地元・静岡の話をよくしていました。私にうるさく言うこともなく、自由にやらせてくれるいい主人でした」

 そう静かに心情を吐露するのは内田美紀さん(75、仮名)だ。今年8月、長年連れ添った夫をがんで亡くした。

「夫が亡くなる少し前から葬儀のことを家族と相談していたのですが、遠方の親族は高齢で体調が悪く呼べない。ごく少数の身内による直葬ですませようと思っていました」

 と内田さん。そんなとき娘が『故郷に帰ろう』というサービスを見つけたという。

 同サービスは、故人のゆかりの地などに遺体を搬送する新たな取り組み。提供するのは川崎市にある葬儀会社『花葬』。同社の大屋徹朗社長は、

「近年では故人の親族も高齢化し、本当に近親者のみで葬儀を行うケースが増えています。故人が地方出身者の場合、遠方の親族を呼ぶことが難しい。でも、最後にひと目会いたい。火葬場は混雑し待機時間も長期化している。だったら、その時間を利用してゆかりの地などに連れて行ってはどうかと思ったんです」

 とサービス開始の経緯を明かす。生前には親孝行できなかったから、せめて最後ぐらいはと、葬儀を簡素にすませるかわりに、同サービスを利用する人もいるという。

 前出の内田さんは「沼津へ行きたい」と話していた夫の願いを叶えてあげられなかったことを後悔していた。

「車を運転していても沼津ナンバーを見ると“おっ、沼津だな”とうれしそうに言うぐらい地元が大好きでした。だから主人が生まれ育った沼津にどうしても連れて行ってあげたかったんです」(内田さん)

 息を引き取った翌日の昼、内田さんは夫の亡骸と一緒に車に乗り沼津へ向かった。

「主人がよく話していた千本浜公園や小さいころに遊んだ神社へ行きました。棺は降ろせませんが、窓を開けて“着いたよ”と声をかけました」

 夕方には実家へ到着。遺体と対面した義弟の様子を内田さんが続ける。

「“具合が悪くて行けずに申し訳なかった。にいちゃん、お帰り。まさか会えるとは思わなかった……”と涙ぐみながら話しました。主人が好きだったアジのひらきを供えてくれました」

 1泊して翌日には帰路についた。義弟も、すっきりした表情を浮かべていたという。

「主人が本当に望んでいたかわかりませんが、よかったでしょ? と聞いたら“よかったよ”と言ってくれると思います。夏場でしたがドライアイスもしっかり入れてくれて問題ありませんでした。料金も7万円と良心的な価格ですし、いい供養ができました」

 同サービスは関東近郊を中心に展開しているが、青森県や山口県まで搬送した実績もある。料金は川崎から青森までは約20万円。山口なら約26万円だ。高速料金だけは別途必要になる。大屋社長は、

「正直、あまり利益はありません。スタッフも2人同行しますし宿泊費も会社負担。ただ、お客様から“親孝行ができました”と言ってもらえることがうれしい。ケースによっては応じられない場合もありますが、可能な限りお客様に寄り添っていきたい」