■横並びディナーで夫婦の関係を改善

 西田さんは“定年塾”と名づけた集まりを10年以上も開催している。この“定年塾”の目的は、定年後の暮らしをより豊かにし、風通しのいい夫婦関係を作ることにある。

「定年塾の参加者は、夫婦もいれば、ひとりの方もいます。参加者には必ず話してもらうんです。例えば男性なら、自分が定年前に会社でどういう仕事をしていたか。どんな立場で、どういう人間関係があったか。そういう話って、女性は聞いたことがないんですよ。そこで初めて、テレビと昼寝だけのオジサンじゃなかったことがわかります。これからはもう少しやさしくしてあげよう、妻は反省するんですね。団塊世代の妻との平均会話時間は5分と言われているぐらい。夫婦といっても本当に互いのことを知らない」

 定年夫との関係に悩む妻たちに、西田さんが必ずしているアドバイスがある。

「どんな小さなケンカでもそのままにしないで、まじめに話し合うこと。ささいなことも後で積もり積もって大変なことになりますから。話し合うのに家の中はダメ。きちんとおしゃれして夫婦で出かけます。ホテルのレストランみたいな場所がいいわね。そして、横並びに座る。向き合うと冷静になれないものです」

 定年は先の話だと思っている熟年世代も油断は禁物。夫の教育は早く始めるほど効果的なのだと言う。

「現役時代に仕事をやって家に帰るだけでなく、男は(趣味と)二足のわらじをはいたらいいんです。会社と家庭の往復以外に自分の大切な時間を持つ。子どものころ、貧しくて習えなかったピアノをやるとか、コーラス、演劇、何でもいい。年だからってあきらめるなんてもったいないわよ、と夫に言ってあげる。そうやって、二足のわらじをはいてきた人は定年後の生活も楽しそうですよ」

 夫婦の老後は、妻の腕次第ですね!

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『妻と夫の定年塾Ⅴ』1300円/中日新聞社
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■取材後記「著者の素顔」

「ミステリーが好きで、昔はミステリーを書いていたの。今も書きたいんだけど、毎週連載をやっているから時間がなくて。80歳で直木賞とかカッコいいじゃない? でもあと7年ぐらいしかないから、急がないとね」と西田さん。実は、美大に入ったのも41歳のときなのだとか。「100人入って4人しか卒業しない」通信制を卒業できたのは、持ち前の負けん気の強さゆえだと笑う。「何歳から始めても遅くない」という台詞も、西田さんが言うと説得力を持ちます。

(取材・文/ガンガーラ田津美 撮影/齋藤周造)

〈著者プロフィール〉

にしだ・さよこ 1941年、東京都生まれ。作家。「定年塾」主宰。武蔵野美術大学卒業。定年後の夫婦の生態を新聞に連載し、「みのむし夫」「こたつむり妻」などの造語で話題を呼ぶ。著書に『定年漂流』『定年夫は、なぜこんなに「じゃま」なのか?』ほか、多数。全国各地で講演をしている。

「定年塾」http://www.t-net.ne.jp/~t-teinen/