悲しむことはじっくり時間をかけないとできない

 本書にはレッスン1の『歓ぶ』から、レッスン12『想う』まで、全12章が掲載されていますが、五木さんは今の時代に欠けていることは、レッスン2の『悲しむ』ことだと言います。

「世間っていうのは、何か2つあると、片方は大事で片方はダメとか、黒と白に分けて考えがちなんですが、喜ぶことと悲しむことは両方とも大事なんです。最近はみんな面白がるけれど、ちゃんと悲しむことは苦手ですよね。

 例えば何か事件が起こったとき、翌日にはもう違うニュースが出て、みんな忘れてしまうということがある。それは喜ぶことは瞬発的にできるけれど、悲しむことはじっくり時間をかけないとできないからなんです。今はじっくり悲しんでいる暇なんてないんですよね。でもそういう事件を見て思わず涙する、悲しむ、ということが大事だと思います

人生100年どう生きていいのか、古典にも書いてない

 また未曾有の高齢化社会に突入し、健康や長生きについて誰もが悩む現代。本書も老いに関するトピックスが取り上げられています。

「人生50年と言われた時代から、今では人生100年の時代に入ってきたわけですね。そうすると、50年終わってから残りの50年、倍の時間を生きなきゃいけないわけですから、どう生きていいのか、古典を見てもどこにも書いてないんですよ。人生100年はまったく未曾有の荒野で、そこにはともしびも何もない、道もないんです。

 今はそこを手探りで生きていかなきゃいけないということに、みんなが気がつき始めた。老いていくってことは本当に大変ですよ。しかも世の中にはテロのような、自殺よりも他殺がわれわれの周りにあふれているような時代で、死が非常に身近なものとしてある。そこでどう生きていくか?

 そう考えると、若者よりも高齢者が希望を持って生きていくほうが10倍難しい。先が見えてるし、友達もどんどん減っていく。でもそういう状況になってから慌ててもダメで『生きるヒント』では、早めに準備することだったり想像することが大事ということを書いているんです。ただ今の時代、生きるって大変なことなんですよ。それについてはレッスン12『想う』を読んでいただければと思います」